第15話 ジニアと、耳障りな銃声と
「ったくよォ、冗ッ談じゃねェぞクソが!」
上がっていくエレベーターの中、オールバックの男は顔を歪めていた。
冗談じゃないのはこっちだ、そうジニアは思ったが。銃を持った男たちの間で、人を殺したばかりの男の前で、口にしようとは思えなかった。そうしようとしてみたところで、震えて歯の鳴る口では無理に違いなかったが。
重たげな駆動音を上げるエレベーターの中、男の靴から昇る血のにおいがして、黒服に体をつかまれたまま後ずさる。その足が何かに当たった。
振り向いてジニアは身を震わせた。そこにうずくまっていたのは、血に染まった白髪の男。黒服たちが現れたときに殺されていた、零地址への案内をしてくれた男だった。だが妙だった。このエレベーターの中、あの男の靴からは血がにおったのに。これだけ血まみれの男から、においがしない。
不意に、白髪の男の体が揺れる。震動のせいかと思ったがそうではない。男は立ち上がり、口を開いた。頬を歪めた渋面で。
「サイキさんよ。どういうこったありゃあ」
「ンあぁ?」
サイキと呼ばれたオールバックの男はいっそう顔を歪める。
顔の血糊を拭い、白髪の男は言った。
「道案内はする、この子も近くで待たせとく、エレベーターの電源が切られないよう細工もする、それは約束した。だがな、零地址から人死にが出るたぁ聞いてねぇ」
「ああ。……ああ、悪かった」
サイキはうつむき、武器を収めると煙草をくわえた。部下を制して自分で火をつける。小さく煙を吐いて言った。
「この落とし前はよォ、キッチリと……」
その姿勢のまま。サイキは棒立ちの男へ蹴りを放った。正面から膝関節を押し込み、破壊するような前蹴り。
「が……!」
男がうめいて膝を押さえたとき。サイキはすでに銃を抜き、男の胸へ向けていた。
「……無かったことにすンぜ、キッチリとよ。難病の孫に臓器を見繕ってやる話もな」
エレベーターが爆発したかと、ジニアは思った。狭い空間での銃声はそれほど空気を震わせ、鼓膜を揺さぶっていた。
男が倒れ、エレベーターが揺れた。床に血が流れ出し、ジニアは後ずさった。脚が震えるせいで、床をこするように少しずつだが。固く引きつる頬はどうしようもなく震えていた。
倒れたまま胸を押さえ、口を開こうとする男をサイキは無造作に蹴る。何度も、何度も。その度にエレベーターが揺さぶられ、やがて男は動かなくなった。
「ったぁくよォ。役に立つかおッ死ぬか、どっちかにしろよな」
気だるげに言って振り向く。ジニアの前に屈み込み、笑った。
「嬢ちゃんは両方だがな。ン?」
首を横に振ろうと思ったけれど。それもできなかった。固まった頬で無理矢理に、笑ったふりをするしかできなかった。上手くできた自信はないけれど。




