住めば、都かもしれない 2
衝撃的な出来事は、私にとって受け入れがい事実だったに違いない。
坂野さんにキスされた後、私の意識は、暗転した。
目を覚ますと、頭の上で誰かが言い争っていた。
一人は、坂野さんで、もう一人は知らない声だった。
「まったく、お前は。新入生相手に何してるんだよ。」
「いいじゃない。桃ちゃんだって、私の美貌に見惚れていたのよ。」
「だからって、合意なく襲っていい理由にはならないだろう。見境ない奴だな。」
「あーら。モテない男のひがみかしら。」
「誰に言ってるんだよ。」
「去年のバレンタインチョコは、私の方が、4倍多かったわよ。」
「男からも貰うなんて、卑怯だぞ。」
「愛は、卑怯なものよ。」
「よく恥ずかしげもなく、そんな台詞言えるな。」
「なんですって・・・って、あら、桃ちゃん、起きたの?」
般若のような表情から一転、坂野さんは、二人の激しい会話のキャッチボールを見守っていた私に菩薩のような笑顔を向けた。
「は、はい。えっと。」
慌てて体を起こした私は、返事をした。
なんて言えばいいのやら。
「いいのよ。私とのキスが、素敵すぎて、失神してしまったことなんて、全然気にしてないわ。むしろ、そんなに楽しんでくれたなんて、こ・う・え・い。」
頬を添えられた白い手が、妙に熱い。
後ずさりした時、坂野さんの頭にお盆が直撃した。
坂野さんは、頭を押さえて、小さく呻いた。
「もうやめろ。明らかに怖がっているだろう。」
お盆を手にしているのは、見たことない男の人だった。
大人っぽいから、多分、高等部の人だろう。
身長が、かなり高くて、180センチ位ある。
日焼けした肌が、健康的なスポーツマンといった感じである。
「何すんのよ。乙女の頭を叩くなんて、紳士失格ね。」
「どっかの野獣よりはましだよ。」
男の人は、とんでもないことをさらりと言うと、私に向き直った。
「高等部1年の真咲佑介だよ。よろしく、雲野さん。」
差し出された大きな手を握ると、真咲さんは、爽やかな笑みを浮かべた。
「よろしくしなくて、いいわよ。こんな馬鹿は、放っておいて、私と黄昏ランデヴーしましょう。」
坂野さんは、私の手を握っていた真咲さんの手を叩くと、懲りずに近寄ってきた。
「黄昏ランデヴーって、何だよ。それより、もう飯の時間じゃね。やっべ。俺、今日は、テーブル当番じゃね。」
私の心の中の声を代弁してくれた真咲さんは、時計を見ると、慌てたように出て行った。
「あら、残念。それじゃあ、真夜中のティータイムにしましょうね。さ、桃ちゃん。食堂まで一緒に行きましょう。」
坂野さんにひきずられるようにベッドを出た私は、そのまま一階の食堂へ連行された。




