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「イヤァ」と上がる悲鳴。
助けに入ろうとする男達をいなして、腕を捻り上げた彼女の指からあっさりと指輪を抜取り返した。……少し、抜き取るのに苦労はしていたが、些細なことだ。
取り返せたら、もう用はないという様に彼女の腕を離して、私のところに戻ってきた。
セイの背方に尻餅をついている彼女と彼女に駆け寄る男達が見えたが、セイが目の前に立つとセイしか見えなくなった。
指輪を軽く拭ってから、私の右手を取り、初めて付けてくれた時と同じ様に指に嵌めてくれる。
戻ってきたことが嬉しく、胸に抱き込むと、セイまで私を抱き込んだ。
「可愛過ぎ」とぎゅうぎゅう抱き締めるから、少し苦しい。
取り返してくれたんだもの。今は文句は言わないであげる。
「おい!エルになんてことを!奪った物を返せ!!」
あ、すっかり忘れていたわ。
彼らから庇う様に、私を背に隠してくれる。
嬉しくはあるけれど、視界が奪われるからそこは嫌。ほんの少し、セイの背から頭を傾けて様子を伺う。
「見なくて良いよ」と言われても止める気はなく、皺が寄ることも構わず服の背中部分をぎゅっと掴んでしまった。
「無視をするな」と怒鳴る様な声に前に私達は、そちらを見る。
「えっと、なんだったっけ?」
そう言ったセイの顔を覗き込んだら、惚けている訳ではなく、彼らに対しての興味が心底無くて本当に解っていない様な表情だった。
かつて弟だった時から、こういうところがあったわね。真面目そうな表情で話を聞いている風だったし、私もこっそり教えていたから、気付かれなかったけど。
かつての様に「彼女に乱暴なことするな、指輪を返せ、って」と声を潜めて教えた。
「何ソレ」と呆れ、マスク越しでも解る程のあからさまな溜め息を吐いて見せる。
「オマエらの言っていることが何一つ理解出来ないんだけど?」
「なんだと!」
「オマエらがねーさんから力尽くで指輪を奪ったから、オレも口で言っても大人しく返しそうにないソイツから同じやり方で返してもらっただけのことだ」
「ふざけるな!その指輪はエルの物だろう。それを無理矢理奪い取ったのはその女の方だ!」
「ソイツの?何馬鹿なこと言ってんの?」
「エルから聞いているんだ。今にも潰れそうな安アパートに住むしかないような貧乏人がエルを羨み、エルが気に入っていたその指輪を力尽くで奪い取ったとな!」
セイと声を揃えて「うっわぁ~」と引き気味に洩らした。
色々引くこと言われたわ。
未だにエルって名前らしいことと同じ学部だということ以外何も知らないのだけど?そんな人の何を羨めと?
彼女の話しか聞かないし、彼女の言うことは全て正しいって思い込んでいるところも危うさしか感じない。
何より、なんで彼女は私が安アパートに暮らしていることを知っているの?怖いんだけど。
アルバイト先にも着けてきたっぽいから、家にも?ストーカー??怖過ぎる。
「ねーさん、やっぱり引っ越そう。想像以上にヤバイ奴だから、いっそ一緒に暮らそう」
「……うん、引っ越しはする」
一緒に暮らすのは……保留にしておく。
引っ越すことには賛成したから追撃はなく、彼らに再び視線を向ける。
「ソイツが気に入っていたって言うけど、それ、何かの間違いじゃない?オレがねーさんに贈った物だし」
「貴様っ……その女を庇いたいのだろうが、それはエルがその女に奪われた物なんだぞ」
「庇うとかじゃなく、事実だよ。そもそも、ソイツがこれを手に入れられる訳が無いのに」
「何?」
「市販の物じゃないんだよ。このペアリングはオレがデザインした物なんだから」
…………え?
ペアリング?デザインした??
「そうなの!?」と声をあげて驚いてしまった。
「そ」とにこりと笑顔を向けてくる。
私が気に入ったと言う度、喜んでいる度、セイもとても嬉しそうだったのはこの為だったのね。
首に掛けている鎖を服の下から引き出すと、シルバーの指輪が通されていた。
私にもよく見える様に近付けてくれたそれは、私の指輪より少しシンプルではあるけれど、ペアだと解るデザインのものだった。
これをセイが……?
「ねーさんの指に嵌める物を誰でも手に入れられる物にする訳ないじゃん」
周囲にもハッキリ聞こえる声で言い切った。
「だからさぁ、ソイツの言っていることは間違いなんだよ」
【君の隣で夢を見る】




