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物怪伝 鬼の章  作者: 犬尾南北
大倭篇

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29/85

第漆話 如件(五)




        10




……


135:こんばんは 2012/04/04 02:00:00:00


皆さんはこんな噂を知っていますか?


なんでも「ジンゴさん」という、全知の存在がいるそうです。


二人以上の複数人で、それぞれが互いへ同時に電話を掛け合うと呼び出すことができます。

普通なら全員が通話中となるはずですが、きっかり三秒後に一人だけどこかへ電話がつながるのです。

それが「ジンゴさん」。


ジンゴさんは最初に、「自分の名前を知っているか」と聞いてくるので、それにはこう答えましょう。


「人民のジンに、牛頭天王のゴの、ジンゴさん」


そうすれば、ジンゴさんはあなた達の質問に一つずつだけ答えてくれます。

彼は全知の存在なので、どのような内容であっても正解を教えてくれるでしょう。


ただし、ひとつだけ注意するべきことがあります。


全員の質問が終わった後に、もう一度ジンゴさんが質問をしてきますが、これにはどんな内容であっても「正直に」答えてください。

ジンゴさんは嘘が嫌いなので、すこしでも嘘をついてしまうと怒ってしまいます。


そして嘘をついた人から体の一部を奪ってしまうのです。

ジンゴさんは頭だけで生まれてきた奇形児なので、こうしてパーツを集めることで完全な存在になろうとしているのです。


……




        11




 何でも訊き給え――そう述べたを前にして、ようやくざわりと空気が動いた。


「……え、これってマジ?」


 呆けたような顔で文太が友人たちを見回す。

 すぐ隣の慧は眉を寄せたまま固まっていたが、対面の蓮が瞳を輝かせて勢い頷いた。


「マジだよ! やった! 本当に繋がった!」


 続くように葵が、


「うーん、でも何を聞こうかしら」


 腕を組む。

 そしてちらりと視線を滑らして、


「ひとまずチビタ、先になんか聞きなさいよ」


「だからチビ言うなって!」


 反射で声を荒げてから、「あっ」と思いついたようにして文太が顔を戻す。


「それじゃあ、蓮。おれからでいいかな」


 蓮が首肯すれば、その手元の携帯電話へと彼は顔を近づける。


「おれが身長を伸ばすにはどうすればいい?」


 真剣な顔で問いかけた。

 その後ろで葵が小さく「無理でしょ」とヤジを飛ばすが、それより早く返答がある。


 携帯電話の小さなスピーカーから、ノイズの混じった男の声が響き渡った。


《……なにも焦ることはない。君の身体はまだ成長期の最中にある。いずれは相応の身長に伸びるだろう》


「おお!」


 文太は瞳を円くして歓声を上げた。


「聞いたか、蓮! おれ伸びるってよ!」

「よかったじゃん!」


 興奮する彼に、蓮も明るく返す。

 二人が騒ぐその横で、そっと葵が携帯電話へと顔を寄せていた。


「……想いを成就するにはどうすればいいの?」


 こっそりと囁いたそれに対しての答もまた、素早く大きな音で返ってくる。


《相手をよく知ることだ。そして己もよく知ることだ。すべての答えは魂のなかに眠っている》


「わかりにくい! もうちょっと詳しく……ッ」


 スピーカーに向かって叫んだところで、ハッとして彼女は顔を上げる。

 じっと見つめてくる三対の視線に慌てて姿勢を正した。


「えっと……たしかによく分からなかったけど。なに聞いたの?」


 代表して尋ねる蓮に、耳を赤くして葵はそっぽを向いた。


「そんなの別にいいじゃない! 次、フシガワね!」


 誤魔化す勢いで話を振られて、慧はそこでようやく引き結んでいた口元を少しだけ緩めた。

 彼女が何を聞いたのか、当事者以外の二人には軽く想像が出来る。


「……んじゃ、お言葉に甘えて」


 依然として目元は警戒の色に染まっていたが、ゆっくりと歩みを進めて蓮の手元に顔を寄せる。

 そして。


「――友人を助けるにはどうしたらいい?」


 静かな声で、そう訊ねた。


「っ……」


 一人だけ意味を理解した蓮が息を呑む。


 人外なぞは微塵も信頼できないと固く信じている慧であるが、しかしそれでもこの端末の向こう側に存在する……それが本当に「全知」であるというならば、現在の彼にとって聞くべきことはひとつしかなかった。


 言葉を放った慧が、ジッと携帯電話の液晶画面を眺める。


 けれど先の二人と異なって、「通話中‐非通知」と表示されたそれは直ぐには返答をしなかった。


《……成る程》


 二、三秒ほどの間を置いて、


《方策は在る》


 ようやくが流れ出る。


「それはッ――」


 途端に目をむいた慧が身を乗り出すが、続く声はその出端を圧し折った。



《しかし、今の君には実現不可能だ》



 盛大な肩透かしを食らった彼の鼻先に、乾いた声音で続ける。


《まずは君の中の君と向き合うべきだろう。すべてはそこからだ》


 固まる慧を放って、そのまま次を促した。


《――それでは最後の問を投げ給え》


 しばし静寂が広がる。


 尚も動かない慧に文太が声をかけた。


「よく知らんけどさ、まあ、そんな落ち込むなって。もしなんだったら、おれも力貸すし」


 背を叩かれると、小さく呻き声のようなものを上げてから慧も再起動する。

 その様子を見るに、なんだかんだである程度は期待していたようである。


 ひそかに安堵の息を吐く蓮に、葵が顎をしゃくって言った。


「さ、あとは蓮ね」


 うなずくと自分の電話に口を近づけ……頭の隅で思考を回す。

 実のところ、蓮は質問に関して何も考えていなかった。


(……さて、何を聞こうか)


 思ってから、ふと浮かんだ言葉をそのまま外へ出す。



「なぜ君は怪人アンサーに似ているんだい?」



 ――再び、声が途絶えた。


 先ほどよりも幾らか長い沈黙を経て、


《……斯く有れかしと望まれた》


 携帯電話のスピーカーから音割れのした声が響く。


《ひとは皆、望まれた形で産み落とされる。例外なく、運命とはそういうものだ》


 その答えを受けて、蓮は首を傾げる。


「ん? それってつまり、どういう……」


 だが、遮るようにして言葉が続く。



《では再び、私からの質問だ――》



 それは「ジンゴさん」で最も注意するべき「最後の質問」であった。


 どのような内容であろうとも、正直に答えなければ体の一部を奪われる……。


 ……もっとも、掲示板上では実際に体を奪われたという書き込みは見当たらなかったわけなのだが。

 とはいえ、こうして怪異が実在している以上は気を引き締めるに越したことはないだろう。

 蓮も上げようとした声を呑み込み、周りで様子を窺っていた三人もどことなく襟を正した。


《――


 、びくりと反応してから蓮は気づく。


(あれ、名前――)


 そうして、静かに問いが投げられる。



《君は死んだことがあるかね?》



「え」


 固まってから、


「ないけど……」


 即座にそう言って、しかし――そこで背筋に悪寒が走った。


 ――。


 瞬間に蓮の脳裏で直感が弾けるが、遅かった。それを余所に電話からは冷え冷えとした言葉が紡がれる。


《……嗚呼、君はいま嘘を吐いた》


 途端にスピーカーから激しいノイズが溢れだし、そして――。


「うわあッ!?」


 文太が悲鳴を上げた。


 蓮が持つ携帯電話、その狭い液晶画面が砂嵐に瞬いて……そこから、




        12




 自分の手元の画面から、死人のように青白い腕が生え出て来た。


「おわっ!?」


 さすがの蓮も思わずのけ反る。

 異様に細長い腕が、その胸元へと素早く伸びる。


 しかし。


「――この野郎ッ」


 叫んだ慧がその間に入って経典を払った。


《……ッ》


 腕の勢いが一瞬削がれ、


「ハァッ――」


 そこへ両の拳に霊符を纏った葵が躍りかかる。

 彼女の霊力を帯びて白く輝く拳骨で殴り飛ばされて、蓮に襲い掛かっていた不気味な腕は根元の携帯電話ごと床へと転がった。


「ひゃあっ!」


 その先にいた文太が飛び上がり、慌てて三人のもとへと駆け寄ってくる。


「飛ばす先考えろよ!?」


 涙目で抗議するが、葵は「うるさい」と一蹴して拳を握りなおした。

 その横で、慧もまた冷や汗をかきながら数珠を取り出す。


 その二人の様子に、文太と蓮はゆっくりと床へ視線を戻して……


「マジかよォ!?」


 文太が三度みたび悲鳴を上げた。


 彼らの視線の先で、怪腕は未だ健在であった。


 骨ばった――というよりも、萎びた肉と皮だけに見える青白く細長い腕は、獲物を探すようにしてフローリングの上をのた打ち回っている。

 まるで奇怪な蛇のようにも錯覚する動きの根元では、ずるり、ずるりと蓮の携帯電話が引きずられている。


「というか、何で!? 蓮は正直に答えたじゃんっ!」


 泣き言を叫ぶ文太に、慧が答えた。


「……たぶん、なんだ」


 一息挟み、


「輪廻転生を考慮するなら、誰だって一度は死んでいる……」

「んなのアリかよ!」


 嘆く文太を背に、ごくりと唾を呑み込む。


「……しかし全然効いてないな」


 呟く彼に、葵が怒鳴る。


「黙りなさい。もっと本腰入れるのよ」


 そして彼女は祝詞を囁きだした。


「……けまくもかしこき、伊邪那岐大神いざなぎのおおかみ


 次第にその手元の輝きが増していくが、一方で怪異のほうにも変調がある。


 辺りを手さぐっていた腕が動きを止めて、ぐるりと携帯電話が仰向けになるように身を翻す。

 その根元の液晶画面が、より一層の異音を放ち始める。


「あれ、もしかして」


 黙って観ていた蓮が、ここに来てどこか嬉し気な声を漏らす。

 その横では泡を食った様子で文太が震えている。


「おいおいおい、やめてよそういうの……というか喜んでるんじゃねえ! バカ!」


 彼が隣の男に肘を入れている間に、とうとう怪異のほうが進展する。


 ずぶ、ずぶり……。


 液晶画面の向こうから、()()()()()()()()()()()()――。


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