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始めに抱いた印象の通り、化粧もしていなかった。

最期に見た時より幼く、記憶にはある顔のまま。

あの頃みたいに人前に出る時は常に化粧をしていたから、更に幼さが見えて、ほっとした。

かつては家族と女の使用人ぐらいにしか見せることのなかった可愛い素のままの彼女だ。


「だい、じょうぶですか?」


不安げに首傾けて、顔を覗き込んでくる様が物凄く可愛いっ!

抱き締めたくなるけど、我慢。

記憶があるか解らないし、今は……他人なのだから、気安く触れてはいけない。

我慢、我慢、と頭の中で繰り返して「大丈夫」と笑顔で答える。マスクだから解り難いけど。


ここで、縁を終わらせたくない。

どうしたら……どうしたら、君と繋がっていられる?




「あの、アナタに一目惚れしました!付き合って下さい!」


俗に言う、テンパった結果、だな。

「へ?」と彼女も混乱?困惑?している。……その表情も可愛い。

事故でも殴ってしまった相手から、いきなり告白は僕も無いと思う。告白したのは僕だけど。でも、Mじゃないし………………彼女になら殴られても良いけど。

こんな時、どう縁を結べば良いか解らないんだから仕方がないだろ!?

人見知りだし、今も昔も自分から誰かと仲良くなりたくて声を掛けたこともないし!

彼女だけなんだ。

昔は……縁なんて結ぶ必要も無く、一緒にいられる存在だった。だから、こうして結ぼうとしなければ結べないことが寂しい。

でも、当たり前じゃないから、今の僕達には違う形の……これまでは叶わなかった関係も築ける。

お願いだから、切らないで。

どうか、僕と……。


困り顔で悩んでいる。

当然だから、もう少しゆっくりと親しくならないと。


「いきなりでごめん。……えっと、トモダチならどう?トモダチから始めるのは?名前知りたいけど、初めて逢う奴に本名教えるの嫌なら……ニックネームとか、名前の一部とかでも良いよ。オレのことは……『セイ』って呼んで?」


ああ、駄目だ。頭が回らない。

本当は名前が知りたい。今の名前で、君を呼びたい。


「セイ、ね……。私は『ユリ』よ」

「え?」

「何?友達になりたいでしょ?」

「なりたい!そっか、ユリか。名前も可愛いね」

「……ありがとう。アナタのこと、この辺りで見掛けたことないけど?」

「あぁ、そこの美容室に髪切りに来たんだ」

「あの新しく出来たところね。同級生が話していたわ、カリスマ美容師がいるって」

「そ……だね」


ユリ……ユリ、か。

今の言い方だとユリはこの辺りに住んでいるのか?

そうだよな。そんなちょっと無防備な格好で出歩いているぐらいだから。

もっと知りたい。今の君を。


「あの、さ。学校もあって、なかなか逢えないから……出来たら、連絡先、交換したい」


拒否しないで、お願い……。


「良いわよ。友達なら当然じゃない?」

「やった!」

「……喜び過ぎ」


思わず、大きな声を出して喜んでしまって、呆れられた。

嬉しかったんだから、仕方がない。

連絡先を手に入れた。

頻繁だと鬱陶しがられる?

様子を見ながら送ろう。


本当は家まで送りたいけど、家をいきなり知られたくはないかもしれない。

紳士的に、紳士的に、だ。

さっきのこともあるから送りたいけど、という心配の気持ちは伝えてから「家に無事に着いたら連絡して」と言い、見送る。

連絡を取り合う始めの切っ掛けにもなる。

こっそり付いて行きたいけど、我慢して連絡が入るまで駅で時間を潰した。

電車に乗っている時に別の連絡が入るのは嫌だから。何も無いと信じるけど……。


10分も経たずに

『家に着きました

殴ってしまって本当にごめんなさい

これから、友達としてよろしくお願いします』

と送られてきて、ほっとした。

返事は電車に乗り込んでからして、ユリのメールを何度も読んでいた。


始めは丁寧な返信だったのが、ぞんざいになったのは数日後のことだった。



あれ?僕、変なこと言っていないよな??









【君の隣で夢を見る】






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