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14・シドウさんのご両親

シドウさんと共闘してぶっ倒れて眠りこけたあと、目を覚ましたら全く知らぬ場所にいました。





「どこやねんここ!!」





私はどうやらベッドに寝ていたようですが、このベッド、なんだかやけに年季が入っており、ところどころに少年向けっぽい絵柄で描かれたキャラのシールがベタベタと貼ってあります。



周囲を見渡せば、野球のバットやグローブや漫画雑誌や何か知らんもんが積み重なって本来の用途で使わることはなかっただろう勉強机があり、その隣には船や城や戦隊ヒーロー系のキャラなどのプラモデルが飾られた棚があります。



そして、またシールだらけの本棚には、漫画が無秩序に詰め込まれており、よく見ると下の方に教科書と思われる本がぐっちゃぐちゃになっていました。



なんですか、この絵に描いたような少年の部屋は。

この手のタイプはクソガキ……いや言葉が悪いですね、やんちゃで元気なタイプの少年の部屋でしょうか。



しかし、この部屋はなんだか少し切ない雰囲気があります。

まるで、部屋の主が去ってから、随分と長い時間が過ぎたような……。





「あらぁ! プロメさん! 目が覚めた?」


「え!? え!? あの!? えっと!? 誰ですか貴女!?」





突然部屋に入ってきたふくよかなおばさまは、人の良さそうな笑顔を浮かべています。顔立ちがとても綺麗で可愛らしく、きっとこの方のお子様はさぞ美形なのだろうと思いました。

そんなおばさまの優しい笑顔を見ていると、炭鉱町のオカミさんを思い出します。



それにこのおばさま、髪も目も見事な美しい赤色をしています。

ここまで純粋な赤は見たこと…………あります。



私がおばさまの赤毛と赤色の目に、とある人物を重ねていると。


下の方からドタドタと騒がしい音がして。





「プロメ!! 無事か!! どっか痛いところとか無いか!?」


「シドウさん……」





警察騎士の制服を脱いで、運動着――流行りの言葉だと黒いジャージを着たシドウさんが部屋に飛び込んできました。


そして、私の両肩をぎゅっと掴み、心配そうな顔をしています。

あまりの強い力に、私は痛みで顔をしかめてしまいました。





「プロメ、体は平気か? 病院だったらまだ開いてるから調子が悪かったらすぐ言え痛゛ってェッ!!!! 何すんだババア!!!」


「こらシドウ!!! 女の子の体に勝手に触るんじゃない!! しかもお前そんな馬鹿力で!!! プロメさん痛がってるじゃないか!! あと!!! 良い歳こいて母親をババアなんて呼ぶな!!」


「うるせェ!! グーで殴られなきゃ俺も普通に呼ぶわ!! それにテメェこそいい歳こいて口で言うより手が早ェの直ってねえじゃねェか! 児童虐待でしょっ引くぞ!!」


「なぁにが児童虐待だクソ息子!! あんたみたいなきかん坊のクソガキ、手で教えなきゃ聞きゃしないだろうが!! それにあんたは二十二だろ!? 児童じゃないだろうが!!」






私に対しては優しい顔をして微笑んでいたおばさまは。


シドウさんに対しては、まるで悪ガキのお母ちゃんみたいな顔をしています。


絵に描いたような、母ちゃんです。



と言うことは……。





「あの……えっと……貴女は……シドウさんの……お母様……?」





◇◇◇





「いや、プロメ。お母様なんて上品なもんじゃねぇよこんなん痛ェッ!!! 何すんだクソジジイ!!」





私にそう話すシドウさんは、今度は頑固そうなおじさまに頭をスパァンッとはたかれました。


こちらの頑固そうなおじさまのお顔立ちは、多分シドウさんが歳とったらこんな感じになるのだろう……と思えるほど似ており、渋いイケてるおじさまという感じです。


そして、やはり、混じり気の無い美しい赤色と赤い目を持っています。



ということは。





「シドウてめェ俺の女に『こんなん』なんてどの口が言いやがる!!! ガキの頃からほんとオメェは口も悪けりゃ頭も悪ィ!! 可愛いお嬢さんの前だからってカッコ付けんじゃねえ!」


「は!? べ、別にカッコつけてねえし!! 俺は元々こんなんだろクソジジイ!!」




私の目の前で、シドウさんとおじさまが仲良さそうに喧嘩をしています。

そんなお二人を、おばさまが「いい加減にしろこの馬鹿親子!!!!」と首根っ子を押さえました。



普通なら喧嘩を前にして怖いと思うところでしょうが、この人達の喧嘩は見ていて微笑ましいというか、不思議と和んでしまいます。


このご家族は、ものすごく仲が良いのだと思います。

そんな暖かさが伝わって来ました。





「……あの、そもそも、私はどうしてここに? というか……あの、今何時ですか?」





◇◇◇





「なるほどなるほど……。私は黒服との戦闘の後ぶっ倒れてしまい、そんな私を抱きかかえたシドウさんは、意識の無い女を自宅に連れ込むのはマズイし、もしかしたら黒服の連中にナルテックス邸で待ち伏せされてるかもしれないと考え、そのまま汽車に乗り込み、尾行を撒くようにして実家に帰ってきた……という形でしたか」





そして、シドウさんが子供時代に使っていた部屋で少しだけ爆睡した私は、たった今目を覚ましたという事だったそうです。


まだ日付は変わっておらず、晩ごはん時くらいの夜でした。





「そして、えっと、こちらが、お母様であるルネ様と、お父様であるゼンジ様……ですね」


「へへっ……なんでェ……お父様ってのは照れるなちくしょう……。プロメさん、もし良かったらパパって呼んでくれても構わねェぜ」


「こらアンタ! そう言う失礼な言動は最近の言葉だとセクハラって言うんだから! ごめんなさいねプロメさん。このクソジジイを後で五・六発殴って説教しておくから」





お母様――ルネ様は、お父様――ゼンジ様の脇腹にグリグリと拳をめり込ませています。


脇腹に攻撃を食らったゼンジ様は「悪ィ悪ィ母ちゃん。んだよ、妬くんじゃねえやい」とちょっと嬉しそうにしています。


そんなゼンジ様に、ルネ様は「いい歳こいて妬くもんもないさ。武器屋らしく焼くのは鉄だけにしておくれ」と冷たい目を向けていました。



それに、『武器屋らしく』という台詞から、どうやらシドウさんのご実家は武器屋さんなのだとわかりました。





「もうやめろや親父!! 母ちゃん!! ナルテックス鉄工のお嬢の前でんな貧乏くせェ夫婦漫才すんなや!!」


「いえいえ!! なんか数分のやり取りだけで、なんでシドウさんがこんなに優しいのかが分かりましたよ。……ねえパパ!」





この家族は仲が良い。

ただ仲が良いだけじゃなく、私という突然の客人への配慮も欠かさない。


……そんな事実が分かった今、シドウさんの言動こそ荒っぽいのに肝心なところは優しくて配慮も出来るという人格が、いかにして生まれたのかがわかります。



そんなシドウさんのお父様であるゼンジ様は、私にパパと呼ばれて吃驚したあと、少し照れたように顔を背けつつ『へへっ』と笑いました。





「! おい聞いたか今の!! パパだってよ!! かぁーっ!! 俺はなあ……女の子も欲しかったんだよ……。シドウは俺に似ちまったせいかアホの悪ガキにしかならなかったが、母ちゃんに似た可愛い女の子からパパって呼ばれてみかったんだよ俺ァ」


「そうねぇアンタ。シドウも妹がいりゃあ、ちったあマシになったかもしれないもんねぇ」


「……まあ、俺達にゃシドウ一人で手一杯だっただからな……。それによォ、こんなクソ息子でもたまには役に立つってもんだ。……こんなに可愛いお嬢さん、一体ェどこで出会ったんだか……」


「ほんとにねェ……うちのクソ息子が、こんなお人形さんみたいな可愛らしい子を……。後でご先祖様にお礼言っとかなきゃ」





ゼンジ様とルネ様は息ぴったりにため息を付きました。

そんなお二人の隣でシドウさんは居心地が悪そうに「違ェよ!! そんなんじゃねェ!! プロメに失礼だからやめろクソ夫婦!!」と怒っています。



そして、さっきから可愛い可愛いと褒められまくった私は、なんだか口元がニヤけてしまいフヒヒとなってしまいます。



学園時代では周囲から成り上がりの炭鉱女と呼ばれ、私を裏切りやがったクソ平凡男やルイスやクソ女パンドラや取り巻きのクソ令嬢からは『貧相なブス』『まな板に手足が生えた生命体』『花嫁修業の売れ残り』『人の価値は見た目じゃない』と散々言われまくっておりましたから。



ゼンジ様とルネ様が私に言う可愛いというのは、男性を育ててきたゆえ少女というのが珍しく思えてしまうからでしょう。


簡単に言えば、精悍でハンサムな大型犬を育てきったあと、小型犬を見て『可愛い〜〜』とはしゃいでしまうアレだと思います。


そんなアレでも、私は可愛い可愛いと褒められてしまい有頂天になってしまいました。





「もう〜お二人ともお上手なんですからあ! そんなに気を使って頂かなくとも良いのですよ? 私はもうシドウさんの妻なのですから! あははっ」


「プロメ!! お前!! それは」





シドウさんは『やべっ』という顔をしています。


そして、恐る恐るといった様子でご両親を見ました。


お二人は驚いた顔で固まっています。

……驚いた表情がすごくそっくりで、あ、この夫婦やっぱ仲いいな、と思いました。



私が和んでいると、ルネ様が恐る恐ると口を開きます。





「シドウあんた……。プロメさんが妻ってまさか……。こんな可愛いお嬢さんがアンタみたいなのと結婚て、そんなアンタ……まさか無理矢理拐ってものにしたとか、そんな人の道に外れるようなことだけはしてないでしょうね……?」


「するか!!! ちったぁテメェの息子信頼しろや!!!」





シドウさんは顔を真っ赤にして反論します。


……ぶっちゃけ私からすりゃ、金持ち令嬢が社会的地位をチラつかせてシドウさんを無理矢理夫にしたくらいに思っているのですが、ルネ様は謎のご心配をされているそうです。


いや〜不思議ですねえ。



ですが、このままではシドウさんに申し訳無いので、私は正直に打ち明け『ご子息様を巻き込んでしまい本当に申し訳ございませんでした』と土下座をしまくろうと思いました。





◇◇◇





「なぁ〜んだ!! 良かった良かった。うちのシドウがプロメさんになんかしてたら一家心中して詫びるしか無いと思ってたけど……。……でも、なんだいそのルイスって奴は!! 熱した鉄をぶっかけてやりたいねえ!」





ルネ様は私の話を聞いて、ルイスにブチギレてくれました。



シドウさんが私の加護人の騎士になったことは、卑怯だとは思いますが言えませんでした。

事情を話す際、シドウさんも加護人の騎士については一切口にしなかったため、ご厚意に甘えたのです。



だって、大事なご子息は私が死んだら道連れに死にまっせ……なんて、言葉にできませんでした。



こう言う、悪者になりたくないと逃げてしまうところが、私にはよくありました。



私が暗い顔をしてしまうと、ゼンジ様が「これでも食いねェ」とちゃぶ台の上にあった菓子皿を差し出してくれます。


……私は「ありがとうございます」とはお伝えしましたが、申し訳無さでお菓子に手を付けることはできませんでした。


そんな私を見て、ゼンジ様は心配そうに口を開きます。





「プロメさん、大丈夫かい? ……ったく、ルイスって野郎は腹立つなァおい。俺ァルイスみてェな性根の腐った奴はでェ嫌ぇなんだ。……母ちゃん、やっぱそのルイスってやつに熱した鉄ぶっかけに行こうぜ」


「ああ。後パンドラってクソ女も一発ぶん殴ってやりたいねぇ」


「あ、いや……パンドラさんってのは……その」


「あ゛? ……なんか言いたいことでもあんのかいこのクソジジイ」





私が『乳もケツもでかいスケベそうな顔した美人のパンドラ』と言ったせいか、ゼンジ様は


「パンドラさんはなぁ……俺ァ女には手ェあげたり怒鳴ったりしたら死ぬ病気だからよぉ……母ちゃんに頼むわアハハ」


と困ったように目を逸らしています。



そんなゼンジ様にルネ様は


「こンのスケベクソジジイが……! ったく! 親子揃ってこんなクソスケベになっちまってねえ。情けないったらありゃしない」


とゴミを見る目を向けたあと、シドウさんにも同じ目を向けました。



え? 今、親子揃って、いいましたよね?


てぇことは、シドウさんも……?





「プロメの前だぞ!!!!! やめろや!!!! 名誉棄損だぞ!!!」





シドウさんは顔を真っ赤にして慌てまくりながら声を張り上げます。そんな顔はまるでツンデレ美少女が『あ、あんたなんか全然好きじゃないんだからねっ!』とキレるアレのようですねえ。



そんなシドウさんに、ルネ様が突っ込みました。





「事実の場合は名誉棄損じゃなくてただの感想にしかならないんだよ!!! あと、名誉棄損ってのは具体性と社会的評価の失墜があって成立するんだ! 警察騎士ってんならフォティオン王国の法律くらいキチンと勉強しときな!! どうせお前のことだ。公務執行妨害と正当防衛しか覚えてないんだろ!」





聡明なルネ様の隣で、ゼンジ様は「母ちゃんは頭良いってのに、なんでシドウはこんなバカになっちまったんだ……? あ、俺のせいか」と腕を組んで目を閉じています。





「いいかいシドウ!! プロメさんになんかしたら!! あたしはお前をぶっ殺して一家心中して詫びるからね!! お前が好きな男向け漫画のラッキーなスケベとかしやがったらぶっ殺すからね!」


「だからプロメの前で下品な話題出すなや!!! 失礼だろうが!!! これ以上ハーキュリーズ家の恥さらすなってんだ!!」


「……安心しろシドウ。俺たちゃ先祖代々この町一の恥さらしだ」


「うるせぇクソジジイ!!」





愉快なハーキュリーズ家の喧嘩模様を見て、私はダーハッハッハと笑ってしまいました。


……そしてなんだか、お父ちゃんとお母ちゃんと一緒に過ごした時のことを思い出します。


少し切なくなった、そんな時です。





「なんだいルネさん。あんたの声外まで聞こえてたけど…………あらぁ! シドウちゃん! お帰りい! 帰ってたのかい!」





多分ご近所さんだろうと思われるおばさまが、開きっぱなしの玄関からひょっこり顔を出しました。



それを堺に、どんどんご近所さん的な方々が集まって来て、そんなご近所さん的な方々は、それぞれ肉だの魚だの野菜だの酒だのジュースだのと様々な食材を持ち寄ってくれて、結果的になんか知らんけど宴会になりました。


こんな『なんか知らんけどご近所さんが集まって宴会になる』というのは、炭鉱町でもよくある事です。





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