入学試験編:1
しばらくはこっちの投稿メインになりそうです
俺は負けた。
言い訳する事も出来ない程圧倒的な実力差、経験差。
俺は尻餅を付いた状態で彼女は俺を上空から見下ろす構図。
完膚なきまでの敗北。だけど俺は今悔しがってなどいなかった。
俺は彼女をまじまじと見つめる。
現在は夜。空には点々と星が輝いており、その中央に満月が一際美しく、そして儚く輝いていた。そしてその下には俺を負かした相手。白い髪が月明かりに照らされて、神々しい雰囲気を纏った彼女。俺より小柄ながらも勝利した彼女。
———俺はそんな彼女に見惚れていた。
誰よりも綺麗なその少女に。
どんな風景よりも美しい彼女に。
俺はそんな知り合いの女性に____
———生まれて初めて恋をした。
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愉快な音楽が街中に鳴り響く。
今日はお祭り。街中は賑わい、すれ違う人々は何処浮かれていた。
手には焼きとうもろこし、チョコバナナ、たこ焼きに焼きそば等々。お祭りならではの食べ物を持ち歩く人が多い。浮かれてるなぁと思うそんな私も手にリンゴ飴を持つ浮かれている人の一人なのだ。
本日は入学式。この街最大の施設、魔法学園ナチュラへ新入生が来る日。
この街は学園都市と呼ばれている。その由来は勿論この街に魔法学園ナチュラが存在しているからだ。
その為魔法学園で何か大きな行事が行われると街中はお祭り騒ぎとなるのだ。
私は手に持っていたリンゴ飴を一口齧る。
___少し酸っぱい。
しかし甘い飴と酸っぱいリンゴ絶妙にバランスの取れたこの食べ物はお祭りの雰囲気と合わさって今まで食べたどんな食べ物よりも美味しく感じたのだ。
「やはりリンゴ飴って言うのは美味しい食べ物ですなぁ〜」
世界一美味なこの食べ物を堪能する。
先程も言ったが本日は入学式。魔法学園で入学式がとり行われるのだ。私もこんな悠長にこれを味わっているが、この私も入学式に参加する身。本来ならこのお祭りムードの街を堪能する時間すら無いのだが、本日はいつもより1時間早く家を出ている。その為集合時刻まで二時間以上ある。
だからこうして私は街を散策する事が出来るのだ。
私はポケットに入れてある財布を取り出し中身を見る。
まだまだ余裕がある。もしかしたらもう少し贅沢しても良いだろう。
私はそう思いながら持っていたリンゴ飴を平らげ、棒を近くにあったゴミ箱に捨てる。そして___
「おじさん、たこ焼き一つくださいな!」
私だって初めはリンゴ飴だけで我慢しようと思っていたのだ。しかし、このお店前を通ってしまったら話は変わってしまうのだ。
香ばしいソースの匂い。店頭には出来立てのたこ焼きといか焼きが並んでおり、どれも私の食欲を引き立たせるのだ。
「あいよ!と、嬢ちゃん学生さんだろ!だったらこっちのいか焼きもおまけしてやるよ!持っていきな!」
屋台のおじさんはたこ焼きと一緒にいか焼きを包んでくれた。
「ありがとう、おじさん」
私はそうお礼を言うと銅貨三枚をおじさんに渡す。
「まあど!」
私はいか焼きを口に運ぶ。
「おじさんこれ凄く美味しいよ!」
「ありがとよ、嬢ちゃん。ところで嬢ちゃんも魔法学園絡みかい?」
「そうだよ、私今日からあの学園に入学するんだぁ」
私は残りのいか焼きを全て口に入れる。
美味しいものとは直ぐに無くなってしまうもので、1分と経たない内に完食してしまった。
「それはえらいこっちゃな!___それにしては嬢ちゃん荷物が少なくないかい?」
私はそう言われて背中を見る。
その背中には動物の皮で作られたであろうパンパンに膨れ上がった小さめのリュックがあった。
ちなみに中には最低限の着替えが入っていた。
「学園に入学したら寮生活だからね!それに学園側が色々援助してくれるんだぁ」
「でも嬢ちゃんそれって__ 」
そう屋台のおじさんが何かを言おうとしてた時、
「キャーっ!!ひったくりよー!!」
遠くの方から女性の悲鳴が聞こえた。そちらの方に視線を向けて見れば人溜りが出来ていた。
そうしてその先、人混みの隙間からナイフの様な物を持った男性がこちらに向かって走ってきているのが確認できた。男性はその手に持つナイフで近くの人を脅し道を開ける。そして女性から奪ったであろうカバンを片手で抱える様に持ち、こちらに向かって走って来ていた。
「おじさん!このたこ焼き一旦預かっておいて!」
「おい嬢ちゃん!危ないから店の後ろに隠れろ!」
私はおじさんの忠告を無視して道の真ん中に立つ。
周りには慌てふためく人、物陰に隠れる人、その場から逃げ出す人等々。
屋台のおじさんに関しては近くで慌てている人に声をかけて屋台の後ろに避難させていた。
私は腕を捲る。
私だって今年しか魔法学園へ入学する内の一人なのだ。そこら辺の人よりも鍛錬して来たし、魔法だってそれなりには扱う事が出来る。
だからそんじょそこらのひったくり犯なんかに負ける道理はないのだ。
こちらに向かってから男性。段々と距離が縮まる。
ナイフをこちらに突き付けながら
「どけっ!」
と叫びながら男性は迫って来る。
明らかに素人だった。
「ここで私があの人を捕まえたら学園で人気者になれるかも」
顔は明らかににやけたいたが体はしっかりと構える。
一発で良い。一発決まればそれで終了だ。
距離が縮まる。ナイフ以外の武器は無さそうだ。右手には女性から奪ったであろうバックを抱えたままの状態だ。その状態では右手は使えないだろう。
間合いに男性が入る。お腹に向かって突っ込んでくるナイフを払い、相手のお腹に向けて拳を入れようとして___
「あれ?」
体が動かなかった。何かに縛られている様な感覚。
私は咄嗟に相手を見る。すると一箇所だけ不自然な点が存在した。
「__魔法陣」
目だ。瞳の上に魔法陣が浮かんでいた。
もしかしたら拘束系の魔法を掛けられたのかもしれない。
だとしたらこの状況はまずい。私が動かないこの一瞬で相手に反撃されるかもしれない。
そんな風に考えていると、
「え、えちょっ、え?」
体が浮く様な感覚。正確には人に抱えられている様な感覚がした。
__私はひったくり犯の男性に抱えられていたのだ。
魔法で縛られて動けない私をひったくり犯の男性は軽々しく抱える様に待つとそのまま先程と同じ様に走り出す。
「嬢ちゃん!!」
屋台のおじさんの声がする。
しかし私は首より上を動かす事が出来ず、さらには声も出せない状態で__
そのまま人気のない路地裏へと連れて行かれるのだった。