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避けられるかと思った翌日、セイは講義前に白い封筒を一通渡してきた。
「何これ」
「手紙、かな。もし、また僕の態度が突然変わることがあったら、これ叩き付けて。何だったら、今の僕の母に見せたら全面的に味方してくれるから、馬鹿な僕のことをとことん叩き潰してよ」
叩き潰せって……自分のことなのに過激ね?
何が書いてあるのかしら。
見るなとは言われていないから、後で確認しても……良いわよね?
騙したりはしないと思いたいけど、いざ開いて役に立たない内容だと怖いもの。
「わかった」と言って受け取り、すぐに鞄にしまった。
その後は、案外普通……というか、普段と特別態度が変わるということはなかった。
マスクもいつも通りだし、例年通り暑苦しい時季になってきたから「取ったら?」と言ったら、「やだ」と子供みたいに返してくる。
いや、子供みたいなのは以前から変わらないか。手は繋ぎたがるし、引っ付いてくるし。
実弟だった頃は、無口でクールな印象だったのに、随分甘えたになったものね。
最近になって思い出した私はもう貴族令嬢の素養がないのは当然だとしても、セイは生まれた時から記憶があったと言うから中身はそう変わらないと思うのだけど……。
素直に甘えさせてくれる良い親の元に生まれたのね。
今はどちらも親に恵まれたのなら、良かったと思う。
が、あまりの甘えた具合に苛立つ。
もう互いに記憶があると知った所為かはわからないけど、あれから日に日に距離感が近くなっていった。
「暑苦しい!離れろ!」
七月になったのにベッタベッタしたくない。
コイツも汗かいている筈なのに、汗臭くないどころか、なんで良い匂いさせているのよ。
腹が立つわね。
「え~」と言いながら離れないし!
「ねーさん、もしかして……汗、気にしてる?」
「くっ……」
こっちの気持ちを読むな!
「汗かいてても、ねーさん良い匂いだよ?」
におい嗅ぐなあっ!!
思わず、その頬を張った私は悪くない。
マスクが邪魔して、威力軽減かしら?
立ち位置も悪かったわ。
張った手を取られて、手を繋ぐことになった。
綺麗な面に真っ赤な手形を付け損ねた上に、なんでこうなるの?
簡単に手が出る様な女は普通は嫌じゃないの?
気にした様子もなく、私を見て目尻を緩める。
「もうすぐ夏休み。旅行楽しみだね?」
「うん」
行けなくなるかも、とあの時は思ったから、無事に行けそうで嬉しい。
暑いから泳げたら、もっと嬉しいのだけれど……。
「もう一回買い物行こうか?」
「え、なんで?」
「んー……水着買いに?」
「新しいの欲しいの?勝手に買いにいけば?」
男の水着を一緒に買いに行くのは嫌よ。
「オレのじゃなくて、ねーさんのだよ」
「え、嫌よ。もう人前であんな露出の高い格好は」
「だから暑くなっても薄着しなかった?今年はノエルの記憶もあるから?」
「うん」
察しが良くて助かる。
と思ったのに……。
「大丈夫だよ。オレもねーさんの水着姿を他の奴には見せたくないから」
「じゃあ、なんで買うのよ?」
「旅行先は……まだ内緒だけど、近くに人の来ない川があるんだ。そこなら、人目を気にせず水着で遊べると思って」
「アンタの目があるんだけど?」
「オレにぐらいは良いじゃん。付き合ってるんだし」
「え」
いつ、付き合うって言った?
「え、って何?告白して、指輪を受け取ってもらって、毎日付けてくれてるんだよ?もう十分付き合ってるでしょ」
「えぇー」
えぇー……。
まぁ、そう受け取られても仕方がないの……かしら?
【君の隣で夢を見る】




