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タンパク質が大事なんです

 カージナル領への訪問ペースが上がった。どうやら婚約の話が進んでいるようだ。


 今までは挨拶をしたあとは当事者同士で友好を深めなさいと二人と従者で領地内を散策していて、カージナル辺境伯ご夫妻と交流する機会は少なかった。

 前回の訪問から半年、またカージナル領を訪れたステラはなぜかアルフレッドだけでなく、カージナルご夫妻とともにお庭でお茶をしている。


「すっかり綺麗なお嬢さんになりましたね」


 奥様がにこやかに話しかける。

 1年かけて標準体型にまで戻った私は、脂肪に埋もれて消えかけていた目は大きくなり(当社比)、脂肪で吊り上がっていただけで実はたれ目であったことがわかった。元ボンレスハムだった名残でバストサイズが11歳にしてはなかなか発達している。髪のお手入れも怠らなかったためピンクのふわふわした柔らかい髪はツヤツヤだ。


 自分で言うのもなんだが、美少女である。


「私なんてまだまだです。社交界デビューまでには、エスコートしてくださるアルフレッド様と並んでも恥ずかしくない姿になろうと励んでおります」


「まぁ、なんて可愛らしい」


 奥様の目がキラキラしている。今まで挨拶をしてもスンとすましていたのになにがあったのだろう。


「これ以上美しくなられたら、社交界で息子がかすんでしまうな。アルも少しは体を鍛えた方がいいんじゃないか?」


「頑張ります。父上」


 なんだこの歓迎ムード。婚約内定したのだろうか。

 緊張しているのが伝わったのか、カージナル辺境伯がすぐ本題に入ってくれた。


「いつもならアルと二人で過ごしてもらうんだが、ステラさんの社交界デビューまであと1年だ。一度、親としても婚約について話をしておきたいと思ってね」


 私の両親を抜きで話をしたいということは意思確認だろうか。


「承知致しましたわ。ご納得いただけるかわかりませんが、精一杯答えさせていただきます」


「かしこまらなくていい。結婚は本人同士の相性も大切だと思うが、息子のことはどう思っている?」


「将来を見据え、領地について真剣に考えられている素晴らしい方だと思っております」


 無難な回答だ。慕っているわけではないが、嘘はついていない。


「ステラさんは、この領地についてどう考えてるかな。都会と比べて退屈だろう」


「都会には都会の、この領地にはこの領地の、それぞれ違った良さがありますから、比べるものではありません。退屈だなんて思いませんわ」


「ほう。この領地のよさとは?」


「豊富な資源ですわ。広大な領地があり海にも面していて、自然の恵みが豊富であること。土地は痩せていますが養鶏などを始めればより良くなると思っています」


「養鶏で具体的にどう良くなると?」


「まず、養鶏を始めることで糞が肥料となり土地が農作に適した良い土へ改善されます。また、鶏の産む卵、卵を産まない鶏、卵をもう産まなくなった鶏、すべて食料となります。これで領地に住む方々の食事の問題も改善されるでしょう。養鶏に限らなくても、牛やヤギであれば乳が手に入ります」


「食事の問題とは?」


「この領地へ訪問するたびに気になっておりました。農作をする方は力仕事なのに細い方がちらほら見受けられます。食事が足りていないように思います。食事を必要以上にとって、以前の私のような体になるのは問題ですが、健康的な体とは言えないと思いますわ」


「小麦や芋はよく採れていて飢饉のような食糧難は起きていない。そんなに問題とは思えないな」


「そこですわ。食事に肉や魚、卵が足りないのです」


「それになにか問題が?」


「以前の私は、甘いものやバターたっぷりのもの、パンが大好きでしたわ。だからあんな全身に脂肪がついた醜い体になったのです。体は食べたもので作られます。パンや芋だけでお腹が満たされても、肉を食べなければ健康的な肉体は作られないと思います」


 この世界で説明が難しいが、タンパク質は脂質や糖質では代用できない栄養素である。エネルギーが足りなければ筋肉を分解してエネルギーを補うことが出来るが、エネルギーが余っても脂肪として蓄積されるだけで筋肉を作ることはできない。


 大豆もタンパク質が多い食品だが、始めるなら鶏糞、牛糞が出来て畑の肥料にもなる方が良い。


「この領地は、海に面していて今は他国からの侵攻を受けることはないでしょう。しかしいつか、例えば大きな船で攻められたら、領地の民にも戦ってもらうことになります。戦わないことが一番良いですが、備えは必要ですわ。体が強くなれば、病にも強くなります。養鶏で領民に健康という財産が手に入ります」


 「辺境伯」とは、他国からの侵攻があったときに戦う宿命があり、本来なら軍の予算として国から大金を受け取れるが、このカージナル領は海に面している。この世界の文明レベルではペリー来航のようなインパクトのある攻撃は考えられない。そのため侵攻される可能性が低いと判断されており、辺境伯でありながら国からの予算が少なく、領民の税収だよりであまり裕福とは言えない領土なのだ。


 だからと言って侵攻されないと断言はできない。


「領民が健康という財産を得られるのか、それはいい。経済を回すためにも、病で苦しまないことが一番だ。ただし、肉を食べれば肉体が強くなる。その根拠は?」


「私自身の体験ですわ。肉だけ食べればよいわけでもありません。何事もほどほどが大切です。私は食事の半分が野菜と果物、1/4がパン、1/4を肉や魚、卵などにしてます。以前の私と今の私、どちらが健康に見えるかは明白ですわ。体形だけでなく肌荒れは治り、髪も綺麗になりました。食事の問題を改善すれば男性は強く、女性は美しくなるでしょう。カージナル領では小麦や芋はよく育ち、種類は限られますが野菜も育ち、果物の実りも良い。肉、魚は森や海で獲れたものに頼っているので肉だけ安定しておりません。そこさえ解決すれば、領民にとっても、辺境伯にとっても良い領地になると思いますの」



「経験か。身をもって実証済みであるということだな」


「経験者が私一人しかおりませんので、資料としては少ないですわ」


「そうだな。よし、私が指名する10人をステラさんに預ける。10人の食事をステラさんが指示して、半年後どう変化するか見せて欲しい」



 どうしてこうなったのだろう。 


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