38・クラゲ野郎を撃破せよ
「でもシドウさん、あのクラゲ野郎ってどうやったら倒せるんでしょうか……?」
「そうだな……ナメクジなら塩かけりゃ死ぬが……クラゲは何をどうすりゃ良いのか……ッ!! 宙に浮かんでやがるからこっちの攻撃が届きゃしねえ!」
クラゲ野郎から振り下ろされた触手付きの大鎌を、シドウさんは無駄の無い動きで避けました。
……というか、突然出て来たこんなわけわからん巨大な化け物の攻撃をよく冷静に捌けまね。
いつもみたいにシドウさん好き好き♡アピールで褒めまくるのも忘れ、素直に『すっげぇ……』と溜め息が出ます。
ただでさえルイスとその護衛の調査で徹夜なのに、この身体能力のすっげぇ高さはなんなのでしょう。
そんなすっげぇシドウさんは、先程貫いたクラゲ野郎の触手を見て、何かにお気付きになられたように
「……そういや、ぶった切ったクラゲ野郎の触手……再生しねえな。……何でだ……?」
と呟かれたあと、クラゲ野郎から振り降ろされた大鎌を横へ跳んでかわされました。
確かにシドウさんの仰る通り、クラゲ野郎の触手の断面は焦げており、再生する気配を見せません。
クラゲ野郎は怒ったようにシドウさんを目掛けて何度も大鎌を振り下ろしますが、シドウさんは一撃一撃を的確に避け続けます。
ですが、シドウさんが縦に振り降ろされた攻撃を横へ跳んでかわした瞬間を狙って、クラゲ野郎は横薙ぎに大鎌を振り下ろしてきました。
……クラゲ野郎は、この短時間で知恵を付けやがったのでしょう。
シドウさんは炎を纏う槍で大鎌を受け止め、身を翻すようにして大鎌を横に受け流しました。
「プロメッ!! すまねぇ……俺はクラゲ野郎の相手すんのに手一杯だ!! だから、アイツの観察はお前に任せる!!」
「! わかりました!!!」
シドウさんは、受け流したクラゲ野郎の大鎌が地面に突き刺さった瞬間に、炎を纏う槍で触手をぶち抜かれます!
クラゲ野郎は「mgdpwgeja@wpdpwpgwpdp!!!!!!!!!」と耳を切り裂くような金切り声をあげて苦しげに蠢いた……その一瞬!
クラゲ野郎が『少しだけ傾いた』のを私は見逃しませんでした!
「シドウさん! あのクラゲ野郎、馬鹿でかい大鎌を二つ無くしたせいでバランスを崩してます! だから、バラバラに触手をぶった切るのでなく、『一箇所に集中して触手をぶった切って』ください!! そうすれば! 野郎、自分の重さに耐え切れず落ちてくるかもです!」
「! わかった! ありがとな!」
シドウさんはそう言うと、ヤケクソのように振り下ろされまくる大鎌を避け続け、先ほど盾代わりにしていた黄金像の残骸を駆け登り、あっという間に傍聴席へと登頂されました。
宙に浮いてるクラゲ野郎に少しでも近付くためでしょう。
その瞬間を狙って、クラゲ野郎は自ら体当たりをかまして来ましたが、シドウさんはそれすらも最小限の動きで避けられました。
クラゲ野郎は体当たりすらかわされてしまい、怒ったように大鎌の付いた触手を振り回しています。
その姿はまるで、自分の攻撃が当たらない事に癇癪を起こして暴れる小さな子供のよう。
……だから、先ほどへし折ったタツナミの黄金像を大事そうに抱えたままなのでしょうか。お気に入りの玩具と言ったところですかね?
その黄金像の重さに耐えきれず、バランスを崩しているというのに。
クラゲ野郎はバランスを崩したまま、自身の本体を守る鎧のように纏っていた鋭い風を、まるで癇癪を起こした小さな子供が玩具を投げ付けるような仕草で次から次へと私達にぶつけて来ます。
「! ……何だこれッ!! 風っつーかほとんど刃物じゃねえか!!」
炎を纏う槍で次から次へと襲い来る風の刃を身を翻しながら弾きつつ、シドウさんは言いました。
弾かれた風の刃は傍聴席どころか建物まで真っ二つに破壊しています。
こんな理不尽の化身みたいな相手と、どう戦えば良いのか……。
クラゲ野郎の倒し方がわからす悩んだ、その時です。
弾かれた風の刃の一つが、先ほどシドウさんにぶった切られ地面に突き刺さった大鎌へとぶっ飛び、なんと大鎌を真っ二つにしたではありませんか!
ならば。
「シドウさん! クラゲ野郎がやたらめったら投げてくる風の刃……アレをあの野郎に跳ね返して叩きつけられませんか!?」
「! ……任せろッ!」
クラゲ野郎から投げつけられた鋭い風の刃を、シドウさんは下段に構えた槍で受け止めつつ、身を翻す容量で風の刃をクラゲ野郎に跳ね返しました!
風の刃はクラゲ野郎の触手を三本切り飛ばし、大鎌が轟音を立てて地面に突き刺さります!
「mhapmgwgdtg!!!!!!gmdjpgja@md@mhympdg!!!!!!!!!!!!」
クラゲ野郎はこちらの鼓膜を切り裂かんばかりの金切り声を上げ、苦しそうにのたうち回りながらグネグネと体を歪ませ、ふらつきながら宙に浮きました。
そして、『触手を振るえばシドウさんに貫かれるだけ』と理解したのか、クラゲ野郎は先程ぶった切られた大鎌を持ち上げ、今度はそれを投げ付けてきます。
「! あのクラゲ野郎……ッ! 知恵つけやがった!!!」
シドウさんは最小限の動きで避けつつ、時にはクラゲ野郎の触手目掛けて槍で跳ね返しますが、さすがに大鎌は重たく、クラゲ野郎には届きません。
一方、クラゲ野郎は「mgdp.g!!!pdgtdpmpwpdpwp'mg!!」と、また風の刃を出現させ自分の身を守る盾のように纏いました。
「どうにかならねェのか……! このままじゃジリ貧だ」
「触手が再生しないだけマシですね……。でも、さっきよりクラゲ野郎はフラフラしてます! ……ジリ貧なのは、向こうも同じでは?」
「……そうかい。……そんなら……根比べってとこか。……地道で泥臭い戦いなら慣れてるからな。望むところだッ!!!」
クラゲ野郎は一定数の触手をぶった切られ、抱えているタツナミの黄金像と触手に付いた大鎌の自重でフラフラしています。
そんなクラゲ野郎は円形闘技場の瓦礫だの柱だの傍聴席だのを何でもかんでもぶん投げて、目茶苦茶ながらも避けづらい攻撃をして来ました。
シドウさんは最早瓦礫の塊みたいになった円形闘技場を駆け昇りつつ、クラゲ野郎が浮いている位置まで辿り着き、
「何か……アイツの息の根を止める決定的な何か……!」
と考えておられます。
あのクラゲ野郎をどうやって倒したら良いのか……と私は奴の姿を落ち着いて観察しました。
タツナミの黄金象を大事そうに抱えて、フラフラと宙に浮いているクラゲ野郎。
アイツの触手が再生しないだけまだマシとは言えますが、あの化け物の体力とシドウさんの体力では、先にシドウさんが力尽きるのは目に見えています。
しかも、あのクラゲ野郎は柱や瓦礫やぶった切られた大鎌を投げ付けてくる間に、先程の風の刃を交えてくる始末。
シドウさんは的確に物を避けつつ、風の刃が来たら槍で跳ね返すと言うとんでもない反射神経を駆使して応戦されていますが、時々槍を杖代わりにして荒く息をされております。疲労困憊といったご様子でした。
何か、奴の弱点はないのでしょうか……!
『周囲にあるものを片っ端からぶん投げてくる』、あのクラゲ野郎の弱点は……!?
…………あれ?
クラゲ野郎は、ブチギレた小さな子供がおもちゃを投げ付ける感覚で『周囲にあるものを、片っ端からぶん投げてくる』のに。
「奴は、手当たり次第に物をぶん投げてきますが…………どうして、黄金像の瓦礫だけは投げ付けて来ないのでしょうか」
私はクラゲ野郎を観察しました。
クラゲ野郎はとにかく周囲にあるものを片っ端からぶん投げて来て、時々騙し討ちするように風の刃を紛れ込ませています。
シドウさんはさすがに風の刃を撃ち返す体力が無いのか、風の刃を横へ跳んで避けられました……が、なんと風の刃はギュイっと方向転換をして、シドウさんを追尾しやがったではありませんか!!
「!? クソッ!! こればっかりは弾かねえと駄目か!!」
襲い掛かる風の刃をシドウさんは下段に構えた槍で受け止め、掬い上げるようにしてクラゲ野郎の方向へ弾き飛ばしますが、クラゲ野郎はヒュンと避けてしまいます。
そんな初見殺しみたいな動きをしてくるクラゲ野郎は、どんなにバランスを崩していてもタツナミの黄金像を手放しません。
……いや、もしかして。
『手放せないのでは?』
私はこの事実に気付いた瞬間、シドウさんによってぶった切られたクラゲ野郎の触手の断面を見ました。
『炎で熱された黄金の槍でぶち抜かれた触手の断面は、焦げています』
次に、タツナミの黄金像を抱えている触手を注意深く見ました。
……よく見ると、クラゲ野郎の触手が溶けて黄金像にくっ付いてるではありませんか。
「シドウさん!! あいつの弱点がわかりました!! あの野郎『金属に触れると溶けるみたいです!!』だから! シドウさんの炎で熱された槍で貫いた部分は、『溶けて焦げたから再生しない』んです!!」
「……そうか! ありがとう! ……だが……ッ! こちとら、クラゲ野郎が投げてくるモン避けんので手一杯だ!!! アイツの突破法を考えんのは任せた!!」
確かに、シドウさんはクラゲ野郎のモノをぶん投げまくる猛攻を避けたり、たまに挟まれる風の刃を弾くので精一杯です。
その分、私が考えて、何か思い付かなければ……!
何か!
何か突破法はないのか!?
『炎で熱した金属の槍で触手を焦がし切り飛ばす』以外に!!! 決定打は!?
必死で考える私とは反対に、クラゲ野郎に抱かれたタツナミの黄金像の上半身は、片腕を雄々しくあげて脳天気なポーズをしてやがります。
そんな黄金の拳はクラゲ野郎の本体の『身』の部分を溶かしてくっついていました。
確か、この拳は今シドウさんが使っている槍――――『天秤が付いた杖』を持っておりましたね。
…………天秤。
天秤とは、両皿に物を乗せて『どちらが重いか測る』ものです。
当然、重い方へ天秤は傾きますし、軽い皿は持ち上がり、天秤の種類によってはひっくり返…………!
そうだ!!!!!!!
「シドウさん!!! クラゲ野郎が黄金像を抱えている方の触手を全部ぶった切れませんか!? 『天秤の要領で、黄金像が上を向くように重さを調整』してください!!!!」
「わかった!!! ありがとよ!!!」
シドウさんはクラゲ野郎の物ぶん投げまくり攻撃をかわしつつ、
「でも、天秤みてェにひっくり返したあとはどうすんだ!?」
と質問されました。
「……リヒトさんの風の魔法で切り飛ばされたクラゲ野郎の触手は再生しましたが、シドウさんの炎の槍――炎で熱された金属の槍で貫かれた触手は、断面が焦げて再生が不可能でした……。だから」
クラゲ野郎の弱点は、『熱した金属』です。
金属、あるじゃないですか。
……一際バカでけェ金属が。
「クラゲ野郎とくっついたタツナミの黄金像を炎の槍で熱してください! 『黄金像が上に来るよう傾いたクラゲ野郎を、熱した金属の塊で押し潰す』んです!!」
「わかった! でも、そんなら……ッ! もっと高い位置に行かねえと……!」
シドウさんは足場に出来そうな場所を探しつつ、下段に構えた槍で風の刃を跳ね返します。
クラゲ野郎はシドウさんを馬鹿にするみたいに素早く横に避けやがりましたが、風の刃の端が黄金像を抱えていてる方の触手の一本を切り飛ばしました。
「すっご!!! 良く当てられましたね今の!!」
「アイツが避ける範囲は見て覚えたからな。……もっと褒めてくれて良いぞ! ……勿論、後でなッ!!!」
シドウさんは再び襲い来る風の刃を弾き、クラゲ野郎の素早い回避をものともせず奴の触手をぶった切ります。
クラゲ野郎は『黄金像を持つ方の触手』を次々とぶった切られ、どんどん傾いて行きます。
黄金像側にある触手は残りわずかとなり、クラゲ野郎は反対側に残った大鎌付の触手の自重に引っ張られ、今にもひっくり返りそうにフラフラしていました。
そんな野郎から放たれた風の刃を、シドウさんは正確に打ち返しました!
「これで……ッ!! 最後だ!!!!」
触手を切り飛ばされたクラゲ野郎は「mpwgdg.g!!!!!!egw@dpm.p!!!!!」と絶叫しながら、黄金像を上にした姿勢で傾きます。
ですが、そんな姿勢になりながらも残りの触手で周囲の物をぶん投げまくったり、追尾する風の刃で騙し討ちをしたりする猛攻の勢いは変わりません。
クラゲ野郎は高い位置から、柱だの瓦礫だのとでかいモノばかりを投げつけています。
「傾かせたのは良いが……。何か……アイツよりも高い位置に行ける足場は」
シドウさんはそう独り言を零しながら、投げつけられる柱や瓦礫を跳躍して避けたあと、
「……あるじゃねえか……! クラゲ野郎に近付ける足場が!!」
と、なんとクラゲ野郎が投げつけて来る柱や瓦礫などに飛び乗って足場にしたではありませんか!
恐るべき脚力で跳躍しながらクラゲ野郎の投げてくる柱や瓦礫や大鎌を蹴り上げ、シドウさんはどんどんクラゲ野郎との距離を近付けて行きます。
クラゲ野郎は、宙に浮く自分へどんどん近付くシドウさんと私にビビったのか、シドウさんを直接叩き落とそうと残りの触手を振り上げてきますが、シドウさんは自身へ振り下ろされた大鎌すらも足場にして跳び上がりました。
振り降ろされる大鎌を足場に跳躍しながら、ついにシドウさんは『クラゲ野郎よりも上空』へと飛び跳ねます。
そして。
「覚悟しろやァァアアアッ!!!! クラゲ野郎ッ!!!!」
シドウさんは真下に位置する黄金像へ槍をぶっ刺す下突きの姿勢を取りながら急降下しました!
風に煽られ、シドウさんが纏う炎はどんどん勢いを増し、増大して行きます!!
燃え盛る炎を纏う槍を下突きにしながら急降下したシドウさんは、その勢いを利用し見事クラゲ野郎とくっついたタツナミの黄金像に槍を突き刺しました!!!
熱した黄金の槍がぶっ刺さった黄金像は、どんどん熱気を放って行きます!!!!
クラゲ野郎は「mgdgkmpmpwd!!!!!!mpapmWmtagye@jwdgwg!!!!」とこっちの精神が崩壊しそうになるほどの不気味な金切り声をあげながら、急降下してきたシドウさんの勢いに負け、触手の自重に引きずられるように地面へ叩き落ちたのです!!!!!
「mpngwpeDa@wdp!!!!!!mpdawdpwMdg!!!!」
クラゲ野郎は熱された黄金像の下敷きとなりジタバタと藻掻きますが、熱した黄金像に焼かれているうえ、片側だけが残っている触手では上手く飛べないのでしょう。
大鎌のついた触手を振り上げたくても、黄金像の重さでそれすらも叶いません。
「大人しくしろ……ッ!!!」
シドウさんは黄金像にぶっ刺した槍をよりグッと深く突き刺しました。
突き刺した部分はじゅわっと溶け出し、槍のより深い侵入を許します。
「gmpwtdg!!!!!……wpmgdpzwg!………mpd@pd@……mpdgwg……mgw」
クラゲ野郎はだんだんと藻掻く力を失い、金切り声も勢いを無くして行きました。
「…………ttnm.gmne」
クラゲ野郎―――――いや、風の精霊シルフは、自身を溶かす黄金像を残った触手で一撫でしたあと、力尽きたようにぐにゃりと溶け出しました。
「うわっ!!」
風の精霊が溶け出したせいで黄金像はぐらりと揺れて、シドウさんは咄嗟に飛び降り地面へ着地されます。
ボロボロになった黄金の槍を杖代わりにして、シドウさんは疲労困憊のご様子で息を荒くしています。
……そして、半透明で宙に浮いていただけの私も、同じくもう空腹と疲労で限界となり、ふらりと意識が飛んだかと思えば、いつの間にかシドウさんの片腕に抱かれてぐったりしていました。
風の精霊との殺し合いは、終わってみるとほんの一瞬の出来事のように感じられたのでした。




