漫才「チェリーになりたい」
二人「はい、どうもー」
ボケ「パフェのてっぺんによくチェリーが載ってるじゃないですか」
ツッコミ「ありますね。いろんなフルーツがクリームに刺さってて、頂上にサクランボがちょんと載るっていうね」
ボケ「どんな気持ちだと思う?」
ツッコミ「え、誰の?」
ボケ「だからパフェのてっぺんで「俺だよ!」って感じに載ってるチェリー、絶対気持ちいいでしょ」
ツッコミ「一番最初に食べられますけどね」
ボケ「じつは昔からあのチェリーになりたいって憧れてて」
ツッコミ「チェリーに?」
ボケ「桃、バナナ、メロン、そして俺!」
(巨大なパフェにフルーツを刺すジェスチャー、最後に自分を親指で指す)
ツッコミ「チェリーって、そこまで調子に乗ってましたっけ」
ボケ「桃、サル、キジ、そして俺!」
(同じフリ)
ツッコミ「それは調子に乗った犬ですよね」
ボケ「そんなわけで今日は俺にチェリーをやらせてくれない?」
ツッコミ「もう十分やったでしょ」
ボケ「全然足りないよっ。俺にチェリーやらせてくれよ!」
ツッコミ「足りないって何が?」
ボケ「ちゃんと実感したいの! 俺はチェリーだって!」
ツッコミ「じゃあどうしたらいいの?」
ボケ「俺が喫茶店に入ってくるから、君はマスターやって」
ツッコミ「いや普通の喫茶店コント!」
ボケ「でも俺が客じゃなくてチェリーだから。チェリーが店に入ってくるとこからだから」
ツッコミ「チェリーが店に入ってきて、ぼくはどんなリアクションすればいいわけ? 伝票にサイン書くの?」
ボケ「いや俺はチェリー様だぞ? ちゃんと大スターを迎える感じで頼むよ」
ツッコミ「チェリーってそんなに威張ってるの?」
ボケ「からんころ~ん」
(ドアを開けるアクション)
ツッコミ「自分でドアを開けてくるんだ? いらっしゃいませ、チェリーさん!」
ボケ「おう。どうだ景気は?」
ツッコミ「はい、おかげさまでぼちぼちやらせてもらってます」
ボケ「へえ。コロナ禍なのにがんばってんじゃん」
ツッコミ「ちょっといい? 食材とそんな話をしたくない」
ボケ「今日のパフェは?」
ツッコミ「あ、はい。こちらです」
ボケ「ほう。新作かあ」
ツッコミ「春をイメージした季節のパフェとなっております」
ボケ「こいつは登りがいがありそうだぜ。いくぞ、おりゃっ、ふん、ふん!」
(飛びついて登っていくジェスチャー)
ツッコミ「そうやって登るんだ?」
ボケ「ふん、ふん、そりゃあ!」
(全身を使って登る。何か掴んで後ろに投げ捨てる)
ツッコミ「いやぼくの新作パフェ、ぐっちゃぐちゃですよね? 今メロンか何か捨てましたよね?」
ボケ「はぁ、はぁ、ようやく頂上が見えてきた……あと少しでパフェの頂点に立てる。フルーツの王に俺はなるんだぁ!」
(天井をあおいで叫ぶ)
ツッコミ「フルーツの王様はドリアンだし、言ってくれればぼくが乗せてあげますよ」
ボケ「え、何か言った? うわああああ!?」
(滑り落ちて仰向けに倒れる)
ツッコミ「あれ、落ちた? しっかりしてください、チェリーさん。え、チェリーさん?」
(体を揺するがボケは動かない)
ツッコミ「……死んだ?」
(スピッツ『チェリー』のオルゴールが流れ、エコーの効いたボケの声(別録り)も流れる)
ボケ『そんなわけで今日は俺にチェリーをやらせてくれない?』
ツッコミ「回想が始まっちゃった。本当に死んじゃったのかな」
ボケ『俺にチェリーやらせてくれよ!』
ツッコミ「すっごいやりたがってたもんな。もっと早くにやらせてやればよかった」
ボケ『ちゃんと実感したいの! 俺はチェリーだって!』
ツッコミ「ごめんな……最後までやらせてやれなくて」
(ツッコミの声も流れる)
ツッコミ『でも、君はもうそのままでチェリーだよ。フルーツの王様チェリーだよ』
ツッコミ「いや言ってない。そんなことぼくは言わないし王様はドリアンだから。ウソつくな」
ツッコミ『チェリーボーイのぼくには憧れの的っす』
ツッコミ「言ってないから!」
ボケ『じゃあ、きびだんごやるよ』
ツッコミ「それもあなた! 犬をやったのはあなただから! いいから起きてもう!」
ボケ「ううん……あれ、俺、生きてる?」
(立ち上がる)
ツッコミ「どうしちゃったの。大丈夫?」
ボケ「うん……さっきまで俺は天国にいて、クリームみたいに柔らかい雲の上をふわふわしていて……まるで、パフェの上のウェハースだった」
ツッコミ「いやチェリィイイイ!」
二人「どうもありがとうございました」