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2.プロテインはトレーニング後に摂取しよう


そっと扉を閉める葵。

「たっくん…どうしよう…」

「どうもこうもねぇよ。帰ってまた俺の部屋でドミニオンでもやろうぜ」

「この大学は大丈夫なの…?なんでこんな団体に認可が降りてるの…?」


頭を抱えうずくまる葵だが、その背後の扉が開き、先程のマッチョが語りかける。

「あぁ、ごめんごめん。誰も部室にいないからライフワークの筋トレをしてたんだ。驚かせてごめんね」

そう言うマッチョは180㎝ものある体躯と鍛え上げられた身体の威圧感とはアンバランスな物腰の柔らかさ。

茶髪短髪で、二カッとした笑顔が印象的な、好青年という言葉がよく似合う男であった。


「すみません、俺達間違えちゃったみたいで。こちらはボディビル部ですよね?」

「いや、将棋部だよ?そこにも書いてあるだろう?」

そう言うと好マッチョ(好青年マッチョのこと。造語)は扉の横を指さす。

そこには間違いなく「将棋部」の文字が燦然と輝いているのだ。


「正直、この流れでボディビル部だったら流石の俺も興味を持ったぞ」

「バカなこと言ってないの」

小言で俺を小突いた葵は、好マッチョに向き合いこう告げる。

「先輩、私、将棋部に入部したいんです」


「あ、入部希望なんだ。うれしいねー。ささっ、立ち話もなんだから入って入って」

そう言うと好チョ(好マッチョの略)は俺たちを部室に招き入れる。


部室の中はよく整理されており、複数の本棚とパイプ椅子と長机。机の上には高さ5cm程の将棋盤と将棋駒が置かれている。

本棚には将棋の本がズラッと並んでいるが、よく見ると関係のない本も紛れているようだ。

なになに、「よくわかるプロテイン摂取」「初めてのタロット」「時短!オトコの胃袋を掴む作り置きレシピ」

…ここの部員たちの私物だろうか。


「お茶お出すからさ、もう少し待っててくれよな」

そういうと先輩は部屋の隅に向かう。

「はぁー、ここがあの将棋部室なのね。なんか感動だなぁー」

「なんだなんだ、お前ここの事知ってるのか。有名なのか、ここの将棋部」

「有名なんてもんじゃないよ!…と言っても、有名になったのは去年なんだけど」


葵はそう言うとハッとしたように先輩に告げる。

「わっ、ごめんなさい。突然大声出しちゃって…」

「ははは、いいよいいよ。褒めてもらえるとこちらもうれしいよ」


先輩はそう言うと、お茶菓子を俺と葵の前に出す。

まんじゅうと緑茶というなんとも部室の空気感ともマッチした組み合わせだ。

「わーおいしそうー!先輩ありがとうございます!いただきます!」

そういうと葵はまんじゅうを一気に頬張る。食い意地の張った幼馴染である。


「さっきの話なんですが、ここの将棋部?って有名なんですか?えっと」

「あぁ、僕は後藤田ごとうだ 甚助じんすけ。甚助でいいよ」

「じゃあ甚助先輩」

先輩に問いかけたつもりだったが、それに対して答えたのは葵だった。

「えっとね?大学の将棋界って年に2回クラス別のリーグ戦があるの」

「野球みたいなやつ?」

「あっ、それわかるんだ。なら話が早いね」


葵の話をまとめると、だ。大学将棋には団体戦というものがあるらしい。

7人対7人で対局を行い、4勝以上を挙げたチームが勝ち。


今の大学将棋界は「A」「B1」「B2」「C1」「C2」の5階級に分かれており、B2~C2のクラスには

約30の大学が在籍しているが、B1と最高峰のAには10校ずつが所属となっている。

年に2回、AとB1は総当たりで、B2以下は抽選で10校程度の大学とリーグ戦を行い、各クラスで成績上位の2校が次のリーグ戦で上位のクラスに昇級ができるというシステムとなっているらしい。

各大学にオーダー戦略があるものの、つまりは強い人を7人以上集めることができるチームが勝ちやすいのが道理というものだ。



「そのリーグ戦でね、去年、たった4人でC2級を2位昇級したのがここの大学なの」


その意味がわからない俺ではない。

相手の大学は当然7人以上の人数を揃えてきており、3勝は相手に献上しているのである。

4人中1人でも負けた瞬間にチームが負ける。そんな常に崖っぷちの状況下で10戦を戦って、約30校中2位。


「ははは、半年前の出来事なんだけどね。なんか懐かしいね」

そうはにかむ甚助先輩。ファーストインプレッションは凄まじいところがあったが、この先輩は大学将棋の世界では相当の実力者であることにここで気が付く。

「一時期話題になったけどね、僕らとしてもギリギリだったんだよ。事実、最終戦は3-4で負けちゃったしね」

「私、その対局見てました!大将戦が最後までもつれてて…」

「あぁ、椿姫のところだね。あれは相手も強豪でね…」



「あら、懐かしい話をしているわね」

その声の主の方向を見ると。

部室の扉の前に、長髪黒髪のとんでもない美人が立っていた。

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