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35・裁判官ルイス・タツナミ

「お前達への襲撃は、全て護衛が勝手にやったこと。私も今知ったんだよ。困ったものだね」





余裕綽々のルイスに、私は



「とぼけないでください! 私達は貴方の護衛達に風の魔法で攻撃され、死ぬ思いをしたんです! ですがその時! シドウさんは見事な槍術で私を命懸けで護り! 私の加護人の騎士になってくれたのです!」





と拡声器で叫びます。




……その際、チラリとシドウさんが手にしている懐中時計を確認しました。




『お昼になるまであと少し。何としてでも持ち堪えなければ!』





「それに! シドウさんが昨夜調べてくれました! ルイス裁判官の護衛は皆、前科者の加護無しだとね! 証拠ならここにあります!!」





私は昨日の夜にシドウさんが調べてくれた『ルイスの護衛の正体』についての書類を係官に提出しました。



裁判の前、


シドウさんは『ルイスの護衛達についても調べたが……。どいつもこいつもみんな加護人の前科者だった。……しかも、逮捕理由はどれも家族を食わせるための窃盗とか、加護無しの身内に対する悪事への復讐とか、そう言った事情を抱えた連中ばかり。……そんな奴らをタツナミ家の力で刑期を短くし、その代わりにルイスの加護人の騎士にしたって感じたろうな』


と仰ったのです。



確かに、護衛達―――加護人の騎士ならば、加護人のルイスを死んでも守ろうとするはずです。

しかも、彼らは犯罪に手を染めた理由に情状酌量の余地があるような人々でした。


そんな彼らなら、護衛任務を放り出すような真似はしないのでしょう。





「ルイス裁判官の護衛達は皆、前科者であり、司法取引をした加護無しの方々。そんな彼らの髪を黒く染めさせ、明るい昼間は色付きの眼鏡――流行りの言葉だとサングラスをかけさせているのでしょう?」





私の発言に、傍聴人の皆様の視線がルイスの護衛達へ集まります。





「……加護無しの彼らを自分の加護人の騎士にしてしまえば、彼らは護衛として死ぬ気で貴方を守ってくれるでしょう。……だって、貴方が死ねば、彼らも死ぬのですから」





私は言葉を続けます。



片やルイスは、つまらなそうな顔で裁判官席からこちらを見下すだけです。





「さあ! いかがでしょうルイス裁判官! 貴方は護衛――――加護人の騎士を使って、私が保釈された隙を狙い風の魔法を使って襲撃したんです! それは何故か!? その理由は! 私が保釈されて実家のナルテックス家と協力されたら困るから! それは何故か!!!! ……私を何が何でも有罪にして、自分が出した逮捕命令を成立させなきゃいけないから!!!」





シドウさんは最終打ち合わせの際




『この三日間、ルイスが恐れていたのはお前がナルテックス家と合流して反撃して来ることだったんだろう。……それに、ナルテックス家はこの国で働く炭鉱夫全員の支持を持っているんだ。……それだけじゃない。ナルテックス鉄工の傘下である農業畜産業漁業酪農……何かと貴族から軽視されがちな産業も、ナルテックス家が護ってるわけだろ?』


『え、ええ。……不当な搾取と戦う炭鉱夫達の集まりみたいなナルテックス家は、搾取されがちな他の産業の方からもご支持頂けてますので……』


『だよな。……もし、お前が保釈されてシャバに出て、ナルテックス家と炭鉱夫とその家族と、ナルテックス家を支持している産業の人々が束になって歯向かえば、さすがのタツナミ家も厳しいことになるだろう』


『……だから、保釈金で自由になる私を何が何でも拘束してたかった……!』





実際、私はナルテックス家に帰ったあと、金と人脈の力を使って裁判所周りにとんでもない数の人を集められたのです。



……もし、保釈されてすぐ実家と協力出来てたら、これよりもっとすごいことを起こせていた可能性はありました。



ルイスが恐れていたのは、恐らくこのことだったのでしょう。





「そもそも、ご自分の逮捕命令に確固たる自信があるならば、襲撃だなんてリスクの大きい真似なんかせず正々堂々戦えば良かったのです! でも貴方はそれをしなかった!!! 何故なら自分の逮捕命令に自信が無いから!! ただ目の前で起こった火災が怖くて、傍にいた炎の加護人の私を犯人と決めつけ逮捕させたに過ぎないから!!! いかがですか!?」





私の発言に、傍聴人の皆様がざわつかれます。 



……正直なところ、ルイスが私を襲撃した真の理由はわかりません。


でも、この考えが間違っているとも思えません。



ルイスはきっと図星を突かれて慌てているでしょう……と私は奴の顔を見ました。



しかし、ルイスは何も慌てた様子も無く、面倒臭そうに溜息をついただけでした。





「……勝手な憶測で語らないで頂きたい」


「憶測ですって……?」


「被告人は、リヒト王子の証言の反対尋問で、ヘンリエッタ検事騎士が言ったことを覚えているか?」





うんざりしたような顔で、ルイスは話し続けました。





「『シドウの外套についた大きな破れ傷は何によるものか? までは証明出来ない』と。……それについて、リヒト王子は確かにこう答えたよな? 『そうだ!』と、ね」


「……あ、ぁぁああああ!!!」


 



リヒトさんは確かにそう答えてました。


彼が証明したのは、靴跡と護衛の靴が一致していることだけ。



……あの現場で加護人の騎士が風の魔法を放った証拠など、どこにもないのです。



それこそ、火災現場に私が炎の魔法で火を付けた証拠が無いのと同じ。



いつの間にか、追い詰められているのは私の方でした。





「それに、シドウ・ハーキュリーズが証明したのは『私の護衛は前科持ちの加護無し』ということだけ。……護衛が私の加護人の騎士かどうかまでは、証明出来てない」





ルイスの言葉は至極真っ当でした。


学園ではアホ丸出しだったくせに、今日は全然隙を見せてはくれません。



正直、裁判前にシドウさんとお話した際、この流れはある程度予想出来てました。



昨夜の最終打ち合わせの際、シドウさんは『俺達にルイスを倒せる決定的な証拠は無い。だから、きっと苦しい展開になるが、どうにか耐えて裁判を長引かせてくれ』と仰いましたから。



しかし、いくら流れが予想できても実際に裁判でアドリブで戦う緊張感と恐怖は凄まじく、手が震えます。



この緊張感と恐怖は、ルイスも同じように感じているのでしょうか。





「被告人がこの裁判に勝つためにしなければならないのは、『被告人が冤罪である証拠』か『火災の真犯人がいる証拠』を出すことだけ」





ルイスは言葉を続けます。





「なのに、被告人が証明したのは、『揚げカスは冷まさないと自然発火する』ことと、『私の護衛がシドウ・ハーキュリーズを襲撃した』ということだけ。……被告人の有罪を覆すほどの決定的な証拠では無いのだよ」





鼻で笑ってこちらを見下ろすルイスは、木槌を持ちました。





「それでは、もう判決を言い渡して良いだろうか」





マズい。勝ちを確信しているルイスは今この瞬間裁判を終わらせようとしています!



私達は『まだこの裁判を終わらせるわけにはいかない』のです!!!




何か、何か無いか!?



ルイスが言った言葉の中で私に証明可能なものは!?



ルイスは


『私が冤罪である証拠』


『火災の真犯人がいた証拠』


のどちらかを証明しろと言いました。



この二つつのどれか一つでも証明出来れば『裁判を長引かせることは可能です』。



でも、私にこの二つのどれかを証明することなんて出来ない!


どうしよう、せっかくシドウさんが徹夜でルイスの護衛が加護無しだと調べてくれたのに!!


このままじゃ、シドウさんの頑張りを無駄にしてしまう!


ただでさえシドウさんを加護人の騎士にして命を繋――――――!





「……いや、あったわ。……一つだけ証明出来るのが、あったわ」




私はブツブツと呟いて、『左胸を押さえました』。





「加護人の騎士の所有印……」




私の独り言に、シドウさんは「お前まさか」と次に起こす行動を予想されたようですが、私に残された武器はこれしかありません。





「ルイス裁判官……。貴方が先程仰った『護衛が私の加護人の騎士かどうかまでは証明できてない……と言う発言』に、異議を申し立てます。…………これって、この場で証明できますよね? 『加護人の騎士の所有印を、私達加護人が出せば』」





捜査一日目の夜を思い出しました。



『鏡を見ながら左の胸元へ左手を添え念じると、手の甲と同じ炎の加護人の印が浮かんで来た』光景が頭に浮かびます。





「加護人の騎士を所有する加護人の証は、私達加護人が浮かび上がらせた瞬間、シドウさん達加護人の騎士にも同じ加護人の印が浮かぶじゃないですか。……だから、ルイス裁判官。……今この場でそれを証明してください!」





これは正直悪足掻きです。


ルイスに勝つ決定打を掴めない私達は、何としてでも『裁判を引き延ばす』必要があるのですから。


それに、ルイスの着ている礼服は飾りが多く豪奢です。

脱ぐのに時間がかかるから、少しは時間稼ぎが出来るでしょう。



奴はきっとまたこちらを見下したような顔で、余裕綽綽として『悪足掻きに付き合ってやる』と言うはずです。



だって、ここで拒否したら『やましい事があると大勢の傍聴人の前で暴露することになる』のですから。



ルイスは賢い強敵です。そんなアホみたいな真似するはず無――――





「拒否する」


「え?」


「これ以上の審理は無効だ無効!!!! 今すぐ貴様に有罪判決を下すッ!! 」



 


どうしましょう。


まるで人が変わったみたいに、ルイスが急にアホになりました!


下手な小説の悪役みたいに、ルイスは悪手をキメたではありませか!?





「ルイス裁判官、そんな拒否だなんて。貴方と護衛達は加護人と加護人の騎士という関係では無いのでしょう? それならさっさとここで証明したら良いじゃないですか」


「……か、仮に私がこの場で加護人の騎士所有印を出し、同時に護衛達の胸元に所有印が浮かんでも、私と彼らの関係を証明することは不可能だ! た、例えば!! この場にいる護衛達を加護人の騎士にした張本人が、私と同時に護衛達の所有印を浮かび上がらせる可能性があるではないか! わ、私を陥れるために!!」





あれれ?


加護人の騎士の所有印の話になった途端、ルイスは私に逮捕命令を下した時のようなビビリでヘタレた様子になりました。



顔を真っ青にして怯えたように震えています。





「……貴方を陥れるため、貴方と同時に所有印を出す風の加護人とやらが存在するなら、いっそ傍聴席や建物の外で屋台に並んでる風の加護人全員をこの中央闘技場に集めて一斉に検査します?」





私は「すみません風の加護人の皆様〜!! 後で美味しいご飯をご馳走しますから、ご協力お願いできますか〜!!!」と拡声器で傍聴人の皆様へお声がけしました。



そして。




「でも、それをするならまず、当然、風の精霊を受け継いだタツナミ家のご当主である貴方に、加護人の騎士の所有印確認検査を受けてもらいますけど」




私がそう言うと、ルイスは「それは、無理だ、出来ない」と慌ててしまいます。



何故そうなったかはわかりませんが、突然の焦り始めたルイスを見て、私は逃がすかいな!! と追撃します!!





「加護人の騎士の所有印確認を拒むなら拒んでくれて構いません。…………でも、そうなると……もう一人証人の出廷をお願いしなきゃならなくなりますよ? …………火事が発生した際に、消防隊と警察騎士を呼びに行ったパンドラ・クローバーをね」


「!!!!!」


「だってルイス裁判官とパンドラ嬢は恋人同士なのでしょう? それなら、貴方の加護人の騎士の所有印について証言することも可能ですよね? ……それに、火災の現場にいた彼女の証言も聞きたいですし」





シドウさんと最終打ち合わせをした際、こんな話をしました。




『プロメ、ルイスの最大の弱点はパンドラかもしれない。……だから、この切り札はここぞと言うときに使うんだ。……例えば、相手が追い詰められてる時、とかな』


『……確かにそうですね。だって、人前で私と婚約破棄してまで一緒になりたかった女なんですから。追い詰められた時にパンドラにちょっかい出されたら、アイツ大慌てでしょうねえ』





予想通り、様子が変わったルイスにパンドラの名を言うとグダグダになりました。





「私も彼女もこの件に無関係だ! 証拠を出せなかったお前の負けだ!!」


「証拠……それならルイス裁判官も証拠を出してくださいよ。……貴方がここで加護人の騎士の所有印確認検査を受ければ、貴方もパンドラ嬢も事件に無関係って証明できますけど?」


「何故私がそのようなことをしなければならないんだ! 私は裁判官だぞ!? 被告人の指示に従うなどあり得ない!」





ルイスの動揺っぷりに、傍聴人がざわざわとし始めました。


ここで静粛に! と木槌を叩ける裁判官が入れば良いのですが、その裁判官が一番静粛じゃありません。



何故ルイスは急に冷静な態度を崩したのでしょう。



でも、今はそんなことを気にしている場合ではありません!!



まるでアホの素人が小説の展開に困ってご都合主義展開にしたようなこの好機!!!


これを見逃すわけないじゃないですか!!





「それじゃあお認めになるんですか? ……私とシドウさんを襲撃した護衛達はルイス裁判官の加護人の騎士であると」


「黙秘する!!」


「それじゃあパンドラ嬢のお話を聞かないと」


「却下だ!!!!」


「……良いんですか? そんな駄々を捏ねて……」





私は拡声器を片手に、傍聴人の皆さまを見回したあと




「大勢が見てるのに?」




と言いました。





「傍聴人の皆様も、気になりますよねえ? 『私達を襲撃した護衛とルイス裁判官は、加護人の騎士とその加護人なのか?』って」





この言葉に、傍聴人の皆様は一気にざわめかれます。

その中には、


「ルイス裁判官が事件に無関係なら、この場で加護人の騎士の所有印があるか無いかの検査を受けりゃ良いのにな」


とか、


「パンドラ嬢も火災の現場にいたなら、その人の話も聞きたいよな」


とか、


そう言ったお声が次々と湧き上がります。



そんな傍聴人の圧を掻き消すように、ルイスは声を荒げます。





「被告人、貴様の話は全て憶測に過ぎない!! 貴様は決定的な証拠を何一つ見つけられず、自身の無罪を証明出来なかった!!! 裁判は証拠こそ全てだ!!! いくら傍聴人を煽ったところで!! お前は、この裁判に勝つことは出来ない!!!!」


「ええ。……そうなんですよ。……そもそも私は最初からこの『裁判に勝てるはず無かった』んです」





私は『裁判の負け』を宣言しました。



そして、シドウさんが手に持つ懐中時計をちらりと見ました。



時刻は、もうお昼です。



――ならば、『裁判を長引かせる必要はもうありませんね。』





「ルイス裁判官、私は貴方に一つだけ謝らなきゃいけないことがあります」





私は拡声器を片手に弁護席から裁判官席へと歩み出します。

その後ろシドウさんも付いて来てくれました。





「ルイス様、貴方はとても優秀な裁判官です。私はずっと貴方のことをバカ公子と舐めてましたが、撤回します。……貴方は『裁判という戦場では最強の相手』でした。それは今日、嫌と言うほど身に沁みましたよ。………………でもね」





裁判官席……つまりルイスがいる壇上に着くため、私は一段一段と階段を登ります。


近付いて来た私に、ルイスは怯えた顔で後退りました。





「ルール無用のきったねえ場外乱闘なら、私達の勝ちや」





私は拡声器を片手に、もう片手の握り拳を天に突き上げます。



そして。



握り拳から人差し指を突き出し、それをルイス――――


ではなく傍聴人の皆様に向けました!!!!





「傍聴人の皆様!!!! 私達国民を裁く裁判官が、こんな奴で良いんですか!? 私達の税金で働く裁判官が!!! こんな有り様で安心できますか!?」





私に話しかけられた傍聴人の皆様は、みな吃驚した顔でざわめかれました。





「貴様、一体何を」


「ルイス裁判官は加護人の騎士の所有印確認検査を受けたくないんですって!!! 何ででしょうねえ見当もつきません!! でもそれって…………国民の皆様に隠さなきゃならない事があるからなんじゃないですか? 税金を払ってくださる、国民の皆様に」





正直なところ、ルイスが加護人の騎士の所有印の検査を拒否した理由はわかりません。



ですが、この話題を出した途端、ルイスは一気に崩れたのです。



この好機を逃す理由は無い!!!





「さっさと所有員の検査を受けて国民の皆様に無実を証明すりゃ良いのに、貴方はそれを拒んだ。……それなら仕方ない。パンドラ嬢に証言をお願いしなければ。…………でも、貴方はそれすらも拒んだ。…。それは何故か?」





私の話には何の法的証拠は無い。



でも、人々の心に疑惑と恐怖の種を植え付ける事はできる。





「貴方と護衛達が、保釈された私とシドウさんを襲撃したからなんですよ」


「貴様らを襲撃? それなら証拠を見せろ! そもそも、そんなことをする動機は何なんだ!?」





ルイスの動機、それは恐らく以下の通りなのでは? と思いました。





「ルイス裁判官、貴方本当は心の何処かで『もしかしたらプロメ・ナルテックスは冤罪だったかもしれない』って思ってるんじゃないですか?」


「……違う。私はお前が犯人だと本気で」


「だって、さっきも言いましたけど、本当に私が火を付けたとお思いなら、正々堂々と戦ったら良いじゃないですか!! なのに、貴方は護衛達と一緒に私とシドウさんを襲撃したんです!!! ……風の魔法を加護人の騎士達に使わせてね」


「だからそれは何の証拠も無い貴様の憶測だと」


「だったら貴方がそれを証明したら良いじゃないですか!!!! 税金を払ってくれる国民の皆様の前で!!!!! 貴方の潔白を見せ付けたら良いじゃないですか!!!! こんな風になァアッ!!!!」





私はドレスのホルターネックを中央に引っ張り、傍聴人の皆様に胸元――解剖学で言うと大胸筋の部分を晒し、加護人の所有印を出しました。



シドウさんが


「プロメお前!!!! 大勢の前で何してんだ!!!! 早く仕舞え!!!!」


と慌てておられます。





「シドウさんも加護人の所有印を出してください! お願いします!」


「わかった!!! わかったから早く仕舞え!!!」





シドウさんも制服を脱いで加護人の騎士の所有印を出してくれました。



私達のとんでもない突然の行動にルイスは完全に怯んだ顔をしています。





「貴様正直か!? 仮にも女が人前で肌を」


「乳房ちゃうからええねん。……それに、お前倒す為やったらこの場で正々堂々全裸にでもなったるわ」


「ななな、なんて非常識な……! 頭おかしいんじゃないのか!?」


「勝つためなら何だってしたる。せやから、はよ、正々堂々おどれも出せや、所有印」


「!!!」





私がそう言うと、ルイスは血相を変えました。





「な、何が正々堂々だ!! 神聖な法廷を散々荒らしただけでなく!!! 公衆の面前で服をズラして胸元を晒すなんて……! 公然わいせつ罪だぞ!? それを人にも強要するのは強要罪だ!!! シドウ・ハーキュリーズ!!! お前も警察騎士ならこの女を止めろ!!!!」





大慌てのルイスはシドウさんに話を振りますが、シドウさんは落ち着いて反論されました。





「……その前に、まずは貴方が身の潔白を証明されるべきでは? ……それに、こいつが出したのは解剖学で言うところの大胸筋の部位であり、乳房でありません。だいたい、大胸筋くらい、今どき胸元の空いたドレスや服装でいくらでも露出してるじゃないですか。……公然わいせつの定義が少々古いのでは?」


「やかましい!!! 裁判官の私に警察騎士のヒラ隊員如きが法律を語るな!!!! というかお前もさっき慌ててじゃないかこのチンピラ男!!!!」



シドウさんから冷静な反論をされ、ルイスはムキになって言い返してきました。


所有印の話題とパンドラの話題で一気に崩れたルイスには、先程まで見せていた強敵の面影など微塵にもありません。



そんなルイスにシドウさんをチンピラ男と呼ばれ、頭に来た私は反論しました。





「シドウさんはチンピラ男なんかじゃありません!!! 見事な槍術で私を助けて、命懸けで私を守ってくれたヒーローです!!!」


「何がヒーローだ!!! こんなのチンピラ以外の何者でも無いだろ!!! だって、だってこいつは『鉄パイプで人をボコボコにする』ような奴だぞ!? ヒーローじゃなくてやからの間違いだろ!!!」





……警察騎士元公安部隊のシドウさんによる、ルイスの調査結果は以下の通りでした。



頭は良いが、その反面好戦的で熱中すると周りが見えなくなる性格をしており……そして、詰めが甘いと。





「……なるほど。そうですか。……ルイス裁判官は、『シドウさんは鉄パイプで人をボコボコにする裏社会の輩』だと、今、言いましたね」





シドウさんはこうも言いました。


『プロメ、よく聞いてくれ。ルイスは【アホの振りをして本来の能力を隠していると思われる】が、別に奴は役者じゃねえ。


だから、【気質や性格まで偽っているわけじゃない】……だから、ルイスは必ずボロを出す。


いくら頭が良くても、【性格が駄目過ぎて要らん事を言ったせいで失脚する奴】を、警察騎士として腐る程見てきたからな』





「……シドウさんは、鉄パイプで戦ったんですか。そうですか。へえ、へえ。…………私、『槍術としか言ってない』のに、よくわかりましたね。……まるで、現場を見てたみたいに」





私は拡声器を使って円形闘技場の外にも聞こえるように言いました。





「どうして、シドウさんが鉄パイプを使ったと、知っているんですか? ルイス裁判官」





私の質問に、ルイスは答えます。





「それは、……そう! 護衛から聞いたんだよ!!! ボロボロになって帰ってきた護衛が鉄パイプで輩にボコられたって!!」


「いいえ。それはおかしいですよ。だって貴方さっき言ったじゃないですか。…………『護衛の行動はいちいち把握してない』『お前達への襲撃は、全て護衛が勝手にやったこと。私も今知ったんだよ。困ったものだね』って」





私の追撃に、ルイスは取り乱し慌てながらも冷静に反論してきます。





「私の発言は法的に何の効力も持たない。よって証拠にならない! ……だったらこう言ってやる。……前もってシドウ・ハーキュリーズの話はヘンリエッタから聞いていた。彼はその場に落ちてる長物を武器にして戦うのが得意だと。………だから、鉄パイプで戦うこともあるのだろうと予想したまでだ。…………裁判の勝ち負けは証拠が全て!! ……私の発言などなんの価値も無い!!!」


「…………ええ。確かに、裁判は証拠が全て。……でも、さっきも言うたやろ? きったねえ場外乱闘なら私は負けへんぞッ!!!!!!」





シドウさんは「もう時間だ」と懐中時計を見せてくれました。




私達の『本当の作戦』を始める時間がやって来ました!!!!





「聞きましたか『傍聴人の皆様』!!!!!!」





私は拡声器を片手に叫びます!





「私達国民を裁く裁判官が、こんな奴で良いんですか!? 私達の税金で働く裁判官が!!! こんな有り様で安心できますか!?」


「だから何だ!! お前は証拠不十分で裁判に負けたんだ! 傍聴人を煽ったところで何の意味も無い!!」



と偉そうに言いやがりますが、『もうコイツに用はありません』





「ルイス裁判官は


『火事の原因は炎の加護人による犯行でそれ以外はありえない』と決めつけてろくに捜査もせず!!! 


『パーティーで大量に振る舞われた揚げ物のカスが自然発火したのでは?』という一般常識すら持ち合わせなかった!!! 


『ただその場の恐怖に負けて私に逮捕命令を出したのです!!』


しかも!! 


『その失態を隠すために護衛を使って襲撃までしてきました!!』


……シドウさんが鉄パイプで護衛を倒す様を、コイツは高みの見物をしていたのです!!!」





シドウさんが鉄パイプで私を護りながら命懸けで戦う様子を、加護人のルイスは物陰に隠れて見ていたのでしょう。


こいつから共有された精霊の加護によって魔法が使えるようになった加護人の騎士共が、風の魔法でシドウさんを切り付け酷い怪我を負わせたのです。



私は、絶対にこいつを許さない。





「傍聴人の皆様!!!! 我々の税金で飯食ってる特権階級の裁判官がこんな有り様で安心して暮らせますか!? 不公平!! 不平等だと思いませんか!? こんな奴にまともな判決が下せると思いますか!?」





傍聴人の視線は一気に私に注がれます。


ヒリヒリする視線を感じながら、私は話し続けました。





「次にルイスに不当逮捕されるのは貴方のご家族かもしれない!!! 貴方の母親!! 父親!! ご友人!! 夫!! 妻!!! 子供!! それとも貴方かもしれない!!!! こんな恐怖に耐えられますか!? 恐ろしいですよねえ!? 不当逮捕を権力使って成立させ人の権利を侵害するビビリの上級国民が裁判官だなんて!!!! でも!!! これが現実なんです!!!」





私は、ルイスをビシッと指差し叫び続けます。





「我々庶民にはどうする事も出来ないかもしれません!!! だって相手は特権階級だからぁ!!! ……なんて、諦めるのはまだ早い!!! 私達には国民の権利があるじゃないですか!!!!! ……今日、この裁判所でやるらしいですよ。……『裁判官国民審査』が、ね」





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