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平穏な生活

京都に来て1か月がたった。


朝起きて朝ご飯と理緒のお弁当を作る。

準備を終えたところで理緒が起きてくる。

昨日も遅くまで論文を読んだりしていたようで眠そうだ。


「ご飯食べると生き返る」


そういって朝からご飯をお代わりする様子を見ると私は嬉しくなる。


「シャツ、アイロンかけてくれたんだね、ありがとう、ほんと助かる」

理緒は感謝の言葉を忘れない。

1か月たった今も、わたしがここに来たばかりの時と変わらず言葉をかけてくれるのがうれしい。

理緒と結婚する人はきっと幸せになるだろうと思う。


理緒が仕事に出かけると、私は家の掃除をして、洗濯をして、布団を干す。

喜んでくれる人がいると家事も楽しい。


一通りの家事を終えたところでパソコンを開く。

最近、在宅でできる仕事を始める準備をしている。

あと半月で有休消化期間が終わるので、その後始める予定だ。

Webデザインの担当をしていたことに感謝する。

そのスキルがまさかこんな形で活かせるとは思っていなかった。


軽くお昼を食べて買い物に出かける。

理緒が今日は1日病院勤務で体力を使う日だから、お肉が食べたいと言っていたので、選んでいると理緒から連絡が来る。


“今日、一人同僚家に呼んで一緒にご飯食べてもいいかな?食費は払う”

“今ちょうど買い物に来てるからいいよ。メニューなんでもいい?”

“32歳男だからお肉で!栄養足りてなさそうだからなんかいい感じでお願い”

“分かった”

32歳の男性か…とスペアリブを手に取る。


栄養足りてなさそうって言ってたから、野菜もたくさん使おう。誰かのためにメニューを考えるのは楽しい。


「ただいまー美冬。」

「おかえり、理緒。おつかれさま」

「あー、そうそう、こちら花宮爽先生。同じ研究室なの」

「…どうも」

すらっと背が高くて細身で青白い顔をしている。

「初めまして、宮野美冬です。」

「修平の大学時代の友達でね、いつも栄養状態悪いから気にかけてくれって言われてるのよ」

修平、と言うのは理緒の恋人で、今アメリカに留学している。


「すごい、スペアリブね。おいしそう。野菜もたくさんだし。ありがとう、美冬」

理緒が荷物を部屋に置きに行っている間、花宮さんと二人きりになるが花宮さんは全くしゃべらない。

「花宮さんは理緒と同じ研究室ってことは、お医者さんなんですか?」

「…はい」

「じゃあ、循環器内科?」

「…そうです」

シーンと静まり返ってしまう。

「苦手な食べ物ないですか?」

「なんでも食べます」

なんだかその回答が可愛くて私はふふっと笑ってしまう。

「なんか、変なこと言いました?俺」

今日一番長い言葉が出る。

「いえ、なんだか言い方がかわいいな、と。すみません、男性にこんなこと言うの失礼ですよね」

花宮さんは不思議そうな顔をしている。

「かわいいって初めていわれました。」

「そうですよね、すみません、大人の男性に向かって」

「いえ、悪い気はしなかったです」

「それなら良かった」

と言いかけたところで理緒が驚いて立っていることに気が付く。

「花宮先生が…会話してる…」

「…俺も、会話くらいします」

そのやり取りに私は笑ってしまう。


「花宮先生って呼んだ方がいいのかな」

と理緒に確認すると、

「いえ、さんでお願いします」

と花宮さんは言った。

「だそうです」

と理緒はいたずらっぽく笑った。


細身で青白くて不健康そうだったのであまり食べないんじゃないかと思っていたが、花宮さんは意外とたくさん食べてくれた。

基本私と理緒がしゃべっていたが、ときおり短い言葉をはさんでいた。

食事が終わり片づけをしようとすると、花宮さんの携帯が鳴る。

「はい、あ、わかりました、すぐ行きます」

そういって電話を切ると、

「すみません、呼び出しがかかってしまって。ごはん、おいしかったです。ごちそうさまでした」

と花宮さんは深々と礼をする。

「いえ、お口に会ってよかったです」

花宮さんはもう一度軽く会釈をして帰っていった。


理緒と片づけをしていると、

「花宮先生、どう?コミュ障だけど、優良物件だよ」

優良物件って、と私は笑ってしまう。

「お医者さんってもてるんでしょ?花宮先生にはもう付き合ってる人いるんじゃない?」

「医者はモテるけど、花宮先生はモテない。コミュ障だから」

あ、またコミュ障って言った、と私は苦笑いする。

「ごめん、花宮先生があんなにしゃべるの初めて見たからつい興奮した。もし嫌じゃなかったら、また連れてきてもいい?」

「うん、私は構わないよ」

理緒は嬉しそうに「そうかそうか」と言っている。



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