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あの後、彼女が絡んで来ることは無く、平穏には過ごせている。

だが、以前もそうして忘れ掛けた頃に騒ぎを起こされたので、気は抜けない。自宅まで知られているのだから。


夏休みに入ってから、引っ越し先を探し始めた。

セイが一刻も早く新しい場所に移った方が良いと急かして来た為だ。

ただ、引っ越すとなると費用が掛かるので、旅行は難しいかもしれないと思った。

しかも……。


「セキュリティはしっかりしていた方が良いって。これとかどう?」

「家賃高過ぎ!私に払えると思ってんの?」

「だから、一緒に暮らそうって言ってるんだよ。家賃はオレが払うから、ねーさんは光熱費と食費出してくれたら良い」

「そこまで甘える訳にはいかないわよ!」


何度目になるか、同じ問答をここ数日繰り返している。

セキュリティは充実しているに越したことはないが、セイが求めるランクだと私には難しいだけ。決して、あの非常識な連中が言う貧乏ではない。

それに一緒に暮らすとなると最低二部屋は欲しいが、部屋数が増えれば家賃もその分高くなるのは必定。セイ一人に払わせる?そんなことは出来ない。


のにも拘らず、私が一人でも払えそうな、今よりはしっかりした物件を悉く「NO」の一言で一蹴されている。


「これじゃあ埒が明かない」


私の台詞。


「家賃が高過ぎて払えないって言うなら、家賃の掛からないところで暮らそう」

「……ホ」

「ホームレスじゃないからね!?」


被せて来たわね。

だって、家賃の掛からないところとアンタが言ったんじゃない。


「セキュリティもクソも無いじゃん。何の為に話し合ってると思ってるの?」

「なら、何処よ。まさか実家に戻れって?」

「惜しいけど、実家は実家でもねーさんのじゃなくオレの方ね」

「オレのって……」

「精園邸にってこと。家賃はいらないし、セキュリティは文句無し、部屋は広くて、綺麗な庭まであって、大学もここより近くて、望めば炊事洗濯も送り迎えもしてもらえて、漏れ無くオレも付いてくるよ。言うこと無いでしょ?」


VIP待遇が過ぎて文句なんてつけ様がないわね。……最後のが無ければ。


「だから、同居は駄目だって」

「同居じゃなくて同棲だよ」

「同居にしろ同棲にしろ、実家のことを勝手に決めて良いの?ご両親には迷惑でしょ?」

「母さんは反対しないよ。むしろ、女の子が一人でこんな手薄なところに住んでることを心配する人だから」

「お父さんは?」

「オレが生まれる前から家にはいないから気にしないで良い」


あら、根深そうな問題がサラッと出てきた。


「じゃあ、二人で暮らしでいるの?」

「ううん、お手伝いさんが一人一緒に暮らしてる。後は通いの人が数人かな。だから、部屋はいっぱい余ってるから来なよ」


ただ余っているだけじゃなく、いっぱい余っている。

かつての公爵家とどちらが立派なのかしらね。


「何だったら、そのまま精園(うち)に嫁入りしちゃっても良いよ?」


私の右手に手を重ね、肩を寄せて、笑顔を向けて来る。

二人きりはまだ早いが、実家はもっと早いと思うのだけれど、セイにグイグイ来られると許してしまいたくなる。


「……引っ越しについてはもう少し考えるわ」

「でも」

「それより、先に旅行を楽しみたいの」


暮らすのと泊まりは違うし、部屋だって別になるだろうけど、普段見えていないところも旅行中に見ることが出来る気がする。

かつての感覚なら一緒に暮らせるが、互いに生まれ変わり、この世界での生活習慣が互いにある。泊まりでも少し解れば、前向きに考えられるだろう。

その上で、互いの親に挨拶も必要だ。異性で、恋人と言っているのだから。


「じゃあ、旅行の後、ねーさんの実家に挨拶に行くね」とニコニコしながら言うセイ。


私、考えるって言わなかった?

挨拶って、何?


一緒に暮らす気満々なの??









【君の隣で夢を見る】






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