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10・あの時のオッサン!!!!!!!

「ね、ねえシドウさん! シドウさんって子どもの頃はどんな漫画とか絵本とか芝居とか紙芝居とか見てましたかっ! 私はもっぱら半透明で宙に浮いてる小動物みたいな精霊と、その精霊の力で女の子が変身したり恋愛したりする系のアレでしたアハハハ」





私は緊張感からしょーもない話をシドウさんにしまくっていました。



だって、今私達が歩いている娼館通りは、もうおっ始める前の人々でごった返していたからです。

 


娼館や酒場や連れ込み宿はド派手で怪しげで色とりどりの光で満ちており、道行く人々の身なりもギラギラしています。


それに、お客さんを呼ぼうとする色っぽいお姉さま方や、美男子だらけの看板がド派手に飾られた酒場などがそこら中に溢れており、『ここは異世界か?』とすら思うくらいです。



こんな淫靡でヒャッハーな町をシドウさんと歩いていたら、私もヒャッハーになってしまいそうです。


だからこそ、私はヒャッハーにならないよう、童心に帰れそうなしょーもない世間話をシドウさんに振りまくっていたのでした。





「随分うるせえ場所だな。……プロメ、大丈夫か? ……ってすまん、さっきの話、何だったか」


「ああ! いえ! 大丈夫ですよ大丈夫! えっと子どもの頃はどんな漫画とか絵本とか読んでましたかって話です! あはは」


「……ガキの頃か……。アレだな……。ヒーロー系の漫画とか絵本とか読んでたな」


「なるほど! 人気ですもんねっ、ヒーロー系! 私は精霊とか言う半透明で宙に浮いてる小動物を肩に乗せて、変身する女の子の恋愛系を読んでましたよっ!」


「……へえ、半透明で宙に浮く小動物乗せてる系の恋愛モノか。……まあ、漫画とかに出て来る精霊ってだいたいそんなもんだよな。……この国にいる精霊達も、そんな可愛らしい見た目してんのかな」





絵本や漫画や芝居に出てくる精霊とは、だいたいは風と大地と水の精霊がモチーフとなっています。

モチーフとなった精霊達は可愛らしい小動物として描かれ、主人公の肩辺りに半透明で浮かんでいるのがお約束です。



そして、炎の精霊は怖い魔物や地獄の存在のように描かれ、正義の精霊達とその加護人に倒されるのがお決まりでした。





「……どんな見た目をしているんでしょうかね、精霊ってのは。……やっぱり、半透明で宙に浮いてる感じなんですかね?」


「どうだかなあ……。半透明で宙に浮いてるってのが、そもそも想像できねェからなあ……」





私とシドウさんは半透明で宙に浮く存在に思いを馳せつつ、人混みの中を歩いていました。


時には路地裏に入り込み、時には回り道をして元来た道を歩く……と尾行を撒くよう動きます。





「シドウさん、どうですか? 尾行、撒けた感じですか?」


「ああ。……さっきまでしてた足音がしなくなったからな。それに、こんだけ人が……しかも男女の二人組が多いんだ。……連中も見失ってるだろうよ」


「……良かった……」





私は背中から力が抜ける思いでした。



私の肩を抱いて歩くシドウさんの緊張も緩んでいるのが伝わって来ます。





「プロメ、よく頑張ったな。……それに、ごめん。……また、怖い思いをさせちまった」


「いいえ。お気になさらず! シドウさんこそ、私が相手でなんかすんませんねえ……あはは」


「……俺は、そうは思わねえ……けど」


「! ……辛気臭いことばっか言ってすみません! お気を使わせてしまいましたね」




どうやら、シドウさんは嘘もお世辞も下手なようです。

ウジウジした私を気遣おうと精一杯頑張ってくれたのでしょう。





「このまま通りを抜けたら駅の裏口に出る。……そしたら汽車に乗って、お前の実家のナルテックス邸まで送るよ」


「……わ、わかりました……! ありがとうございます……!」


「本当は駅までで大丈夫かと思ってたが……尾行が出たとなっちゃ一人にしたら危ねェからな。このまま帰したくない」


「このまま帰したくない、なんて……そんな情熱的な言葉、簡単に言うもんじゃありませんよ。勘違いする奴が出て来ますって」


「……そっか。……わかった」





素直にわかってくださるシドウさんがありがたいです。


……というか、シドウさんはなんか誠実ゆえの天然というか、天然のタラシというか、どこか危なっかしさがありますねえ。


そんな危なっかしいシドウさんは、私を見ながら言いました。





「なんて言えば、勘違いしてくれるんだ?」


「ああ〜。そうですよねえ。ヘンリエッタ様のお好みがわからない状態なので何とも言えませんが……。ま、精一杯のご助言はさせていただきますよ! 私も性別だけはヘンリエッタ様と同じ女ですし、言われて勘違いしそうな言葉は何となく察しはつきますから!」


「……じゃあ、プロメは? ……プロメは、なんて言われたら勘違いするんだ?」


「え、ええ……? ええと……直球で聞かれると……自分の小っ恥ずかしい思考回路を暴露するみたいで……なんか、は、恥ずかしいです……っ! だめぇ……許してくださいぃっ……」


「!!!! ……ま、まあ……いいよ、うん。その台詞で充分だ。……色々と助かった。ありがとう」


「おお! さすがシドウさん! 色々と助かったと言うことは……もう女心を理解されたのですね! 女心は恥じらいと激しさと粘着質と激怒と嫉妬と激情の荒れ狂う暴風雷雨の大嵐ですからね!」


「……ほとんど災害じゃねえか」





シドウさんがやれやれと溜息をついた、その時です。



そんな時です。





「お、おおおおお前は!!!! シドウ・ハーキュリーズ!!!! それに!!! プロメ・ナルテックスも!!!!」





と、突然目の前に現れたオッサンが、私達を指さし驚愕といった表情を浮かべています。


しかもこのオッサン、私を取り調べた警察騎士じゃないですか!!!


このオッサンのせいで!!!!! 私はいらん恐怖を植え付けられ!!! 


シドウさんは私に散々ボロクソに言われてしまったのです!!!!



シドウさんに対して酷い事を言いまくったのは私なのでその罪は私にありますが!!! 

それでもコイツはぶっ殺したい!!!!



そんなオッサンは、死ぬほど慌てた様子でシドウさんを見ています。





「シドウ・ハーキュリーズ!!! なんでお前がここにいるんだ!? しかも保釈されたばかりのプロメ・ナルテックスを連れて……! まさか! 牢屋じゃアレだからここでってか!?」


「あんたこそ、ここで何してんだよ。傍に若い女侍らせて。……あんたこの前奥さんと結婚二十周年記念のパーティしたばっかだろ……? しかも子供と犬までいるのに」


「うるさい! これにはアレだ、わけが…………! 頼むシドウ!! いや、シドウさん……! いいや! シドウ・ハーキュリーズ様!!! 妻と子と犬には言わないでくれ!!!」





オッサンはその場で土下座をしました。

ざまぁ!!! 良い気味です!!





「謝る相手が違うだろ。……あんたはプロメを脅して自白を強要したんだぞ? ……テメェ自分がしたことわかってんのかッ!?」


「あ、ああああ! そうですよね!! プロメ・ナルテックス様!! その節は誠に申し訳ございませんでした!!! あれはただの脅しです!!! 鍵の壊れた牢屋に入れたのも、そもそも女性用監獄の牢屋があそこしか空いてなかったからでした!!! ほんとすみませんでした!! だからプロメ・ナルテックス様!!! 今見たことは妻と子供と犬にだけは言わないでください!!!!」






オッサンは慌てふためきながら私とシドウさんに土下座をします。その隣で女はあくびをしていました。


ざまぁみろです!!!!! 



……ですが、こんなに大きな声で名前を呼ばれたということは。





「……ッ!! 奴ら勘付きやがった!! 逃げるぞ!!!」





舌打ちをしたシドウさんは険しい表情で、私の手を引き路地裏へと逃げ込みます。


すると、背後からカツンカツンカツンカツンカツンと数名の靴音まで聞こえてきたじゃありませんか。


あの不倫クソジジイのせいで、せっかく尾行を撒いたのに全部パーです。


そんな不倫クソジジイは、背後から「頼むプロメ様!! シドウ様!!!! 妻と子どもと犬には言わないでくれぇええ!!!」と叫んでおりました。



……カミさんにチンコロたろかこのクソジジイッ!!  テメェの不倫に犬まで巻き込むなやッ!! と私は思いました。





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