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住めば、都かもしれない 5



朝食の手伝いは、女子全員が行うものとする‐特進寮規則第8条‐




ゆえに特進寮のキッチンは、にぎやかである。


「朝子ったら、また夜中にカップラーメン食べたでしょう。お肌に悪いわよ。」


ゴミ箱の中のカップヌードルのカップを目ざとく見つけた坂野さんは、カップを手に取ると、野村さんの鼻づらに突きつけた。


「ちらし寿司だけじゃ、足りなかったものですから。」


背の高い野村さんは、しゅんとしながら、小柄な坂野さんの前で頭をたれた。


傍から見ると、妹が兄を叱っているように見える。


「あれじゃあ、少なかったかしら。バレー部の練習は、大変そうだものね。今日からは、倍の量にしておくわね。」


飯田さんは、二人と取り成すように優しく言った。


「ありがとうございます。」


「あら、やだ。いいっこなしよ。それより、今日は、朝練はないのね。」


「顧問の村田先生が、休みなんです。」


「あらあ、珍しいわね。」


「ええ。」


野村さんは、猫の微笑を惜しげもなく、飯田さんに見せた。


飯田さんの隣でレタスをちぎっていた私の目にも否応なしに飛びん込んできた。


ドクンと音がした。


きっと、寝不足のせいだと自分に言い聞かせた。


大体、昨日は、遅くまで眠れなかった。


あまりに眠れないから、光くんにメールを打つことにした。






今晩は、光くん



私は、今すごく変な気分です。


正直にいいます。


さっき送ったメールは、本心は、半分くらい、後は、妹としての愛情から嘘です。


光くんが結婚した後、ずっと苦しくてたまらなかった。


物凄く暗い気分で、引越ししてきたのだけど、今はなんだか、暗いというより驚き疲れています。


私は、今日、ファーストキスをしたの。


相手は、なんと女の人(私には、そういう趣味はないよ。)


坂野さんという人で、お人形みたいな見た目だけど、中身は、獰猛。


坂野さんの天敵は、真咲さん。


二人は、いつも喧嘩しているらしい。


夕食の時に会ったのは、男性なのにすごく綺麗な望月さんとごつい見た目なのに家庭科部の部長をしている間宮さんとビン底眼鏡をかけた同級生の吉井くん。


高等部の二人は、優しいけれど、吉井くんは、少しとっつきにくい感じ。


最後に会ったのは、野村さん。


夜中にキッチンでカップめんを食べていた。


猫みたいに笑うの。


すごくかわいい。


胸が大きな音を立てました。


光くんの幸せを心から願ってあげることができる日は、きっとすぐそこです!




真夜中の桃



飯田さんと談笑する野村さんを横目で眺めながら、あのメールを送らなくて、よかったと心底思った。


やれやれ。


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