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彼女との再会は、思っていたものとはだいぶ違う形だったが叶った。
高校に上がってすぐ。
相変わらず髪を弄り続けていた僕に、美容云々でも名が通った母はオススメの美容師を紹介してくれたことが切っ掛けで。
電車を乗り継いで一時間半程の町に店があり、休日に予約して行くことにした。
今、僕の暮らしているところと比べたら、少し田舎。
都会から少し外れれば、土地の値も下がるから店は出し易いのだろう。
後は、この長閑さを好んだからか。
母お手製の地図を頼りに、拓けた通りに出ると店はあっさり見付かる。
町並みを邪魔しない程度のオシャレな店構え。
予約制だから、込み合うことも無かった。
ただ、母の紹介ということもあり、お喋りの相手は目一杯させられた。
ついでにヘアモデルも頼まれたが、それはお断り。残念がられたけど知らない。
ヘアモデルでも何でも、目立つことはしたくはなかった。只でさえ、悪目立ちする容姿だから。
前髪は長めのショート。
癖毛は生かして、なかなかオシャレに仕上がった?
スッキリもしたし、満足のいく具合には仕上がった。
お礼を言ってから、来る時にもしていたマスクを付けて店を出た。
マスクは……していた方が見知らぬ女に声を掛けられることが減ったから。人付き合いが良さそうに見えるらしいけど、どちらかというと人見知りだ。
知らない女に声を掛けられるとか苦痛でしかない。
知っている女でも苦痛。話していると理想を押し付けられている気がする。素っ気ない態度でも、都合の良い様に捉えて「クールでカッコイイ」と言われた。只の人見知りだから。
後、口元が色っぽい、とかも言われて気持ち悪かったのもある。
そんな理由でマスクは必需品になっていた。
美容師のお喋りに付き合っていたら夕方になっていて、来た道を通って駅に向かった。
フラッと気紛れを起こして別の道を選ばなかった自身を褒めたい。初めての場所だと見て歩きたくなるから。
行きにも前を通ったコンビニ。
誰もいなかった入り口付近に、高校生か大学生ぐらいの男達が屯していた。少しガラが悪そうで、関わらない方が良いタイプに見えた。
飲み物でも……と思っていたが、止めることにする。近くを通っただけで絡まれたことが何度かあるから、またということもある。
足を止めずに、横目で見るだけで素通りするつもりだった。コンビニから僕と変わらない年頃に見える女が出て来るまでは。
何故か、目に付いた。
今時珍しい、洒落気の無い格好だからだろうか。
小豆色のジャージにサンダルで、ボサついた髪を一纏めにしていた。遠めからで見えないが、化粧もしていないのでは?と思った。
だからこそ、スタイルの良さは際立っていた。
屯する男達もそこに目を付けたのか、一人の男が徐に立ち上がり近付いて行く。
声を掛けたのだろう。女は立ち止まり、男を見るが、すぐに立ち去ろうとした。
男が女の腕を掴むと、他の男達が女を取り囲む様に立った。
明らかに絡まれている。しかも、女一人に男が数人。質が悪い。
このままだと無理矢理連れて行かれることも考えられる。
ヒーロー気取りはする気はないが、後々自身の中にこれ以上シコリが残るのも嫌だった。
近付くと、女の方も相当気が強いのか怯えた様子も無く男達にハッキリと言い返していた。「アンタ達みたいな破落戸は迷惑でしかないのよ!」と。
だが、そういう対応は相手の癇に障るものだ。
どちらも激化していくのが見て取れ、男の一人が拳を握った。
あ、まずい。
と思い、まだ数メートルある距離を急ぐ。
振り上げた拳と女の間に割り込んだ。
「あぶなっ」
が、拳は思わぬ方向から飛んで来た。
嘘だろ……。
僕の死角になっていたところで、女の方も固く拳を握っていたのだ。男達を殴ろうと。
女の拳がマスクの上から頬に入った。
寸でのところで身を引いたから深くは入らなかったが、たぶんちょっと腫れる。
拳にも驚いたけど、それ以上にその女の顔。
割り込んだ瞬間に見た。
身を引いたことで倒れずにも済んで、改めて女を見たら、目を丸くして僕を見ていた。
目がしっかり合うと解ると、「あ、ごめん……なさい」と語尾を弱めて行きながら言った。
呆気に取られていたのは周りの男達もで、興が冷めたのか舌打ちをして去って行った。
残された中で、僕はただ…………彼女を見詰めた。
【君の隣で夢を見る】