表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/295

45・助けておまいら(ロマン視点)

深夜。警察騎士駐屯鑑識部隊隊長研究室にて。



書類やなんか知らんもんが散らばる机の上に置いた『クローバーランド』のマスコットキャラであり絶対的アイドルである尊き存在『ブラックウサバニー』略して『ブラッニー』の期間限定販売デスクライトの灯りを頼りに、ロマンは薄暗か部屋でカタカタカタカタカタカタとタイプライターを走らせていた。





「助けておまいら。冤罪をかけられたご令嬢ば裁判で助けたらお礼にブランドもんのティーカップばもろてしもた。しかも『ありがとうございましたロマンさん! 明日一緒にお茶しに行きませんか?』と言われたっちゃけど、ロマンはどうしたらいい?」





おまいら、と言うのはロマンの部下達オタク連中だ。

頼れる知識階級の者共だが、熱くなると要らんことを言うのはやめて頂きたい所存。


この前の裁判中でもご令嬢――プロメちゃんをディスりやがった部下は本人の前でロマンが正座させてキッチリ謝罪させた。


だが部下は『正座させられるこの時代劇的制裁に一抹の興奮を覚える小生』とかなんとかを早口で言ってたので、次やったら警察騎士駐屯基地の玄関先で正座させようかと思う。





「相手は大金持ちでめちゃ可愛い一軍女子。しかも年下の十八歳。対してロマンは人生イコール友達&恋人いない歴のどこに出しても恥ずかしか立派な二十三歳喪女。一軍女子とお茶しに行く服すら無い。……助けておまいら」





カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタとタイプライターで書いとるのは、警察騎士鑑識部隊内で隊員同士で会話するための意見書である。



ロマンを始め鑑識部隊は目を見て話すことが出来ず『ワ、ヮァ……』となるので、みんなこやんしてタイプライターをカタカタさせて文章を打つのだ。


なのでたまに発生する口喧嘩も、みんな直接言わずにカタカタカタカタカタカタとタイプライターを走らせるだけである。


なのに一旦キレると裁判で野次ったオタク部下のようになるから困ったものだ。



だが、今はそんなオタク部下達に知恵を借りるしか無い。



カタカタと打ち終わった意見書を研究室のドアの隙間からスッと出すと、すぐに外からカタカタとタイプライターを打つ音が聞こえた。



……そして、しばらくするとドアの下から意見書がスーッと差し込まれて来た。

それに書かれていたのは。





「『姫、我々に聞かれても知らんがな(´・ω・`)』……か」





そりゃそうか。

だってみんな、ロマンと同じやけん。



そりゃ……そうか。





◇◇◇





「ロマンさんこんにちは〜! プロメです〜!」





結局悩んだままソファーで寝落ちして起きたら昼だった。



鑑識部隊の仕事は証拠の正当性や犯罪現場の痕跡を調べるのが仕事なので、呼ばれない限り昼まで寝てても文句は言われない。


だが、一旦仕事モードになると三日間徹夜とかは何も珍しい事はないので、サボっているわけでは断じてないのだ。





「……今開くっけん……ちょい待って」





段ボールやお菓子の空袋や買ったは良いが読まずに積んだ本の塔が散らかるカオスな研究室に躓きながらドアを開けると、そこには子犬の耳みたいな可愛か髪型ばした白いドレスの似合う一軍女子――プロメちゃんがいた。



ちなみに、何でロマンごた陰の民が一軍女子様を『ちゃん』付けする不敬行為を許されているかと言うと、本人が『さん付けは寂しいので呼び捨てにしてくださいよ〜』と仰ったからだ。



裁判で初めて出会ったときは、あまりのキラキラ一軍女子っぷりに人見知りが強制発動して悲鳴が出た。


一軍女子は苦手だ。怖い。絶対『うわ何この陰キャデブスキッッッショ。つーか早口で何言ってるかわかんないし目すら合わせないのウケる』とか思われただろう。



学生時代、ずっとそう言われてきたからわかる。



思い出したくもない。



嫌だ。怖い。目を見るのが嫌だ。


というか何でプロメちゃんはロマンを茶に誘ったんだ?


裁判のお礼なんかいらないのに。こちとらこれが仕事なんだから。



しばらく考えて、わかった。



これは牽制だ。


『お前如き陰キャデブスが私のシドウさんに近付くなよ』


と釘を刺したいのだろう。



それ以外にキラキラ一軍女子がロマンを呼び出すなんてあり得ない。

ずっとそうだったからわかる。





「あの〜すみません! もしかしてお体の調子、良くないんですか? でしたらご無理なさらなくて大丈夫ですよ」




『私の好きな人に近寄らないでくれる?』


『私があの人のこと好きだって知ってるでしょ?』


『私の好きな人に色目使わないでよ』



そう言って一軍女子共はいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも怒っていた。



それこそまさに知らんがな、である。



こういうとき、誤解を解くため



『違う、その人は別にロマンが好きとかそんなんやなくて、ただロマンぐらいやったら押せばイケるとか思ったから』



と弁解したら、




『それ、彼がヤリチンって意味? うわ、性格悪ッッッる』



とまた怒られる。



もう黙るしかない。





「あの……ロマンさん、大丈夫ですか? お顔の色が悪くて……あの汗もすごくて」


「……違う、違うから。シドウちゃんはただの後輩で何もなくてロマン如きが邪魔になるわけ」


「ロマンさん? ど、どうされました……? あれ? 髪にレシートが」





『リヒト様の従兄妹だからってなに調子乗ってんの?』


『うわひっど!! この子がリヒト様のこと好きなの知ってるくせに何ベタベタしてんの?』


『……うっざ』





髪に触るな、やめろ、怖い、体が動かない、怖くて水の加護人のくせに護りの魔法を発動出来ない。


触るな、髪に触るなッ!!!!!





「ムギャアッ!」


「!!!!!! ぁ……ごめ、……!!!!、ぁああああ、血、顔、怪我、あ……あああ」





昔と今の区別が付かなくなって、気が付いたらプロメちゃんを突き飛ばしていた。


突き飛ばした背後には棚があり、それにぶつかったプロメちゃんは頬に怪我をしてしまった。


なんてことを、駄目だ、早く治さないと。





「ごめんなさいプロメちゃん……、ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」


「いや、こっちこそいきなり髪に触ってすみませんでした……。だから、そんなに謝らなくても」


「ほんとっ、ごめんなさい……あのすぐ治すから」


「え?」





呼吸を整えて、水護りの魔法を発動させた。

早い話が治癒魔法だ。ロマンはヒーラー枠というやつである。



左手の甲に水の加護人の印が浮かび、ふわふわと輝く青い光は水に変わってプロメちゃんの傷を撫でた。


瞬間、傷は跡形も無く治ったので、ようやく息を吸うことが出来た。





「すっご……。水の加護人は治癒魔法とか護り魔法とかを得意とするって聞いてましたけど、ここまでとは……!」


「いや、あの、ごめんなさい……」


「いえいえ! 治して頂いてありがとうございます!」





プロメちゃんはニコニコ笑ってくれるが、本当に心は笑っているのだろうか。


一軍女子は怖い。一緒にお茶なんて、そんなの裏社会の輩にガン詰めされるのと同じだ。



裏社会……と言えば、シドウもシドウだ。


どんな事情を抱えているのかは知らないし知る気も無いが、女房にちゃんと愛を伝えているのだろうか。


だからプロメちゃんが不安になってロマンに牽制なんか仕掛けてくるのだ。


と言うか今アイツは何をしてるんだっけ?

あ、風の精霊と戦ったときに中央裁判所がぶっ壊れたからそれの始末書を書かされてるんだっけか。



そんなシドウもロマンからすりゃ一軍だ。



……一軍共のキラキララブストーリーにロマンを巻き込むな。


お前らのキラキラ物語なんか知るか。

そもそもロマンはそやんかキラキラ物語が一番好かんのだ。


この前も好きだったミステリー漫画が舞台化した際、一軍向けのキラキララブストーリーに改悪されて怒髪天だったのに。


部屋にこもってタイプライターをカタカタカタカタさせながら舞台化作品のアンチコメント意見書を書いて、オタク部下達と悪口を言い――いや書きまくった。



ついでを言うと、女性向け恋愛物語も大嫌いだ。


被害者面した女が泣き喚くだけで理解のある男が出て来て全部解決するなんて、そんな甘ったれた話を読んで何が楽しいんだ。読み終わったあと虚しくならないのか。



現実はそんなに甘くない。

ロマンは逃げて引きこもるしか無かった。

現実なんかそんなもんだ。





「ロマンさん、もし良かったらお茶だけじゃなく、舞台も一緒に観に行きませんか? ……私が大好きな女性向け恋愛漫画が舞台化したんです!」


「……」




いくら治したとはいえ、怪我をさせた手前ロマンに断ることは出来ない。



オワタ。

タイプライターでカタカタするとオワタ\(^o^)/


だろうか。





◇◇◇





「め、めっちゃ良かった……! 過剰な音楽や大袈裟な演出に頼らない俳優さん達の上質な演技と、台詞で説明しない思い切った脚本のバランスが最高やった……! まさに神やった……」


「ですよね!! いや〜面白かったです〜!!!」


「舞台終わって速攻で原作本買ってしもた。ロマン男女モンの恋愛物語は食わず嫌いしとったけど、やっぱ食わず嫌いは良くないね。こんな名作を知らんまま死ぬとこやった」





舞台の内容は王道だった。


愛する王子様を救うために毒を飲んで死んでしまうお姫様が、王子様にキスをされて息を吹き返すという典型的なお話である。



だが、それに至るシナリオが神だった。

語彙力で表現出来ないほど神だった。





「この漫画、確か童話が元ネタなんだっけ? 絵本にもなっとったよね。ロマンも読んだことある」


「はい! そうなんです! 私も大好きな絵本で、このドレスはこの王子様の衣装をモチーフに母が作ってくれたんです!」


「え!? お母さんの自作!? すご!!」





プロメちゃんの白いドレスは確かに王子様の衣装に近いものがある。


お姫様じゃないんだ……と驚いたが、推しへの愛は人それぞれなのでロマンは深入りしなかった。



その後、近くの喫茶店で舞台の感想をプロメちゃんと語り合った。


というか、興奮したロマンが一方的に早口でダラダラ話しているだけだったが、プロメちゃんは楽しそうにニコニコと聞いてくれるのだ。



怖い一軍女子とプロメちゃんを一緒くたにしてしまって、申し訳無いことをしたと後悔する。





「そうだロマンさん。このあと服でも見に行きませんか? ……って、すみません、ロマンさんは公務中ですもんね」


「あ、うん。……まあ、そうだけど……。でも今日は遅番やから、制服着替えるのは無理だけどチラッと見るくらいならよかよ。警察騎士の制服着た奴がうろついとけば、万引き防止のパトロールにもなるけん」





仕事が無いときの鑑識部隊は暇だ。

でも、別に遊んで良いわけではない。

だから、パトロールという建前で町をウロウロすることは許可されている。



そんなわけで、プロメちゃんと一緒に服を見ることになったわけだ。





◇◇◇





プロメちゃんの手前こんなことは言えないが、ロマンは服に興味が無い。着れりゃ良くねと思っている。


しかも、服は高い。ペロッとしたスカート一着で『ブラッニー』のグッズが買えてしまう。


布と『ブラッニー』がいるクローバーランドへの上納金なら、上納金として金を使いたい。



……だけど。





「おお〜〜!! ここのブランドの新作ワンピースはやっぱり可愛いですねえ〜!! 金の力で全種類揃えたいですが、そもそも着ていく場所が無いという! あはは!」





ブランドの新作とかいう淡いピンクのワンピースを試着するプロメちゃんを見ているのは楽しかった。


素直に可愛いなと思う。ワンピースもプロメちゃんみたいな可愛い子に着られるなら本望だろう。



和んでいたその時だ。





「警察騎士のお客様はこの子とか似合いそうですけどいかがですかぁ〜?」


「!!!!!!! ヒュッッッッ」





ヒュッと息が止まった。



キラキラした美人の店員さんが美少女じゃないと事故りそうなワンピースをロマンに勧めてきてしまった。


上が白いシャツで下が青いスカートでフリルが付いたワンピースは確かに可愛いが、そんなんを二十三歳の、しかも二日間は風呂に入ってない女に持ってくるなと言いたい。



やめろ、やめろ、というか服ンこと『この子』とか言っちゃってるよこの店員さん。


そりゃそっちも仕事だし一着でも多く売れば実績になるから仕方ないとは思うし、言わば警察騎士が馬車を取り締まるときのネズミ捕りみたいなもんだとわかっちゃいるけど、だからって相手は選べよと思う。





「確かに!!! これ絶対にロマンさんに似合いますよ! 警察騎士の服を着替えられないのが残念ですが、またお休みの日に来て試着してみましょう? 絶対に似合いますから!!」


「ヒュッ……ヒヒッ……ヒ」





プロメちゃんと店員さんのキラキラ一軍女子パワーに押され、『ヒヒッ……ヒーッ』という変な引き笑いが出て来た。


ロマンは本気でビビると引き笑いが出る。

面白くもないのに引き笑いが出るのだ。



頼む、やめてくれ。そっちからしたら善意の気遣いかもしれないが、こっちからしたら地獄の辱めでしか無いんだ。


嫌だ。今すぐクローバーランドの空気が吸いたい。


クローバーランドでブラッニーや案内人の人達と『アッセンブラッニー』が踊りたい。


ちなみに、『アッセンブラッニー』とはアッセンブルとブラッニーをかけたクローバーランドオリジナルの造語で、パーク内で突然催されるダンスイベントのことだ。



こんなことを考えていた、その時だ。






「良いじゃん。似合うんじゃないのロマンちゃん。でもまあこっちの紺色の服も可愛いと思うけど」


「だ、誰」





知らん男の声が背後から聞こえて振り返ると、マジで知らん男の人がニコニコしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ