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筋トレは好きですか?

「アルフレッド様、今日は胸の日ですよ」


「ぐっ…、くふぅぅぅぅうぁぁぁあ!!」


 なんだか卑猥に聞こえたでしょうか。

 この健全な物語でそんな展開は存在しないのだよ。


「かっこいいですわ!頑張って下さいませ」


 そう、胸の日とは大胸筋の筋トレのことである。

 筋肥大のためには自重より負荷をかけた方が効率的なので、バーベルを特注した。兵隊の剣を作っている鍛冶屋で長い棒と重り5種類、重りが落ちないためのストッパーを作ってもらった。こっそりステラ用の可変式ダンベルという重さを自分で調節出来るダンベルも特注している。


 本当は綺麗にトレーニング出来るようジムのフリーウェイトコーナーにあるような機材が欲しかったが、仕組みをうまく説明できないのであきらめた。


 アルフレッドはマッチョを目指して胸、腕、腹、背中、足を順番にトレーニングしている。


「ステラ様、ウォーキング1時間終わりました!」


 キツネがほんのりピンクに染まった頬でやってきた。

 ママンと子供たち以外は1時間のウォーキングを日課にしてもらっている。半年も王都の貴族街で過ごしてもらうのに王都の観光も自由に出来ない生活を送らせてしまっていて、屋敷にずっといてはあまりにも運動不足になるため毎日に設定した。


 ママンは臨月に入ったため体の様子を見ながら散歩するように伝えており、庭園をよく散歩しているのを見かける。子供たちも庭園で遊んでいる。臨月のママンとちびっこ達が庭師とお花の冠を作っている姿など絵画かと錯覚するほど絵になる光景だ。


「お疲れ様、レモネンの飲み物を用意してもらうわ」


 レモネンは名前でなんとなくわかると思うが、レモンっぽい果物だ。塩と砂糖とレモンで簡易スポーツドリンクを用意して、運動後の水分補給してもらっている。マリーに用意してもらい、キツネは受け取ったあと美味しそうに飲み干した。


「はー、美味しい。アルフレッド様、今日も頑張ってますね」


「いつまで続くか心配してましたが、この調子なら半年後になかなかいい体になりそうですわね」


「あはは!いい体ってもう、ステラ様ったら」


 キツネはケラケラ笑う。

 

「へ、変な意味じゃありませんのに!もう!」


 恥ずかしくて思わず変な返しをしてしまった。


「じゅぅぅぅぅさん!!」


 アルフレッドの大胸筋のトレーニングは13回で限界を迎えたようだ。

 ふうふう息が乱れ、額には玉のような汗が流れている。


 1セットが15回未満で限界ならちょうど良い負荷になっていると思っていい。ぽっちゃりアルフレッドと思っていたが、山育ちだからか意外と筋肉があるようだ。これなら最後の2か月は減量して引き締めればなかなかいい仕上がりが期待できそうである。もちろん成長期の減量に無理は禁物なので、様子を見ながら決めようと思う。


「アルフレッド様、あと1セット頑張ってくださいませ」


「あと1セットー?無理だよー」


 芝生の上で寝転がってバテているアルフレッドは情けない声で返事をした。


「限界を超えてこそ筋肉がつくのですわ!かっこいいお姿を目指すのでしょう?」


「…頑張るよ。ステラにかっこいいって思ってもらいたいからね」



 こうサラッと言えてしまうのがアルフレッドの貴族らしいところだ。


「ステラ様、今の発言どう思います?」


 ニヤニヤしているキツネ。恋バナの匂いにニヤニヤしてしまうあたり年頃の女の子だなと思う。


「私は見た目の良し悪しより、運動にせよ勉学にせよ努力している方がかっこいいと思いますわ」


「つまりアルフレッド様が努力する姿はかっこいいと思われているのですね!カージナル領の未来のご夫婦が仲睦まじいのは領民にとっても嬉しい知らせです!」


 うまく変換しやがった。これが恋愛脳か。


「ご結婚されたらメイドとして雇ってくださいね!未来の奥様!」


「ステラ様、ご結婚の際は私も連れて行って下さいますよね?」


 そばで控えていたマリーがスンとしたまま会話に参加した。マリーとの関係を見直して1年たった今ならわかる。マリーはムッとしている。


「あらマリー、もちろんでしょう。私の専属が務まるのはあなただけよ」


 あなただけ、という言葉が嬉しかったのか、顔はポーカーフェイスを保っているのに耳が真っ赤に染まって照れているのがわかりやすい。


「ありがとうございます。生涯仕えさせていただく所存でございます」


「あ!それならあたしがマリーさんに弟子入りしてしまえばいいのですね⁉」


「私に弟子入りは難しいかと存じます。今はカージナル辺境伯よりお預りしたお客様ですから、弟子入りは半年後によく考えてくださいませ」


「仕方ないなぁ。わかりました。半年後、弟子入りすれば未来のカージナル辺境伯家のメイドになれる絶好の機会ですもの。諦めませんよ」


「未来にしなくても、今のカージナル家のメイドは募集されてないの?」


「ステラ様、私はカージナル家のメイドになりたいわけではありません。私は仲睦まじいご夫婦の温かい家庭のメイドになりたいのです。今の領主様ご夫婦が仲睦まじいかどうかは存じませんが、長く働き続けるためにも、幸せそうに生活を送っている方に仕えたいのですよ」


 キツネは得意げに語っている。内容を聞いて納得した。そりゃ冷え切った家庭のメイドより、幸せそうな家庭のメイドになりたい。毎日上司がピリピリしている職場に住み込みで働くなんて絶対に嫌だ。


 1年前のマリーの様子を思い出し、なんだか胸が痛い。

 

「アルフレッド様とはまだ婚約も決まってませんし、決断はゆっくりでいいと思いますわよ」


「またまた、ステラ様ったら。決まったようなものではありませんか。未来の奥様となるために、貴族のお嬢様でありながら経済学を学び、領民の生活を気にしてくださって問題点として領主様にご意見されたお優しいステラ様の噂は色々聞いてますもの」


 いったいどんな話が広がっているのか、怖くて聞けなかった。



ブックマーク、いいね、ありがとうございます。

いいねがあんなにポイントがつくなんて、初めて知りました。

嬉しかったです。

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