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88・芸がねえなと思ったら

「なんで……!? なんで、なんで糸が!? ……ぅえっ……げほっ……げほっ!」





糸は、先程飲んだ聖水と思われる水分と共にキャサリンさんの口からどんどんどんどん吐き出されます。



キャサリンさんが吐き出した糸は、まるで意思を持っているかのようにグネグネと動き、いつの間にか舞台中に広がっていったではありませんか!?



そして、意思を持った糸は、キャサリンさんにジワジワとまとわり付き始めました!





「キャサリンさん!!! あの、これ、これが大地の精霊を宿すってことなんですか!? こんなの……まるで『蜘蛛の巣にかかった蝶』みたいじゃないですか!!!!」





私は居ても立ってもいられず、前の方の座席にいるヒンドリー卿に『どういう事やねん!?』と掴みかかりに行きました。



そんな私の後ろにはシドウさんとロマンさんとリヒトさんも付いて来てくれます。



他の方々は、目の前で起こっているのが『緊急事態』なのか『それともまた【書き換え】のような手品』なのか『それとも大地の精霊を宿すってこう言うことなのかなあ』とでも言いたげに放心状態となっており、固まっておられました。





「ヒンドリー卿!!! これ大丈夫なやつなんですか!? アレですか!? キャサリンさんは特殊な訓練を受けてるから大丈夫的なやつなんですか!?」





下腹部を押さえながら苦しげに舞台に倒れ、ひたすら糸を吐き出し続けるキャサリンさんを前に、私はヒンドリー卿の胸ぐらを掴んで



「どやねん!? オイ!!! 答えろやオッサン!!!!!!!」



と強く揺さぶりました。





「……なんだ、これ」





ヒンドリー卿は舞台の上で糸を吐き出し続けるキャサリンさんを見ながら、そう言いました。





「シロツメ様の時は……こんなんじゃ…………まさか、まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか!!!!!!」


「は? 何やねんお前急にってうわっ!!!!」





ヒンドリー卿は胸ぐらを掴んでいた私を突き飛ばしました。





「プロメ!!」





突き飛ばされた私をシドウさんはギュッと抱きとめてくださいます。





「シドウさん、あの、これ、これも手品なんですか!?」


「知らん……。こんな手品、聞いたことねえぞ」


「うそ……」





シドウさんは愕然とした顔をされています。



その後ろのロマンさんとリヒトさんも、完全に思考停止した様子で口を開いたまま固まっておられました。



そんな時です。



隣の座席に座っていたエンジュリオス王子の胸ぐらを掴み上げたヒンドリー卿の怒号が、劇場内にビリビリと響きました!





「貴様エンジュリオスゥゥゥウウウウ!!!!! 貴様!!!!! 貴様まさか!!!!」





謎にブチギレるヒンドリー卿に胸ぐらを掴み上げられたエンジュリオス王子は、いつも通りニコニコと人の良さそうな笑顔を浮かべて




「え? 僕、何かやっちゃいました?」




と呑気にお答えされました。



そんなエンジュリオス王子に掴みかかるヒンドリー卿を背後からシドウさんが引き剥がし、




「喧嘩してる場合じゃねえだろお前ら!!!! 今すぐここにいる奴ら避難させろ!!!!! 劇場中が糸まみれになる前に!! 早く!!!」




と怒鳴ります。



その怒鳴り声のあと。





「ロマンくん、水守りの膜を張って避難誘導に努めてくれるかな? 今はクローバーランドの閉園時間だけど、まだ残ってる一般客もいるからさ。その人達の避難誘導も頼むよ」





ヘンリエッタ様が優雅にこちらへ近付いて来て、ロマンさんに指示を出しました。



こんなワケのわからん緊急事態でも、ヘンリエッタ様は相変わらず優雅に笑っておられます。


一体何なんだ、この人は……。





「は、はい! ヘンリエッタ局長!!」





ロマンさんはすぐに水の加護人として守りの魔法を発動させ、避難誘導をしている警察騎士達と共に動き始めます。





「!? 糸が……糸がどんどんこっちに!!」





キャサリンさんは舞台に倒れ、意識を失っておられるようです。


開かれた口からは糸がどんどん溢れ出て、その糸は私達がいる観客席まで迫って来ました。



避難している人すらも絡め取ろうとしてくる糸を、リヒトさんは風の加護人の魔法で出現させた二対のサーベルで、切り落として行きますが……!





「!? ぅ、ぐ……これは……強酸なのか!?」





捌き切れなかった糸が肩を掠めたのか、糸はリヒトさんの制服の肩の部分は皮膚と共に焼き入れてしまいました。





「リヒト先輩!!!」





エンジュリオス王子に掴みかかる半狂乱のヒンドリー卿を背後から羽交い締めにするシドウさんは、肩に火傷を負ったリヒトさんの名を呼びました。





「心配無い!! お前達も早く逃げろ!! 退路は俺が護ってやる!! だから早く!!」


「あ、ああ! ほら行くぞ!! ヒンドリーのオッサン!! エンジュリオス王子もヘンリエッタ様もプロメも!!!」





シドウさんは「エンジュリオス貴様!! 貴様よくも!!!」と叫び暴れるヒンドリー卿を羽交い締めにしたまま頭突きをかまし、一撃で昏倒させました。





「うわ〜! すごいねシドウさん! 強い強〜い!」


「……エンジュリオス王子……お前、一体何を」


「今そんな事言ってる場合? 逃げなきゃ強酸の糸で全員焼け死ぬだけだよ?」


「テメェ……」





エンジュリオス王子はそう言って、「それじゃ、逃げようかプロメさん」と私に手を差し伸べてくれますが、その手を掴んだのは……




「他国の王子である貴方の身柄は、この私にお任せくださいませ」




と涼しい声で言ったヘンリエッタ様でした。





「それとも、私ではご不満ですか?」


「………………いいえ! そんな事ないですよ! よろしくお願いしますね、ヘンリエッタ様?」





エンジュリオス王子はヘンリエッタ様に連れられ、避難民の流れにそってこの場を後にしました。



残された私と、頭突きの一撃で昏倒したヒンドリー卿を引きずるシドウさんは、急いで舞台から離れて逃げようとします。


でも、糸はどんどん勢いを増していき、逃げる人々……というか私!? 私を狙って来たではありませんか!?





「え、え?」


「!!! プロメ!!! 危えッ!!!」


「うわぁっ!!!」





ヒンドリー卿を捨てたシドウさんは、私に飛び付くよう抱き込むと、地面に転がり受け身をとって糸の襲撃を回避されました。



でも、私のいた場所……近くにあった座席は……糸に触れたところが……。





「と、溶けてる…………え、え!?」


「この糸、何でプロメを……って考えてる場合じゃねえ!! プロメ!! 今すぐ半透明で中に浮いてくれ!! そうすりゃお前は安全だ!! だから! 早く!!!」


「!! はい!!」





私は左手の手袋を外し、シドウさんに手を差し出しました。


シドウさんはすぐ私の左手の甲に口づけられます。



そして、ふうっと気を失ったら。





「……すみませんシドウさん。私だけが逃げるような形に……」





私はシドウさんの肩に手を添えながら、半透明で宙に浮いていました。





「気にすんなプロメ。……って!!! おわっ!!! 今度は俺かよ!!!!」


「シドウさん!! 多分狙いは私です!! 何でかわかりませんが……きっと私を狙っているのでしょう!!」


「クソが……ッ!! なんでプロメを!?」





シドウさんは襲い来る強酸の糸を確実に避けながら言いました!!





「リヒト先輩!!! この糸の狙いは俺達だ!!! 俺達はここに残るから、先輩はヒンドリーのオッサンを連れて逃げてくれ!!!」


「……わかった!! 任せろシドウ、ボロネーゼ!!!! 絶対に死ぬなよ!!! 俺が倒す前に死んだら許さんぞ!!!」





リヒトさんは昏倒しているヒンドリー卿を担ぐと、暴風と共に劇場の階段を飛び上がり素早く逃げてくれました。





「……なあプロメ。……ここまで来たら、あとの展開はわかるよな?」


「……ええ。……少なくとも、酸の糸で服をドスケベに溶かされたシドウさんがドスケベなことになる私だけが得する展開になることだけは違いますよね」


「冗談言う気力があるなら安心だ!!!」





ルイス戦のとき、自ら毒を飲んで血を大量に吐いたルイスは血の塊と共に風の精霊シルフを吐き出しました。



その風の精霊シルフは、何故か私に強い敵意を持っていたのです。



それと似たようなことが、今起きている。



いや、ルイスの時よりも、ずっと現実離れした光景が、舞台の上にありました。




舞台や劇場中に張り巡らされた意思を持つ糸は、キャサリンさんを食い尽くすように覆いかぶさると、どんどん大きな繭のように大きくなっていきます。



そして、キャサリンさんを包む巨大に膨れ上がった繭は糸によって宙に持ち上げられました。





「まさか……また、ですか?」


「ああ。……これが、俺達のボス戦ってワケらしい」





糸によって宙にぶら下がった繭を、ニョキりニョキりと半透明でトゲまみれの触手が突き破って現れました。


トゲまみれの触手はどんどん繭を突き破り、グネグネグネグネグネグネとさせたあと、触手同士を絡め合い、太い八本の束を作り出します。





「この半透明で宙に浮いてるグネグネした触手……やっぱり…………大地の精霊ノームってことですかね……?」


「だろうな。……でも、またクラゲ野郎かよ。……芸のねえこって…………!?」





またクラゲかよ芸がねえなとシドウさんと同じことを思ったその時です。



細かい糸で出来た繭はブチブチブチブチと八本の触手によって引きちぎれ、姿を現したのは確かに風の精霊シルフと同じクラゲ野郎……でした。でも。




ドスンッッッッッッッッッッッ!!!!!!!


と宙から舞台に落ちたクラゲ野郎は、八本の足のようなトゲまみれの触手で地面に立っています。


そして、水饅頭のような半透明の本体の中心部には繭があり、そこから血管のように糸が張り巡らされていました。



八本の触手の足が生えた水饅頭の如きクラゲ野郎は……まるで、蜘蛛。


巨大な蜘蛛のようなクラゲ野郎なのでした。



そんな蜘蛛の如きクラゲ野郎は、ドスンドスンドスンドスンドスンドスンドスンドスンドスンドスンと太い触手の足で舞台を這い回り、天井を伝い私達の頭上に着くと。





「!!!! あのクラゲ野郎まさか!?」





シドウさんの声と共に、ヒュゥゥウウウと音を立て、クラゲ野郎は天井から離れると。





「あっぶねぇ!!!!」





ドスンッッッッッと、私達を叩き潰せる位置に落下攻撃を仕掛けて来たのでした。





「omeprmtus!!! ometsknkrosthz!!!!!」




大地の精霊ノーム――――いや、トゲまみれの八本の足で劇場を這い回る巨大蜘蛛のような水饅頭野郎は、こちらの精神を崩壊させるような金切り声を出したのでした。




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