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さぁ、デートよ!
休みの前日にセイから紙袋を渡された。
その中にはシンプルなデザインの白いワンピースが入っていた。歩き易くて、可愛いパンプスまで。
デートに着て来てということらしかった。
買い物デートとなれば出費が嵩みそうだからと、服は家にある物で間に合わせ様と選んでいたから驚いた。
まぁ、せっかくの初デートだから可愛い服は嬉しくはあるけれど……サイズがピッタリな辺りはどうなの?
可愛い服なら、お化粧だってそれなりでなくてはと、スマホで検索して見本にしながら頑張った。普段はあまりしないから、頑張ったわよ。……いきなりじゃイマイチな気がするから、普段から練習しておくべきだったわね。
見れる程度になったんじゃないかしら?
顔がキツめだと言われがちだから、出来るだけ柔らかく見える雰囲気を目指しましたわ!
鞄は、去年の誕生日に母から「こういうの一つぐらい持ってなさい」と贈られたピンクのショルダーにした。
可愛い服も無いのに?と当時は思ったけれど、素直に受け取っておいて良かった。実家から持って来ておいて良かった。
姿見で最終確認して、少しまた……別人になった様な感覚。
着飾っても笑顔の少なかった公爵令嬢、地味生きると着飾らないけれど不敵には笑って見せた星野百合。
今は、どちら共違う……いや、どちらでもある、年齢相応の女の子にやっとなれた気がする。
今の私を見たら、セイは……ノアはどう思うかしら?
約束の時間にはまだ早いと解っていても、二時間も早く家を出てしまった。約束は13時なのに。
待ち合わせた駅も電車で20分程。
改札を出てから、早過ぎたと後悔。今更だ。
一時間近くある時間をどう潰すか。
その前に待ち合わせの場所は確認したくなる。
いないって解っていても、ね。
………………って、いるし!
駅を出てすぐのところに、シンボルの様にある花時計。その前が待ち合わせの場所だった。
真ん前ではないものの、花時計がよく見える位置に立ち、壁に凭れていた。
出で立ちだけで解る美形が憎い。
シンプルに白と黒のコーデに、ワンポイントでピンクも取り入れた装いが似合う。マスクもいつものかと思えば、金糸の刺繍が入ったオシャレマスクだ。
この日の為のマスクかよ。
美形臭を感じ取っているのか、通り過ぎる女達が呟いている。「あのマスクの人カッコ良くない?」と。
声を掛ける挑戦者もいた。断られている様で残念そうに離れて行くけれど。
いるなら、声を掛けるべきよね。
一度深呼吸をしてから、セイのいるところへ向かった。
あ、また挑戦者。
今度の相手はなかなか諦めないのか、セイがハッキリ断っても「でも、ずっとここにいますよね?本当に待ち合わせですか?」と疑わしげに聞いていた。
「本当だから」と素っ気なくなるセイ。
「本当だとしたら、その相手待たせ過ぎですよ~。もう来ないんじゃないですか?」
「そうよね。30分も前からここにいるの見てたんです。待たせ過ぎよ!来る気ないでしょ。だから、私たちとお茶しましょうよ」
……更に30分前からいたのか、コイツ。
ちょっと呆れた。
一時間半前に来てしまった私が言えたことではないから、直接は言わないけれど。
「セイ」と声を掛けると、弾かれた様に女達の合間を割って「ねーさん」と駆け寄って来る。尻尾が生えていたら、思い切り振りまくっていただろうと思わせるぐらい嬉しそうに。
そして、じっと見てきて「かわいい」「思った以上だ」「ヤバイ」とぶつぶつと繰り返す。
ぶつぶつ言うのではなく、ハッキリ言ってくれた方が喜び易いのに……。
「なぁんだ、お姉さんと待ち合わせてたんですね」
近くにいるコイツの声よりハッキリと聞こえてくる声は、セイに声を掛けていた女の一人のものだった。
「ねーさん」と呼んだから勘違いされた?
セイが駆け寄って来る時に睨まれたし、今は品定めする様な不躾さと小馬鹿にする様な視線を向けられている。
確かに、女達の方ががっつり化粧をして綺麗だし、惜し気もなく胸元の開いた服を着て、スラリとした手足を晒している。自分に自身のある人の表情。
「弟さんと出掛けるなんて姉弟仲良いんですね」
「お姉さんも一緒で良いですから、お茶しましょうよ」
かつては姉弟だったから完全に間違いではないけれど、何かムカツク。
セイの手を意図的に握ると、セイも握り返してくれて……。
「姉弟じゃない。デートの邪魔すんな」
しつこい女達にウンザリという風に溜め息を吐いて、視線を彼女らに向けることもなく、私の手を引いて歩き出した。
【君の隣で夢を見る】