12
『子よ、自らを責める必要は無い』
彼女の手に口付ける僕の前に、いや周りに精霊達が姿を現した。
以前、何度も見ていた彼女を祝福していた精霊達だ。
今更、何故、現れたのか。
言葉にせずとも、彼らは答えてくれた。
まるで、心を読んだかの様に。
『ふふ……我々は以前と変わらず愛し子の傍にいたさ。子に我々が見えなくなったのは、気付かなくなったのは愛し子から子が離れたからよ』
愛し子……彼女の心から、離れたから。
見えていた時は、誰より彼女の傍にいて、心にも寄り添っていた。
そうしなくなったから、その存在に気付くことが出来なくなった。
離れてしまった僕にも、始めから彼女と相容れないあの女にも、精霊達の存在を知ることが出来なかった理由だった。
国で『精霊の愛し子』として扱われていても、精霊達は僕を「子」と呼び、あの女を「客」と呼んだ。
「愛し子」と呼ぶのは、彼女だけ。
精霊達にとっての『精霊の愛し子』は彼女だけだった。
『客は世界の摂理に干渉出来、創り変える。我々にもどうすることも出来ない存在よ。致し方無いのだ。だが、その所為で愛し子が苦しむことになろうとは……』
『我々は寄り添うことは出来ても共には生きられない。どれ程愛しく想おうとも、愛し子の求めには応えられない。そもそも、愛し子の心は我々には向いてはいない』
彼女の、求めるもの……。
『愛も、恋も、相手に与えるだけのものよ』
『我々はそれを与えることは出来る。しかし、我々は与えられる側にはなれない』
『愛し子の求めは、愛も恋も越えた先にあった。そして、それを向けた相手は……言うまでもあるまい』
一人の精霊が僕に顔を寄せた。
『愛し子の最期の願いは自由』
彼女は自身の行く末を知っていたから、選んだ。
『子よ、ソナタの願いは?』
僕の、願い……?
視線を落とした先に、彼女が飲んだであろうモノが在った。
それに手に取る。
まだ、中身の残ったソレを一気に呷り、精霊達に笑い掛けた。
今も、昔も、ずっと彼女と共にいること。
彼女の、隣にいること。
たったそれだけだ。
他には何もいらない。
彼女を抱き締めて、目を閉じた。
遠くなる意識の中で、優しい子守唄を聞いた気がした。
遠くに聞こえる子守唄はずっと続いて。
次に意識が浮上する中で、だんだんと鮮明に聞こえた。
口を開いても「あー」とか「うー」とか意味無い音を頼りなげに発するだけ。首も動かせない。
子守唄は止み、代わりに見知らぬ女性が僕を抱き上げた。
そう、抱き上げられたのだ。
そこで漸く、自身が赤ん坊になっていることに気付いた。
……生まれ変わった、と言うべきなのだろう。
以前と同じ『ノア』と名付けられ、親から……少なくとも、母親からは愛情いっぱいに育てられる。
幸せではあったと思う。
けれど、気持ちは満たされなかった。
隣を見ても、誰もいない。
彼女がいる筈の場所には、別の奴が立つこともあったが彼女でなければ居心地が悪いだけだった。
自身がいるなら彼女も何処にいる筈だと、動き回れる様になるとすぐに捜し始めた。正確には、彼女を捜す為に動ける様に努力したのだけど。
赤ん坊の頃の、転がることしか出来なかったのが一番苦痛だった。
ハイハイや歩き始めも苦痛ではあった。
行動範囲が家の中だけだから。
しかも、無駄に広い。
公爵家とあまり変わらない広さだと後に解って、癇癪を起こした。
これでは、好きに歩き回れる様になっても敷地内だけに為り兼ねないからだ。
言葉を覚えることも努力した。家の、敷地の外に出ることを主張する為に。
晴れて、所謂公園デビューをしてから必死に彼女を捜し回った。
見掛けた女の子に片っ端から近付いた所為で女好きみたいに見られたのが納得がいかないが、この際気にはしない。一番大切なのは彼女と出逢うことだから。
幼稚園、小学生、中学校、塾にも通い、行動範囲を拡げて捜したが、何年経っても見付からなかった。
同年代ではなく、もっと歳上?歳下の可能性もあり、月日が経つ度に焦りを感じた。
このまま出逢えなければ?
僕と出逢うより先に、すでに誰かのものになっていることも……。
同級生達の恋人が出来たという嬉々とした報告を聞く度に、更に気持ちが沈んでいった。
同級生達は、僕が恋人が出来ないことを悔しがっていると勘違いして励ましてきたけど、違うから!
出来ないんじゃなく作らないだけ!
お前らよりモテるの知ってるクセに!
変な性癖も無い!!
彼女以外に興味無いだけ!!
【君の隣で夢を見る】




