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なんだかんだでデートを楽しみにしてくれている様子のねーさんを眺めているのを見ると僕まで楽しくなって来る。
着ていく物を気にした時は、深く考えずに服を贈ろうと思った。
昔、ドレスを贈りたかった。
早くに彼女に婚約者が出来てしまい、相手の顔を立てる必要もあり贈れず。ドレスの一つも贈らない婚約者ならと考えても、費用は同じ生家から出す為に僕からとは言えず。
結局贈れないまま、人生まで終わり。
こうして、また出逢えて、機会があるなら贈りたかった。
今はアルバイトで貯めた自分の金もある。
ドレス程、上等ではないが、彼女に似合う物を選びたい。
残念ながら、女性物には詳しくないので母に相談した。
母は想像以上に乗り気で、彼女が貰っても恐縮しない程度の無難な値段の店を教えてくれるだけではなく……付いてきた。
息子の恋路に物凄く興味があるらしい。
邪魔をするつもりがないなら良いけど、デートの結果報告は求められそうだな。協力したんだから、とか言って。
「デートの相手、いつも連絡取り合っている子よねぇ?今は大学も一緒の」
「うん」
「ふふふ、私の息子なんだから絶対逃がしちゃダメよ?初恋は実らない、なんてことないんだから!そして、早く母さんに紹介なさい!」
「……あぁ、うん」
母のテンションがヤバイ。
逢ってもいないのに嫁認定している系だ。
所謂美魔女の母は見た目通り、中身がキャピキャピした要素がある。
嫁をいびるタイプではないから良いけど……。
それより、ねーさんの服。
初夏に合わせた爽やかな色合いにしたい。白や黄色をベースにするか。
彼女は派手めを好まないから、柄は全体より部分的に入っているのが良いだろう。
普段スカートを履かない人だから……スカートを見てみたいけど、脚は見えていると目に毒。他の男に見せたくないから、ロングスカートかワンピースか。
露出は少なめにして、薄手の物を。
服を買うなら、靴も合わせるべきか?
買い物デートなら沢山歩くだろうし、ヒールは低くて疲れ難い物が良い。
一式買い終えたが、母は少し微妙な表情をしていた。
選んだ物は良いが、サイズを伝える時にしくじっていた。
大体のサイズ感ではなく、細かい数字で答えたのが駄目だった。付き合ってもいない女性のサイズを事細かに知っているものではないから。
知っていると言っても、ねーさんからは聞いていない。
かつてのサイズは知っていて、たまに抱き締めるからサイズ感は解っていた。
その誤差を計算して、今のサイズを見積もっただけ。
……少し不味かったな。
次から気を付けよう。
母にも言っていないが、もう一つ用意してある物があった。
男避けにもなる指輪だ。
恋人になってから、付けてもらいたいけど……なれるかも解らない。
ねーさんが思い出したのだから、関係が修復出来ても弟としてしか見られない場合もある。
そうなっても地道に僕を受け入れてもらえる様に頑張るが、他の男が近付く可能性がある以上、男避けは必要だ。
その為の……ペアリングを用意した。
何としても、このデートで渡して付けてもらう。
勿論、サイズもピッタリな筈。
浮かれていたのは確か。
好きな女性との初めてのデートだ。
これまでだって二人で出掛けていたけど、それとは別物。
約束した時間よりずっと早く、待ち合わせの場所に来てしまうぐらいで。
待つのは苦にはならなかった。
ただ、声を掛けてくる女達は面倒で、適当にあしらう。
ねーさんが来るまで透明人間になりたい。
残念なことになれず、30分程ぼーっと立っていた。
また「あのー」と媚びた声で話し掛けてくる女達がいて、ほぼ聞き流すだけ。
しつこく「本当に待ち合わせですか?」と聞かれるから、投げやりに「本当だから」と答えた。
嘘なら嘘吐く理由があるからだろ。お前の相手をしたくないからそう言っているんだ、ってこと解れよ。嘘じゃないけど。
好き勝手言って誘ってくる女が鬱陶しい。
と思っていたら、「セイ」と呼ぶ声。
え、こんな早くにねーさん!?
駆け寄って間近で見るとやはりねーさんだった。
いつもかわいいけど、更に「かわいい」。
かわいいだけじゃなく、僕が選んだ服に合わせて化粧もしてくれているねーさんの美しさは「思った以上だ」。
「ヤバイ」……勃ちそう。
何か知らないけど、女達が訳の解らないことを言ってきた。
姉弟?今は違う。
そんな柵は無い。
「姉弟じゃない。デートの邪魔すんな」
もう、僕も自由だ。
【君の隣で夢を見る】