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捜しても、捜しても、見付からない。
代わりに、とは言いたくはない……前世に縁のある奴を見付けてしまって心がやさぐれる。
しかし、ソイツがいたおかげとも言いたくないが、彼女がいる可能性は見出だせたことには感謝する。
ソイツ……彼女の婚約者であったマティス王太子殿下だった、『頂岳悠輝』。
今の両親の友人の息子で、歳が一つ上。
なりたくもないのに幼馴染みという位置に。
始めは似ているだけかと思ったが、仕草や言葉遣い、好みを知る程に馬鹿王子と被っていき、確信に変わった。
あの頃の記憶は無い様で、兄気分で無邪気に構ってくる。何歳か歳が下だったら反対に弄ってやれたのに。
僕に記憶がある以上、悠輝もいつかは思い出すかもしれない。それが怖い。
別に馬鹿王子が怖い訳ではない。
もし、彼女を見付けた時に、また馬鹿王子に傷付けられないか……心配なのだ。
あの女が現れる前から、彼女との関係は良好とは言えず、彼女が歩み寄ろうとしても無視無関心。あの女に夢中になるとあからさまにあの女を優遇し、彼女を殴ることもあった。助けなかった僕も同罪ではあったけど、少なくとも手は上げなかった。その分、酷い言葉を浴びせていたのだから、馬鹿王子と大差は無い……か。
彼女に謝るのも、自己満足でしかない。
記憶が無いとしたら……いや、記憶が有っても無くても、今の彼女の人生に僕が関わることは迷惑かもしれない。
違うな、迷惑でしかないだろう。
自身を陥れた連中の仲間、なのだから。
ただ、逢いたい。
……一緒にいたい、と捜すことも迷惑なこと。
偶然出逢うなら、未だしも捜すべきではない。
彼女が願った……自由の邪魔になる。
気付くには遅いが、中学の半ば、態々捜しに行くことは止めた。
それでも、無意識に視線を巡らせてしまっていた自身に気付いて笑うしかない。
今の親には、良い成績でいることを条件に色んな場所に連れて行ってもらう約束をしていたが、彼女の捜すことを止めたので勉強を頑張る必要が無くなった。授業を受けていれば、赤点にはならないから、必死になることも止めた。
今の世界に目を向けた。彼女が今見ているかもしれない世界。
考えるのは結局彼女のことばかりだったが、あの頃には出来なかったことをしてみようと思った。
彼女が願った自由というものが何なのか……。
まず、目が向いたのはファッション。
あの頃には見ない型の服に、斬新な柄。
単色シャツに文字が書かれているだけのは面白くて、専門の店にも行って数種類買った。
あの女に左右される前の僕はきっとこれだなと“シスコン”を数枚買って、部屋着にしている。今は姉がいないから、親には怪訝な表情されたけど。
外着は、自身が格好良く見えるものを選んだ。それに合わせたアクセサリーを探すのは楽しかった。この世界は多種多様だから、選びがいもあったから。
一番興味を惹かれたのは、染髪。
髪を染めるという発想はかつての僕には無かったことで、脱色して様々な色に染めてみた。しっかりケアもして傷まない様に気を付けながら。
校則は厳しくはなかったけど、流石にピンクや紫は叱られた。別に不良って訳じゃないのに、不良扱いされるし……。
成績が落ちていたから、仕方がないかと思って勉強は適度に増やし上位を保持することにした。
面倒なのは、女だった。
髪で遊んだだけで、人間としても遊んでいる様に見えるらしく、所謂セフレとしての誘いが増えた。勿論、全て断った。恋人や特定の相手を作らなかったから誘いは尽きなくて、ウンザリ。
別に貞操を大事にしている訳じゃないけど……好きでもない奴と遊ぶ気は無かった。
そこのところは、かつての感覚が強いかもしれない。
かつてと違って、この世界には避妊方法は幾つもあるからそう簡単には子供は出来ないとは解っていても、結婚しない相手とするのは気が引ける。
そう考えると、かつて婚約関係にあり、婚姻も決定付けられていたあの女と関係を持たなかったことは自身でも不思議に思う。あの頃はあの女に陶酔させられていたのに。
気付かないぐらいの心の奥底では拒絶……していたのだろう。
僕の婚約者になってからも、奔放なあの女を何処かで嫌悪していたか。
どちらにしても、キスさえしない強固な貞操観念だった自身に感謝した。
もしあの女と関係を持っていたら、彼女と二度と顔も合わせられない。
……やっぱり、この操は彼女に捧げたい。
【君の隣で夢を見る】