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「精園乃愛は星野百合を好きになったんだ」
真っ直ぐな言葉は心に響く。
ちゃんと今の私を見てくれていることは嬉しい。
だが、素直に受け入れられないでいる。
まるで何処ぞの小説の様なことが、かつての世界で起こっていたと言っているのだ。
そんな、まさか。
しかし、あの非常識なお姫様の言動からもそれらしさを感じた。
かつての世界でだけではなく、この世界でまで?
小説みたいなことが本当に起きている?
「とりあえず、アンタのその告白は置いといて」
「え!?おいとくの?酷くない?一世一代の告白なんだけど!?」
「うるさい。それより、大事ことだから」
「僕の告白も大事にして!」
「解ったから、聞け」
トーンを落として睨み付ければ、渋々口を閉じた。
それを見てから、スマホで思い当たる幾つかブックマークしてあるものを確認して、セイに渡す。
「アンタの言ったこと、ここの小説みたいじゃない?」
軽くで良いから目を通せと促すと、スマホを受け取り目を通し始める。
確認するまでに少し時間がいるだろうから、新しくお茶を淹れようとキッチンに。
ヤカンに火を掛けて、立ったまま待つ。
何となく、座り直す気にはなれなかったから。
お湯が沸き、丁度お茶を淹れ終わったところで「読み終わったよ」と声が掛かる。
「早いわね」
「長編は軽く流しただけ。短編だけでも十分ねーさんの言いたいことが解った」
「それでも早いわよ」
「速読したから」
「能力の無駄遣い」
公爵令息時代に培ったものね。
親の仕事を幼い頃から手伝って……というか、押し付けられていたから、早く、正しく処理することが求められた。出来なければ、体罰だもの。自分はそんな早さで処理出来ないくせに。
王太子が彼女に夢中になり出してからは、あの人の仕事もしていた気がする。
公爵家の嫡男はどんどん優秀になるわね、と思っていたもの。
「この強制力ってやつじゃないかってことだよね」
「えぇ」
「前に生きていた世界がゲームや小説の世界かもしれないって思うの?幾らなんでも、考え過ぎじゃない?」
「そうは思うけど、ちょっと気になることがあるの」
あの非常識なお姫様がアルバイト先に来た時、彼女が言っていたことを話した。馬鹿げた話だとしても。
話が進む程に綺麗な顔が険しくなって、話し終えた時には大きな溜め息を吐いて頭を抱えたセイ。
「なんで、その時に言わなかったの?」
「セイを可笑しなことに巻き込むのはどうかと思ったのよ。私が離れれば、アンタには害は及ばないと思ったし」
「ねーさ……百合が僕から離れる?本気で言ってる?ずっと僕は百合のことが好きだって言い続けていたよね?本気にしていなかった?本当に百合が離れて行こうとしたら、しかもそんな理由なら、一生囲っちゃうからね!?」
「怖いんだけど。アンタ、そんな執着系だった?」
「嫌われない様に隠していただけだよ。でも、囲ったって快適な生活を保障するから。外には出なくても何でも用意する。僕以外とは逢う必要はないし、僕がずっと一緒にいるから僕だけを見ていれば良いよ。百合は僕の顔も肉体も好きでしょ?見飽きることないよね?だって、昔はずっと僕の顔に見惚れていたもんね?今も好きでしょ?肉体は水着になった時に見惚れていたの知っているよ。百合、結構筋肉好きだよね?だから、百合好みを保持し続けているんだから。百合が結婚してくれたら、この肉体好き放題でき」
「やーめーてー!」
しかも、結婚って言った!?
そこまで考えているの??
確かに好み。顔も身体も好みだけれども!
ノアだったことを抜いても、セイ自身のことも一緒にいて居心地良かったし、嫌いではない。
でも……いや、違う。駄目だわ。
過去を引き摺っているのは、私の方だ。
セイは星野百合を見ようとしてくれているのに。
今の私達は、姉弟じゃあないんだ……。
だとしても!拗れている!
【君の隣で夢を見る】