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44・お祭りデートです!

さてさて! 城下町ふれあい祭りです! お祭りデートです!! これはもう恋の成就確定演出では!? と浮かれるほど、城下町ふれあい祭りはすごい賑やかで素敵なイベントでした。



夕空に映える色とりどりのランタンは美しく、見ているだけで心が弾みます。

ぎっしりと並ぶ屋台はどれも魅力的で、焼きそばもたこ焼きもチョコバナナもどれもこれも全て食い尽くしたくなってしまいますねえ。





「いや〜お祭りってのは見て回るだけでも楽しいもんですね! おまけにミントさんにすっごく可愛い祭り装束を着付けてもらいましたし!」





私の今の装いはいつもの白いドレスでなく、白い布で織られた涼し気な前開きのワンピースっぽい祭り装束です。

前開きのワンピースを黄色く広い布で固定し、お腹辺りで大きなリボンを作るように結び付ける着付けがとても可愛く、こんな風に素敵にして頂いてミントさんには感謝しかありません。


おまけに祭り装束と合わせた白いサンダルは底が厚く、歩くたびにカランコロンと心地良い音が鳴ります。





「髪型もいつもやってる子犬の耳みたいなやつに合わせて良い感じにしてもらえましたし、ほんと新鮮ですよ!」





今の私の髪型は子犬の耳はそのままで、良い感じに二房お下げ髪に結ってもらいました。

ほんと何から何まで良くして頂いて、私はミントさんが大好きになりましたね。……バニラさんは宿敵ですが。





「それに、サンダルの厚底のお蔭で、シドウさんのお顔がいつもより近くで見えますからね」





厚底のお蔭で少し身長が盛れたせいか、普段よりもシドウさんに近付けた気がします。


鋭くキリッとしながらも、どこか愛嬌と色っぽさがある不思議なお顔立ちを見ていると、胸がぐぎゅぅっとなって甘い痛みが疼きました。


あ〜! 好きだなあ〜、と思います。

シドウさんに愛されるヘンリエッタ様が羨ましいですね。


初対面のときは、ヘンリエッタ様を愛しているとシドウさんが仰っても『公爵家の当主のお姫様相手に大変やろなあ』くらいにしか思わなかったのに、今ではこの事実に何度も何度も脳を破壊される始末。


そりゃ、ちょっとは慣れましたけれど、やっぱりまだまだ『ヴァァアアアアア』と悲鳴と血反吐を吐きたくなりますね。



そんな私に、シドウさんは優しく笑って仰いました。





「あのさ、プロメ。何か食いたいもんとかあるか?」


「え!? え、そうですねえ……! 取り敢えず肉と揚げもんを」


「そっか。そうだよな。……だったら……餅にベーコン巻いたやつとかあるけど、あれ食ってみるか?」


「おお!! 美味しそうですねえ〜!! ぜひぜひ〜!!」





餅巻きベーコンの屋台に行って、現金代わりのプラチナカードを店主様に出しました。

このカードを出すと、お店側がなんか不思議な機械に通してくれて、自動的にナルテックス家へ支払請求が行くんですね。現金を持ち歩くより安全なので、いつもそうしていましたが……。





「お嬢ちゃん……うちは現金オンリーだよ……」


「え!? すみません!!! それじゃあナルテックス家に渡す小切手の用紙をお渡ししますから」


「あ〜、いい。良いから。俺が払う」





シドウさんはお財布を取り出されると、小銭を店主様にお支払いしてくださいました。


って、ええ!? 私としたことが!! 金を渡すどころか公務外のシドウさんに出させてしまうなんて!!!!

公務中なら経費ですけど公務外は自腹じゃないですか!!!





「シドウさんありがとうございます!! そしてすみません!! 後でお支払いしますので」


「良いよこんぐらい。だからそのエグいカード仕舞え。…………ちょっとくらい、俺にもカッコつけさせろよ」





シドウさんは困ったように眉を寄せて笑っています。


ああ、あかん。めっちゃ好き。


強く強く思います。





「あ、あの……あ、ありがとうございます……。……実は、私……初めてで」


「!? え、あ、あの何が初めてで遊ばされるんですか……って、お前の口調が移っちまった」





シドウさんは急に慌てられて真っ赤な顔をされています。



すると、店主様から「こらシドウ、嫁とイチャつくなら他所でやれ。店先でやんな。営業妨害だぞ〜」と笑われ、謝ってからその場を離れました。





「男の人に奢ってもらうのって、私初めてだったんですよ。……ほら、私スーパー金持ちでしょ? だから婚活時代もそこら辺の貴族の公子よりは金持ってたんで、相手が財布を出さないから全部私が奢ってたんです。……まあ、ナルテックス家の財力のアピールのためでもありましたけどね」


「そっか。……俺は親父から『男たるもの女に財布出させんじゃねェ。カッコつけてナンボよ』って言われてたからさ。まあ、下町のジジイの古臭え考えだよ。…………でも、そう言った親父はそのすぐあと母ちゃんに『頼む母ちゃん酒代くれ』って言ってた」


「……ゼンジ様らしいですねえ」





シドウさんのご両親のゼンジ様とルネ様のやり取りを想像しながら、私は楽しくて笑ってしまいました。


シドウさんから奢って頂いた餅巻きベーコンも美味しくて、まさに幸せそのものという時間です。



その後も、シドウさんと一緒にお祭りを巡りながら、時々美味いもんを食べつつ穏やかに過ごしていました。





「それにしても人が多いですねえ。注意してないとはぐれそうにうわぁああ」





人の波に飲まれそうになった瞬間、私の手をシドウさんの手が掴んでくれました。


大きくて硬い手のひらの感触が伝わります。

しかも、少し熱くて汗ばんでおられました。

その生々しさに私は『ヴァアアア』となり、頭が思考を放棄しました。





「悪い、いきなり。しかも、手ェ汗ばんでて申し訳ねェ。すぐハンカチ貸すから」


「いえいえいえいえ!! とんでもない!!! あの、もし良かったらこのままお願いできますか……? ほら! 人多いし!! それに女に慣れる練習にもなりますでしょ! ね!」


「! ……そっか。……うん。…………ありがとう、プロメ」





シドウさんの少しはにかんだような優しい笑顔を、ランタンのオレンジの明かりが照らしました。


鮮やかに澄んだ赤色の瞳にオレンジの光が差して、とても綺麗です。





「それじゃ、行こうか」





シドウさんにそっと手を引かれ、私は『もうこのまま連れ込み宿に行きませんか』と言いたくなるのを堪えながら、まあこのくらいは良いっすよねという気持ちで、シドウさんの手をぎゅっと手を握り返したのでした。





「シドウさん、私……今すっごく楽しいです。……ほんと」





シドウさんと手を繋ぎながら、のんびりとお祭りを巡って美味しいものを食べる。

ただそれだけなのに、どうしてこんなに楽しいのでしょう。



そんな風にソワソワしていると、急にシドウさんが




「ちょっと付いて来てくれるか?」




と仰いました。





◇◇◇





お祭りから少し離れた高台に着くと、座れそうな岩場にシドウさんはハンカチを敷いて



「ここ、座りな」



と微笑まれました。





「ありがとうございます……。おお! ここからだとお祭りの灯りがめちゃめちゃ綺麗に見えますねえ! 眺めが良い!!」


「だろ? ……そろそろかな」





シドウさんがそう言った瞬間。




ヒュウウウと風を切る音が聞こえたかと思ったら。





「おおおおおおお!!! 花火!!! すごい!!!! 綺麗!!! というか近!!! 花火近ッ!!!」





ドンッッッというバカでけえ破裂音と共に、目の前で花火がぶち上がったではありませんか!!!






「私、こんな至近距離で花火見たの初めてですよ!!!! すごい!!!ほぼ真上ですね!! 音すご!!!」


「ここは地元民でも中々知らねェ穴場でさ。毎年ここでボーっと花火見てんだよ、俺」


「そうだったんですね! いや〜ここは穴場ですよ!」


「だよなあ。……あれ? なんか今年は豪華だな。……使ってる素材が良くなったのか? ……儲かってんなあ商店街」





シドウさんは不思議そうにされてますが、私はこの花火を見るのは初めてなので良く分かりません。





「それなら来年が楽しみですね! 来年も、ここでまた花火見ましょうね!」


「!」




シドウさんは「来年……」と呟かれたあと、眩しそうに目を細めて切なそうに微笑まれました。





「ああ。……来年も、また……見られると良いな」





混ざり気の無い澄んだ赤色の瞳が潤んだ気がしたのは、花火の光が眩しいからでしょう。





「来年も、見たいな……」





その後に続いた言葉は、花火の音で掻き消されました。


シドウさんの唇が何を言ったのか、私にはわかりませんでした。





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