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豚はご飯の夢を見る

 白米が食べたい。

 記憶を思い出してから恋焦がれる白米。真っ白なパンが主食なのが気に入らない。いや、この世界では真っ白なパンが並ぶのは上流階級の証なわけですが。


 せめてライ麦パンとか、麦の味がしっかりしたパンが食べたい。


「無理なダイエットをやめて、元の朝食に戻したらどうだ?」


 食が進まない娘を心配して父であるダニエル・ラミノーズが声をかける。

 元の朝食例ではたっぷりのバターで表面を焼いたパンに蜂蜜をかけたカロリーの暴力パンが2個、野菜が入っているのを見ただけで食べないステラのために用意されたポタージュ、野菜は却下した前例からサラダ無し、たっぷりのバターで焼いたオムレツ、食後の甘いものにはスティックパイにカスタード添え。


 どう考えてもPFCバランス(タンパク質・脂質・炭水化物)が脂質に全振りの献立である。カロリーがマウントをとってぶん殴っているような内容だった。


「嫌です。私はこのままでは死んでしまうのです。私が死んだらお父様は悲しむでしょう?」


 あの日前世を思い出してメニューを変更したことを心配されたときに伝えたのだ、死ぬ夢を見たと。前世の記憶だからきっと前の私は死んだのだろうが、わざわざ前世の話をする必要はない。この生活を続けて体を壊して死んでしまう夢を見た、このままでは死んでしまうから私は生活を改善しないといけないのだと伝えていた。


 母と使用人たちはあのわがまま娘がやっと改善する気になったかと応援してくれているが、娘にデレデレの父はステラに甘く、女性はふくよかな方が美しいなどことあるごとにデブにしようとしてくる。そのたびに私はこのままだと死んでしまうと夢に怯えたふりをしてかわしているのだった。


「それにしても、本当に人が変わったみたいね」


 シェフお手製のステラ専用プレートを見て言う母シェイミ・ラミノーズ。プレートには今までの食事とは異なり、お皿の半分が野菜と果物、1/4がパンの炭水化物、1/4が豆や卵、魚といったタンパク質である。日本の食事バランスガイドも日本人には分かりやすいが、西洋文化に近いこの世界ではアメリカのマイプレートの方が合うのでこの方式にしてもらった。脂質全振りから食事内容の見直しだけで大幅にカロリーの削減が期待できる。ちなみに脂質全振りはステラの食事だけだったので両親は普通体形である。


 心配する父をよそに食事を終えたあとは、家庭教師に勉強を教えてもらったり、刺繍を教えてもらったりする。正直言って退屈だった。


 有酸素運動を取り入れたい。そう思ってはいるのだが、令嬢が屋敷でジョギングするわけにもいかず、ウォーキングも屋敷内をウロウロしていて怪しまれるだけだった。使用人たちからお嬢様はいったい何を?と疑問を感じつつも今までの行いから遠巻きに見つめられる悲しさ。外に行くには使用人と外出する必要があるので、仕事の邪魔をするのも忍びない。マリーはこちらから用事がなければ話しかけてくることはなく、基本的には無言のため自室にマリーしかいないときに無言でスクワットをしているが、脂肪燃焼にはやはり軽い筋トレ+有酸素運動である。室内で出来る有酸素運動はないものか、悩ましい課題だ。


 もっとも、有酸素運動を取り入れるにはまず減量して、もう少し身軽になってからでないとケガのもとだ。この巨漢でいきなり運動を始めたら靭帯損傷しかねない。


「ねぇマリー、今いいかしら」


「はいステラ様」


「朝食のパンって変えられる?」


「パンの調理法ではなく、パンの種類の変更でしょうか」


「そうそう。白いパンって味が単調で飽きてしまって、クルミやレーズンの入ったパンや、小麦の種類の違うパンがあればなと思って」


「クルミやレーズンの入ったパンでしたら、市場で売られていますが日持ちさせるための硬いパンでございます。いつもお召し上がりいただいております白いパンに混ぜ込めるかシェフに確認してみます。また、小麦の種類が違うとなると取り寄せる時間がかかります。ステラ様はいつも小麦の皮を取り除き真っ白で上質な小麦粉で作られたパンですので、私たち使用人が食べさせていただいております小麦をそのまま挽いた粉から作る全粒粉のパンでしたらすぐにご用意でき、多少味の変化があるかと存じます。ただ、全粒粉では特有の香りがあります。どちらもステラ様のお口に合うかはわかりませんが」


「全粒粉のパン!明日はそれにして!明後日からはクルミやレーズンの入ったパンも出して欲しいわ。硬いままのも食べてみたいの」


「かしこまりました」


「マリーって対応だけじゃなくてすぐに提案までしてくれて本当に有能なのね。今までの私はどうかしてたわ。本当にごめんなさい」


 そう言うと、マリーが顔を真っ赤にしていた。


「滅相もございません。お褒めの言葉、ありがたく存じます」


 小声だったけれど、マリーはどうやら照れたようだ。この調子で褒め殺してメンタルを持ち直していただこう。きっと今より素晴らしいメイドになるはずだ。


「今まで私のしたことは許せないかもしれないけど、仲直りにお茶してくれる?」


「私が至らなかったせいです。あの、お茶はご一緒にということでしょうか」


「もちろん一緒によ」


 その後、ピンク色の髪をした豚とメイドは和やかにお茶をしたのだった。



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