ウソだ! オレ様が破滅するなんてありえない!
第五話です。
各方面に根回しを終えたオレ様は、極上のメスどもを用意して、あの愚鈍へ近づけた。
たやすく墜ちるだろうと思った。
だが、なぜか、普通の男ならすぐ墜ちる筈の手練手管に、あの愚鈍は無反応だった。
オレ様は、失敗したメスどもを処分した。
原因はわかっている。
色気づいたメスどもにとって、あの愚鈍は魅力がなさすぎるのだ。
生理的な嫌悪を催させる愚鈍さなのだ。
だから、誘惑にも真剣味が足りなかったのだ。
オレ様は3人目には、たっぷり甘くしてやった。望みを全て叶えてやった。
成功すれば、更に望みを叶えてやると言ってやった。
あの愚鈍を、オレ様だと思って誘惑しろと命令した。
3人目は、今までよりも優秀だった。
まず、あの愚鈍につけられた側近ども誘惑させたが、その恥知らずな誘惑っぷりは、報告を聞いていたオレ様すらを少々興奮させたので、呼びつけて何度も抱いてやった。
オレ様にかわいがられて、3人目は更に本気を出した。
一ヶ月と経たずに、側近どもを全員陥落させた。
こいつは処分せずにオレ様のおもちゃとして生かしておいてやろうか、と思いそうになるほどの優秀さだった。
さて、いよいよあの愚鈍を落とさせる番だ。
落としにかからせる前日、オレ様は3人目をたっぷりかわいがってやった。
本当に具合のいい穴だ。
メスとしてはあの生意気よりも上だろう。
これなら成功疑いなしだ。
成功したら、こいつ、しばらくの間は生かしておいてやろう。
ようやくオレ様の人生についた唯一のシミが消えるのだ!
そのはずだった。
翌々日。
オレ様は王宮で捕らえられ、貴賓専用の牢獄へ放り込まれた。
丁重に扱われたが、外部との連絡は許されなかった。
そして、一週間後。
裁きの場は王宮地下、しかも王族や高位貴族の重罪犯のみを裁く『運命の間』
歴代王の肖像画に取り囲まれ、裁判官席や立会人席が、被告席を見下ろすように囲んですり鉢状に配置された部屋だ。
被告席に座らされたオレ様を、頭上の天窓からの光が照らし、周囲は闇に沈んでいる。
こんな席に座らされているだけで、屈辱だった。
だがオレ様は事態を軽く見ていた。
いつものように証拠はないはずだから、証拠不十分で釈放。
釈放のための儀式としての裁きだと。
だが、その見込みは裏切られた。
オレ様が正式な王太子となるために働いていた関係者のほぼ全てが連行されてきたのだ。
正妃である母までがいた。
母は青ざめ。殺される豚のように叫びでもしていたのか、猿轡を噛まされていた。
正妃ではなく罪人としての扱いだった。
どういうことなのだ!?
いつもと同じく証拠はない筈だった。
確かに、オレ様やオレ様の配下が残した証拠はなかった。完璧だった。
だが、全てを見られ記録されていたのだ。
オレ様がメスどもにあの愚鈍を誘惑するように命じた事まで把握されていた。
しかも3人全てを!
その上、3人目を離宮や学園でかわいがってやった一部始終まで!
3人目のメスは、落とし済みの奴等が回収したのだが、始末しようとした現場を押さえられていた。
王家の『影』にだ。
いつのまにか、あの愚鈍の『影』だけでなく、王家の影までが、あの愚鈍の手脚となっていたのだ。
手駒のメスどもは、高貴なオレ様がかわいがってやった恩も忘れて、洗いざらい喋った。
始末するために現場にいたのは、オレ様と繋がりのないゴロツキどもだった筈だが、オレ様の配下も同時に捕らえられていた。
安全のために何段階にもしておいた命令系統を遡られ、オレ様までたぐられていたのだ!
事態の急速かつ最悪の展開に、オレ様が、このオレ様としたことが呆然としてしまった。
余りにも急速な悪化だった。
事前に準備されていたようだった。
王家の『影』が集めた証拠は完璧だった。
処分した筈の、失敗した二人のメスまでが、向こうの手に握られていた。
では、あの死体は? オレ様が確認した死骸は?
いや、オレ様は死体そのものを確認はしなかった。
オレ様についている王家の『影』に確認させたのだ。
ずっと以前からオレ様の直属として仕えていた奴等だ。
裏切られたのだ。しかも、随分前から。卑しい『影』ごときに!
オレ様の行動は全て監視されていたのだ!
なぜだ!?
あの愚鈍にこんなことが出来る筈がない。
父がか? いや、そんなはずはない。
父はオレ様が王太子となるのを望んでいたのだから。
では、なぜ、こんなことに。
気づけば、確定した犯罪行為を読み上げられていた。
オレ様の罪状は、正当な王太子に複数回ハニートラップを仕掛けたこと。
そして正当な王太子を廃嫡させ、自らが王太子となろうと企んでいたこと。
王位簒奪を企んだ逆賊。大逆の罪だ。
そして、共犯として母と母の実家も連座していた。
このままでは、王国の法に従った罰が、オレ様の身に降りかかる。
我が王国は、法治国家なのだ。
前例に従えば、継承権剥奪、断種ののち辺境追放。
形式的には男爵に任じられるが、領民もいない形式的な名誉男爵だ。
正妃である母は北の離宮に幽閉。
母の実家である伯爵家現当主は死罪。
親族の誰かに家名が繋がったとしても、男爵がせいぜい。
そして手を貸した者達はその程度により死罪か平民落ち。
手駒となったメスどもは、積極的に証言したことで、罪一等を減じられ、命は助かるだろう。
そして、数年のうちに、オレ様と母は『病死』する。
このオレ様が。
実質的な王太子であったオレ様が!
国のために当然のことをしただけのオレ様が!
不当にも種なしにされ高貴な血を繋ぐ役目を廃されたうえに、死へ追いやられるというのか!
証拠を否定する事は不可能だったので、オレ様は裁きの場に居並ぶ人々の愛国の志に訴えた。
愚鈍が王位についたら、国は悲惨なことになる、それを防ごうとしたのだと演説した。
これは正しい行為だ。オレ様には一片の曇りもないのだ。
この演説には裁きの場にいた多くのものが心を動かされたようだった。うなずくものは多かった。
王族を裁く時には裁判官を務める法務大臣も力強くうなずいていた。
今まで誰もが、オレ様こそが正当な王太子だと思ってきたのだ。
あの愚鈍ではなくオレ様を!
オレ様こそが我が国の輝かしい明日の希望であり、太陽なのだ!
今もそう考えているはずなのだ!
オレ様は光明を感じた。
まだ続きます。