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「信じられないなら、作った店教えてやるよ。問い合わせれば解ることだからな。オレからも連絡しておくし」
これだけ言えば、納得せざるを得ないのだろう。
リーダー格の男が彼女に「どういうことだ?」と聞けば、か細い声で「盗られたのは本当だもん。あれじゃなかっただけで……」と言い訳をしているが、彼女から何も盗った覚えは無い。
まだ絡まれそうな予感がする。
今は、これ以上言い掛かりを付ける気は無い様で「行こう」と言って立ち去ろうとする。
それを「ちょっと待て」とセイは呼び留めた。
何故と思ったけれど……。
「間違いだったんだ。謝るのが筋だろ。後、ワンピースのクリーニング代も払え。オマエらが馬鹿騒ぎしなきゃ、こうはならなかったんだからな」
「なっ……だが、エルはそれじゃないにしても盗られたのは本当だと言っているんだ」
「なら、まず証拠見せろ。ストーカー紛いにねーさんの後を着けてバイト先にまで現れた以外は大学の外じゃ、まったく関係は無いのに家まで知っているんだぞ?証拠も無く、ソイツが言っているだけのことだ。異様なのはそっちだろ?」
「だが、エルは……」
「さっきからそればかりだな。オマエには自分の意思が無ぇのか?」
そう感じる気持ちは解る。
以前から、「エルが」「エルは」と繰り返してばかり。
そんな人に今頭を下げられても許したくない。
「セイ、もういい。謝る気が無い奴に口先だけの謝罪は受けたくないわ。頭下げられたら、許さなきゃいけないじゃない。私、コイツらのこと許したくないもの」
「解るけど、こんな奴らがねーさんの心に留まるなんて嫌なんだけど。オレだけがいれば良い」
「無理な話ね。それより、もう行きましょ?指輪が返ってきたから本当にもう十分。帰って着替えたいし」
「……そうだね。これ以上コイツらに関わるだけ時間の無駄だもん」
背中に手が添えられ、歩き始める。
セイが近くにいたカフェの店員に「騒がせてごめんね。片付けと弁償は騒ぎを起こしたアイツらがやるから」と連中を指差し、何かを言われる前に「当然だろ」と冷め冷めした視線を送っていた。
何となく、私も視線を向けてみると、正に鬼の形相で彼女に睨まれていて……思わず、小さく「うわ」と零す。
セイには聞こえた様で「見なくて良いって」と背中を押される形でその場を後にした。
これで本当に終われば良いが、また絶対何かして来そう。そう思わせるには十分だった。彼女の表情は。
同じ大学内にいたら避けられないか……。
帰るのかと思ったけれど、セイが「一応担任に相談しておこう」と言うから、担任の元に向かい、騒ぎについてと連中についてを話した。
忘れがちだが、担任はいるのよね。
私の状態もあって、向こうからも話を聞いた上で何かしら対応すると言ってくれた。
因みに、セイが講義中に抱き付いてきた一件でお叱りを受けた講師でもある。若くはあるが、落ち着いた雰囲気でしっかりした印象。一見、茶髪で軽薄そうに見えるけど……人は見た目じゃ解らない。講師の中ではダントツの人気らしい美形だとセイが言っていた。確かに美形だけれど……。
教師としては良い人っぽいから、良いか。
帰りは、セイに送ってもらった。
このまま帰るとワンピースの汚れが人目についてしまうから、代わりの服をと店に立ち寄ろうとするのを止めるのに苦労したわね。
ならば、とセイの日頃のお洒落アイテムの少し派手めのストールを巻かれることになった。胸元の汚れを上手い具合に隠してくれたから、良かったとは思うけれど……私には派手過ぎる。
【君の隣で夢を見る】




