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48・熱に浮かされボケーっとした頭(シドウ視点)

「嘘だろ……。まさかの病人追加かよ……。つーか四十三度って……そりゃ、高熱のときに見る夢みたいな人だとは思ってたけど……」





リヒト先輩を抱き支える俺に、プロメが言った。





「というかリヒトさんも風邪引くんですね」


「そだな。……人らしい一面が見えて少し安心した」





シラフだろうが平熱だろうが、リヒト先輩はとても自由で迷惑な人である。



そんなリヒト先輩は、「ふげぇ〜」と声を出しながらフラフラ立ち上がった。





「あ〜、もう駄目だ……。俺は今日ここに泊まるぞシドウ……」


「は!? それなら馬車呼んでやるからさっさと家帰れや!!! それかソファーで寝ろやクソミドリ! なに俺のベッド使ってんだコラ」


「ふざけるな……お前達との風邪引き体温バトルで勝ったのは俺だぞ……重病人を看護するのも警察騎士の務め……だ……」


「あぁあ〜もぉお〜!!!」





クソミドリはベッドに突っ伏して動かなくなった。



俺は風邪でふらつきながらもクソミドリを足で壁際にどかして、




「悪いなプロメ……少し狭くなった」




とクソミドリを背にしてベッドに寝転んだ。



もう体がしんどい。頭もろくに動かない。


それより早くプロメを寝かせてやらないと。



そう思いプロメに向かって腕を広げて



「おいで」



と声をかけた。





「!!!!!!! シ、シドウさぁぁああん!!!!! そんな、真っ赤な顔に汗をにじませ風邪で潤んだ瞳で私を見ながら『おいで』だなんて!!! そんなの!! そんなのお邪魔しますぅぅうううう♡♡♡」


「悪ぃ……頭がボーッとしてお前が何言ってんのかよくわかんねえや……」





飛びついて来たプロメを抱き止めながら、ぼーっとする頭で




「あ……枕、無いか。クソミドリに取られたから、俺の腕で我慢してくれ……」




と詫びた。





「ひゃ、……ひゃい……。いやもうずっと毎晩シドウさんの腕枕で眠りたいですほんと……」


「すまん……もう何言ってんのかよくわからん……」





頭がボケーっとして、目の前もボケーっとしている。


俺の腕を枕にしたプロメがめっちゃ可愛く見える。普段も可愛いのに今はもっと可愛い。



うるうるした桃色の目で俺のことをじっと見てこられると、もう触りたいのを我慢出来ない。


いいかな、触って。


まあいっか。


女慣れの練習だもんな。プロメもいつも言ってるし。





「ひゃっ! シ、シドウさん!? そんな熱に浮かされ惚けた色っぽいお顔で頬を撫でられると……私、私は……!! 貴方が弱ってるのを良いことに同意の無い行為に及んでしまいそうですよぉお!!!」


「? 何言ってんのかわからんけど……髪が、頬に引っ付いてたから」





乱れた金髪が汗で頬にくっついてたので、手櫛で整えた。柔らかくてサラサラした髪の感触が心地よくて、ずっと撫でてしまう。



この髪に触ってみたいといつもいつも思っていたから。





「ぁ、ああ……シドウさん……いけません、いや、駄目じゃないっすけど、寧ろこれを望んで住み着いたわけなのであれですけどでもこれ以上されたら私、私はァアア!!」


「綺麗な髪だな。……ずっと触ってたい」





ぼーっとした頭でプロメを見詰めた。


真っ赤な頬にうるうるした目が可愛い。そしてエロい。



ああ、やっぱ可愛いなと思う。

今まで見てきたどの女より一番可愛い。



ずっと見ていたい。離れたくない。



もし、プロメが俺のことを好きになってくれたら。


そうなったら、良いのになあ。





「はぁ……っはぁ、シドウさん……。もう、良いっすよね?」


「いい? なにが?」


「そんなとろんとした目で私を見ながら腕枕して髪を優しく撫でてくれたんでんすからこれもう同意ってことで良いっすよねそうですよね」


「ぁははっ、切羽詰まった顔してどうしたんだよ」





プロメの目がなんかおやつを前にしたポメラニアンみたいな感じになってて笑った。


ただでさえ可愛い髪型から似てんのに、そういう可愛いところも似てどうすんだ。





「大丈夫ですシドウさん。ゼンジ様とルネ様には私からご説明しますので」


「ん? さっきからどうした? なんか知らんけどマジな目ェしてどうしたんだよ」





いかん、プロメの言ってることがよくわからない。


ただ、すっごく可愛いのは変わりないので寝癖がついてる頭をそっと撫でた。



ぼーっとした頭で思うのは、ずっとこうしてプロメを撫でていられたら、ということだけだ。


あれ? なんで『ずっとこうしていられたら』って思うんだろう。


なんだっけ。思い出せない。



俺、プロメに何か言えないことが、守らなきゃいけない秘密があった気がする――――と思ったその時だ。





「ぇ」





プロメに肩を押されて仰向けに寝かされ『?』となった次の瞬間には、俺に馬乗りになったプロメが、目をかっ開いて真っ赤な顔で呼吸を荒くしていた。





「シドウさん、『良い』ですか?」


「ぇ……? よくわからんけど、プロメのすることなら……なんでも良いよ」


「ぁ、あ、ゥァアアアアアア!!!! シドウさぁぁあああフギャッア!!! 痛いやんけクソミドリゴラァ!!!」





プロメがなんか知らんけどブチギレたとき、俺もクソミドリに蹴りを入れられた。



クソミドリは相変わらずグルグルした目で「ほげぇ」と呻きながら酷ェ寝相をかましている。寝ながらエアーギターでもしてんのかコイツは。





「チッ……邪魔やなコイツ」





プロメは見事な舌打ちをかまして俺から退いてしまう。


退かなくて良いのに……と思いながらプロメに手を伸ばすが、掴みそこねて空を切った。





「シドウさん、コイツ邪魔ですね。消しますか」





プロメは真っ赤な顔で鼻水を垂らしながら、クソミドリの足を掴んで




「そもそもコイツさえいなけりゃ私はシドウさんとノクターンでムーンライトなイチャラブが出来たんです。コイツさえ……コイツさえいなけりゃッ!!!!」




と鼻水を拭った。



プロメが何言ってんのかは風邪で惚けた頭じゃわからない。


けれど、プロメがクソミドリを消したいのなら協力しようと思った。





「シドウさん、こいつそこの窓から放り出しましょう。高いとこから落ちても風の加護人なんだから何かするでしょ死にゃしませんよ多分」


「そっかぁ……そういや先輩はいつも高いとこから飛び降りてるしなあ。……二階の窓から叩き落としても余裕だよなあ……」





そりゃそうか〜と思い、ふらついた体でクソミドリの両腕を掴んだ。


ベッドから引きずり落として、窓まで運んでいる間、クソミドリは



「ロックスターのステージダイブだぁ……ほげぇ〜」



と目をグルグルさせながら言っているがもうよくわからん。



片やプロメはブチギレたポメラニアンみたいな顔で




「人のこと散々邪魔し腐りやがってこのクソミドリがぁ……! 最近流行りの星の瞳を持つアイドルの双子の子供に転生するあの漫画の序盤みたいに早期退場させたるからなぁパワハラクソミドリがぁ……」




とぶつぶつ言っている。



そんな時だ。



呼び鈴がなったあと、食材などを詰め込んだ買い物袋を重そうに両手持ちしたロマン先輩が




「ごめんドアの鍵開いてたから勝手に入ったよ………………なにこれ、殺人現場? 現行犯?」




と言って、買い物袋を床に落とした。





◇◇◇





「あ〜よかったあ。ロマン殺人現場に出くわしたかと思た。ロマンの逮捕スコアが増えんでホッとしたよ」





にへらぁ……と笑うロマン先輩にプロメが抱きついて




「ありがとうございますロマンさん……。貴女のお蔭で殺人罪とそれ以外の犯罪にシドウさんを巻き込むとこでした……! 風邪で体力と判断力が弱ってるシドウさんに……私はなんてことを……」




とよくわからないことを口にした。





「うんうん。わかったわかった。……正直風邪ば引いて生命の危機に直面したシドウちゃんが雄の本能剥き出しにしてプロメちゃんに迫っとっちゃなかかとか思っとったけど、想像とは逆やったみたいやね。ロマンもまだまだ修行が足りんばい」


「あ〜そのシチュも良いですねえ……!! シドウさんに雄の本能剥き出しで迫られたら私はもう大勝利って感じですよほんと!!」


「う、うん。……でもその前に、もうリヒト先輩ば窓から落としたらいかんよ。せめて玄関ドアの外に出しとかんねさ」


「そうしますぅ〜」





そんな二人の会話を聞きながら、俺はベットでぐったりしていた。会話の内容はボケーっとした頭じゃわからないが、プロメが楽しそうで良かったと思う。



一方のリヒト先輩はソファーに寝かされ「ふげぇ」と呻いていた。





「そういやシドウちゃんは大丈夫?」





ロマン先輩が氷枕を作ってくれたので、ありがたく頭を乗せた。冷たくて気持ちい。頭が少し楽になった。





「ありがとうございますロマン先輩。……ほんと先輩が来てくれて助かりました」


「うん。リヒト先輩が面倒かけて大変やったね。よう頑張った」





ロマン先輩は冷却シートを額に貼ってくれた。冷えたシートが額にピタッと貼り付いて、氷枕と合わせてとても冷たくて気持ちがいい。


それに、まるで弟にするみたいにロマン先輩が俺の頭を雑に撫でてくれたのが、なんか心地良くて眠りそうになってしまう。



……と思ったらまたプロメがベッドに潜り込んで来て、俺に抱き着き体を密着させ




「私ぃ〜風邪引いたときは誰かに抱き着いてないと不安で眠れないんですぅ〜♡ ……と、いうわけで女に抱き着かれながら眠る練習ですよぉ♡ さあシドウさぁん♡ 私をぎゅうっと抱き締めてゆっくり眠りましょうねえ♡」




といつもより甘い声で言われてしまい、密着した体から伝わるちっぱいの健気な柔らかさに全てを支配され、気がついたら冷却シートと氷枕が一気に熱くなった。





「ロマン先輩すみません……。新しい氷枕と冷却シートお願いできますか……?」


「よかけど……。あの、マジでこの後二時間くらい時間潰してこようか……? リヒト先輩は動かすの無理やから耳栓と目隠しでもしときゃ良かけど」


「え? ごめんなさい、もう頭働かなくて先輩の言ってることが何一つわからないんです」


「……ま、まあ……看病イベントの鉄板展開やもんね」





何言ってるかわからないロマン先輩は警察騎士の帽子を取って外套を外し腕を捲って




「せめてロマンがうどん作り終わって家帰るまでは我慢してくれる? その後は何ばしてよかけん」




といつもの疲れたようなジト目で俺達を見てきた。



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