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母と妹の訪問

次の日、久しぶりに料理でもしようと思い買い物に出かける。少しづつ日常が戻ってきた気がする。鮭が安かったので、今日はクリーム煮でも作ろうと決める。


買い物を終えて部屋に戻り、買ってきた食材を冷蔵庫にしまう。健吾との思い出がある食器類は捨ててしまったので、残っているのは新社会人になったばかりのころに買った100均で買ったお皿しかないが、新しい生活を始める自分にはぴったりだと思った。


ピンポーン

インターフォンが鳴る。モニターを確認すると、そこに立っていたのは母と小雪だった。


最初は居留守を使ったが、15分おきに何度もインターフォンを鳴らすので、その音に耐えられなくなり出る。

「…はい…」

「あぁ、よかった、美冬。お願い、開けて頂戴。少しでいいから話をさせて」

この部屋にあげると逃げられない。そう思った私は、外でなら話を聞くと伝えた。


この前健吾と入ったカフェに入る。私は二度とこのカフェには来ないと誓う。


「心配していたのよ。少し、痩せたわね」

母が私の頬に触れようとするのを私はとっさによけてしまう。

「大丈夫よ、話って何?」

私は二人の顔をまともに見ることができない。


「お姉ちゃん、ごめんなさい…。私、健吾さんを好きになってしまって、ごめんなさい」


大きな瞳に涙をたくさんためて小雪は私をじっと見つめる。

この子は本当にかわいい。健吾が夢中になるのも分かる。私だって、こんなことになるまでは小雪が可愛くてしょうがなかったのだから。


「小雪はね、大好きなお姉ちゃんに結婚式に出てほしいっていうのよ。見守ってほしいって。本当にあなたには申し訳ないことをしたって毎日とても悲しんでいるのよ。だから、許してあげてほしいのよ。ね、美冬、お願い」


いつもこうだ。小雪はこうやって悲劇のヒロインになる。たとえ、小雪に非があったとしても。そして周りを味方につける。


「ごめんなさい、私は健吾と小雪の結婚式を冷静に見る自信はないの。どうしてもつらいの。だからごめんなさい結婚式には出席できない」


以前の私なら、格好つけて、気にしてないふりをしたかもしれない。でも、もうこれ以上自分が傷つくことは選択したくない。


“今の美冬に必要なことは自分のことを1番優先に考えて大事にすること”

理緒の言葉が、私が強がることを止めてくれた。


「分かったわ。結婚式のことは諦めるしかないわね。あなたのつらい気持ちはもっともだわ。ただ、美冬、お願い。来月小雪が健吾さんのところに引っ越すから、時々様子を見てあげてほしいの。ほら、小雪はこっちに知り合いもいないし、心細いって言ってるのよ。ね、お願い。たった一人の姉妹なんだから」

「お姉ちゃん、おねがい、私お姉ちゃんがいないとだめなの」


私は東京にいる限り、逃げられない。それじゃあ私はいつまでたっても立ち直れない。


「私、来月、引っ越すの。関西に。だからそれはできない。健吾と二人で頑張って」


「関西ってどこに行くの?」

母が慌てていることが伝わる。

「それを今は言うつもりないの。ごめんなさい」

「お姉ちゃん、おねがい、小雪を一人にしないで」

小雪が私の手を握ろうとしたとき私はその手を避けて立ち上がる。


「小雪は、健吾と結婚することを選んだの。だったら、私とこれまで通りの関係でいることは諦めなきゃいけないと思う。どっちも都合よく手に入るものではないのよ」


言えた。小雪を突き放すことが、今やっとできた。


小雪は呆然としている。きっとこれまでのように私が許すと思っていたのだろう。

「元気でね」

そういって私は千円札を置いてカフェを出る。

「待って、美冬」

母の声が聞こえる。


エレベーターを待つ間に理緒にLINEをする。

“理緒、私京都に行きたい”


すぐに理緒から返信が来る。


“歓迎するわ。待ってる。”


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