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有酸素運動

 ちょいぽちゃマシュマロ体形となった今のステラは、重い腰を上げて有酸素運動を取り入れることにした。室内で可能な有酸素運動を思いついたのである。今までやらなかったのは運動は明日からにしようと先延ばしにし続けた意思の弱さだ。


「ステラ様、ご要望頂いておりました細いロープでございます」


 マリーにかなり前から用意してもらっていた細いロープ。ロープ、つまり縄である。縄で出来る有酸素運動といえばそう「縄跳び」である。


 ロープを自分の長さに合わせ、幼少期を思い出して縄跳びをいま始めるのだ!!


「……いったぁぁぁぁ」


 手の皮が薄すぎて縄に一瞬で負けたステラであった。


「ステラ様、手をお見せください」


 マリーに手当をしてもらいながらステラはぼやいた。


「もうこれじゃお手上げよ。どうしたら運動できるのかしら。これ以上食事は減らせないから、あとは運動するしかないのに」


「失礼ながらお嬢様、運動であれば縄がなくてもよろしいのではないでしょうか。体を動かすことが目的であれば縄がなくても先程のような飛ぶ動きを繰り返すだけでもよろしいかと」


 目から鱗であった。


「その通りだわ」


 今のステラは道具がないから運動できないのと言い訳しているに過ぎない。ウォーキングを始めるのに時間がないだの服がないだの靴を買わないとだの言い訳ばかりで始めない患者は病院で嫌というほど見ていた。


 スマホ触りながらお菓子を食べる時間があるのだからその時間で近所を歩き回るだけでいいのに、肥満の脂肪がたっぷり身についた重い腰はなかなか上がらないのだ。いつの間にかやる気にまで脂肪がついていたようだ。



「そうよね、縄なしで飛ぶわ。手当ありがとう」


「いえ、ステラ様のご要望を把握できず手を傷つけてしまうような粗悪なものを用意してしまった私に落ち度がございます。申し訳ございませんでした」


「そんなことないわよ。私が用途も言わずに細いロープを用意して、なんて無茶なことを頼んだのだから。いつも変なことを始めたり、無言で動いていても何も言わないから助かってるわ」


 無言でスクワットはいつもマリーだけがいるときに行っている。彼女が一番信頼できるからだ。マリーが来るまでメイドは交代制だったのに対し、どれだけ叩かれようと、死んだ目になろうとステラの専属で働き続けてくれたのはマリーだけだった。


 マリーの死んでいた目はこの9か月で改善された。普通の関係が築けていると思いたい。



「ステラ様のお体につきましては皆本当に心配しておりました。このままでは高貴な方の病を発症されるのではないかと思っておりましたので、改善しようと取り組まれてらっしゃるのはご立派です」



 マリーの話している高貴な方の病とは「生活習慣病」である。貴族だけが贅沢な生活を送り、裕福な貴族しか発症しないことから高貴な方がかかる病だと考えられている。


 例えば、疲れが回復せず、食べても痩せていき、体の末端から壊死していき目も失明する。これは糖尿病が悪化していく様子である。現代の医療なら脚を切ったり、腎臓が機能しなくなれば透析で血液を人工的に濾過したりと延命する方法もあるが、この世界の糖尿病は死へ直結する病だ。

 


 この世界では、貴族の栄養過剰と国民の栄養欠乏が共存している。発展途上国に多い問題であった。


「心配かけたわね。大丈夫よ、あの病は生活を改めればかからないわ」



 本当は薄々気づいているはずだ。高貴な方の病は肥満が多いこと、贅沢な暮らしをしている貴族に多く辺境伯のように財政が厳しい貴族には少ないこと。


 誰だって自分の生活に問題があるなんて認めたくないものだ。自分の生活は棚にあげて、貴族階級の特に裕福な人が罹患する特別な病なのだと誤魔化している。



「それを自ら実行なさることが素晴らしいのです。高貴な方々にもステラ様を見習って欲しいものですね」


「あら?珍しいわね。一部の貴族に批判的なことを言うなんて」


「・・・私にも色々と思うところがございまして。失礼しました」


「いいのよ。もっと本音で話してくれた方が仲良くなれた気がして嬉しいわ」


「仲良くだなんてもったいないお言葉、ありがたく存じます」


 意外と照れ屋なマリーの照れた表情は今日も可愛らしかった。


 メイドとはいえ、ラミノーズ家に限らずほとんどの貴族は家柄がしっかりした人間しか雇っていない。


  貴族と血縁関係のある人間や、貴族ではないが裕福な商人の家系など、一部の人間が執事やメイドとして働けるのだ。


 マリーの出身は宝石商の家系だったはず。それなら幼い頃から宝石に魅了された貴族を見る機会も多かっただろう。


「お茶会しましょうか。本音を話してくれるようになったマリーのことをもっと知りたいわ」


「大変恐縮ではございますが、お茶会は運動されてからに致しましょう」


 ごもっともです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 辺境伯の扱いが、本当に辺境に住む貴族みたいですね 何故?
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