失恋よ、こんにちは
流れ落ちる白い滝を見ていた。
純白の滝を包み込むように抱きしめる腕を眺めながら、銀の大皿に乗ったケーキをたくさん食べた。
オペラ。
ブルーベリータルト。
ルージュ。
ミルフィーユ。
フレジエ。
ザッハトルテ。
モンブラン。
どれも甘くて、どれも美味しい。
贅沢なヤケ食いをした。
「よく食べるな。ダイエット中じゃなかったっけ。」
9個目のケーキを物色していた時、後ろから声を掛けられた。
顔を上げると、灰色のロングタキシードを着た光くんが、立っていた。
童顔なせいか、高校生にも間違えられる光くんだけど、今日は、一度も染めたことのない真っ黒な髪をすっきりと整えていて、なんだか大人っぽい。
だけど、大きな瞳は、茶目っけを含んでいた。
「おめでたい日は、特別なの。」
私は、澄まして答えてやった。
本当は、今日くらい、優しくしてあげようと思っていたけれど。
「先週、家族でお祝いした時も同じこと言ってなかったか?」
「気のせいじゃない。」
ふふんと笑ってやったのに、光くんは、嬉しそうな顔をした。
光君の隣で寄り添う新婦の明美さんも神々しいほどの笑顔を浮かべている。
真っ白なウエディングドレスは、極上シルクで仕立てたシンプルなタイプだけど、長身で細身の明美さんによく似合っていた。
「お料理楽しんでくれた?お友達のシェフに頼んだのよ。」
「はい。すごく美味しいです。」
「食べ過ぎて、腹こわすなよ。」
横やりを入れてくる光くんの脇腹を突いてやると、小憎たらしい新郎は、うっと唸った。
明美さんが、クスクス笑った。
鈴の音が鳴るような声が、かわいらしい。
「光くんは、果報者だね。こんな素敵な奥さんもらって。」
「まあな。」
「やだ、桃ちゃん。」
光くんは、自慢げに言い、明美さんは、赤くなった。
お似合いな夫婦だと心から思った。
私は、立ち上がると、光くんと明美さんを見比べた。
「本当におめでとう。光くん。明美さんと幸せになってね。」
最高の笑顔ができたかどうかは、あまり自信がないけれど。