第8話 腐れた彼は答えを示す
今。腐れたマーチは三体式の構えを取る。薄暗い明かりの下、ユンシュの口を塞ごうとするように左手を上げて。
ユンシュはマーチを見据えたまま、ゆっくりと煙草を灰皿ににじった。立ち上がり、三体式の構えを取る。
どちらも、身じろぎもしなかった。ほんのわずかずつ足を寄せ、間合いを詰める他は。静かだった。
階上から水を流す音がくぐもって聞こえた。
跳びかかるようにマーチは足を踏み込む。繰り出すのは右の崩拳。
ユンシュも同時に踏み込んでいた。かき分けるように両腕を上げる、虎形拳の動き。それがマーチの拳をとらえ、外へといなす。
が。その前にマーチは右手を返した。開いた手は待っていたかのようにユンシュの腕をつかむ。自らの頭上へ掲げるように右手を引き、ユンシュの体勢を崩す。がら空きの、ユンシュの腹を待ち受けていたのは。足を止め突き出していた、マーチの左拳。
鶏形拳の一部、崩拳からの変化技。金鶏抖領。
二人はそのまま動かなかった。やがてユンシュが息をつき、笑う。
「なるほどな。あの酔いどれとは違う、か」
ユンシュは身を引く。マーチの拳は寸前で止められ、当たってはいなかった。かぶりを振り、灰皿の煙草をくわえて火をつけ直す。
「実際、あのときのお前はただの酔っ払いだった。子供でも倒せたろうよ。しかし――」
目だけ向けて続ける。
「――いいのか。本当に、伝えなくて」
マーチは答えず、椅子に腰を下ろす。顔を背け、白く濁った目を閉じた。