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覚えのある光景と被る。


昼食時、セイといつも通り少しの間離れていた。

大学内のカフェで食後にお茶をして、物思いに耽っていり最中でもあり油断した。


捻り上げられた腕も、次いでテーブルに押し付けられた上半身も痛い。

まだ残っていたお茶がひっくり返り、服も濡れた。時間が経っているから、熱くはなかったことは救いだろうか。この前セイがデート様にと贈ってくれたワンピースだったから、良かったとは言えないけど。

痛いとは思いながら、ワンピースの心配をしてしまう。

が、指から指輪が外される感覚がしてハッとする。


「ちょっ、何?外さないで!返し……っ」


声を上げたら、更に強く押さえ付けられた。

頭を傾けて背方を見やれば、いつかの美形集団の一番背の高い奴が私を押さえ付けていた。

その後方に女と男が二人程いる。

非常識な連中が揃い踏みだ。

かつての顔は覚えていなかったが、これがあのノエルを罵った中心人物達の生まれ変わりか。改めて見ても、何の感慨も無い。今の状況には腹が立つが。

私の指から抜き取った指輪をお姫様に渡していた。「ありがとう」と嬉しげに甘えた声を出して、指輪を握り込み、また男の一人に渡すと指に付けてもらうのだ。

それをまた目を輝かせて見つめ、私に目を向けた。


「私の指輪返してもらうわね。大切なものだったのに、あなたに盗られて悔しくて、悠輝たちが取り戻してくれなかったら泣き寝入りするしかなかった。だから、本当にありがとうね」

「エルの為だ。こんな女のせいで泣く必要はない」


……は?

何を言っているの?

盗られたのは私の方なんだけど?

また頭の中のお花畑でキャッキャウフフ状態なのかしら?


とりあえず、押さえ付けられた状態から打破しなきゃ。

騒ぎになっているのに、なんで誰も何も言わないのよ!遠巻きに見ているだけの奴らにも腹が立つ。

拘束から抜け出そうと身体を捩るが、その分強く掴まれて痛みが走る。

でも、負けてはいられない。

彼らに奪われた指輪は、セイの気持ちだもの。

盗られたままなんて嫌。


「っ……誰からも盗ってなんかいないわ!それは私の物、返して!」

「ウソ吐かないで!」

「お前みたいな貧乏人がこんな高価な物を買える訳がないだろ。嘘を吐くなら、もっとマシな嘘を吐け。それでも信じるに値しないがな」

「嘘じゃないわよ!貰ったんだから!」

「エルの物を奪っておいて、貰ったなどよく言える」


いったい何なのよ!

決め付けて!

エルとかいう女の言葉ばかりが事実とばかりに話が進む。

かつての様な状況に、寒気がする。

誰も助けてはくれず、私の言葉は全て嘘とされる状況。


……こういう時こそ、一緒にいてくれるものではないの?


「なんで、傍にいないのよ……セイっ!」

「喚くな、見ぐっ」


私を押さえ付けていた男の言葉が不自然なところで言葉が途切れた。

そして、掛かっていた力が無くなったかと思えば、腹部に誰かの手が添えられ、後ろから抱き起こされる。


「はぁ、ホント嫌になる。オレのいない時にこんなことになって。大丈夫?怪我はしていなさそうだけど……あ、手の痕。このクソ野郎」


最後の一言は、いつの間にか少し離れた位置に移動していた背の高い男に向けてのもので、地を這う様な低い声だった。


「セイ、来てくれてありがとう」

「遅くなってごめん。オレが一緒にいたら、不安な思いもさせなかったのに。服汚れちゃったね。後でまた買いに行こうか。次はもっと可愛い服にしよう」


自身の服も汚れてしまうかもしれないのに、正面から抱き締めてきて、人目も憚らず、額や米神に口付けてくる。


恥ずかしいわね!

後、無駄遣いはさせないから!


セイの腕の中にいるととても安心出来たから、今は言わないでおく。

それより、大事なことがあった。

服を引っ張って止めさせ、「ごめんなさい」と謝る。


「なんで謝るの?」

「それがその……」


セイから気持ちなのに、簡単に盗られてしまったことは言い難い。

言わなきゃと落ち着く為に一つ深呼吸をしてから口を開こうとしたら……。


「あれ、指輪は?」


先に気付かれた。

グズグズしていたから……!

ごめんなさい!


視線をつい非常識なお姫様に向けてしまうと、セイも追って彼女に目を向けた。

目を細めて、じっくり見たのは彼女の手か。

チッ、と周囲の彼らにも聞こえる舌打ちをした。









【君の隣で夢を見る】






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