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魂9◎一人プロジェクトX

 去年の今頃、ふと、SFをみんなで書いて楽しむ企画があればいいのにと思い始めました。SFはこの「小説家になろう」という小説投稿サイトのみならず、WEB小説界ではかなりマイナーなジャンルで、読者も付きにくいことを悲観してしまったのです。アクセス数はファンタジーや恋愛の足元にも及びません。しかも資料や調べ事で相当の尽力が必要なこジャンルをどう盛り上げていったらよいのか……、模索の日々が続きました。

 あちこちの企画を渡り歩いて力を試すのも楽しかったんですが、それは必ずしも自分の好みにあった企画とは限りません。さて、どうしようかと考えた結果、こうなったら企画を自分で立ち上げてはどうだろうかという結論に辿り着いてしまいました。誰か代わりにだとか、いずれやってくれる人がとか、思わなかったわけではないんです。私自身、育児休暇から職場復帰したばかりで時間も殆ど割けないだろうと思っていたのに。気がついたら、サイトを作っていました。去年(2008年)のゴールデンウィークのことです。


 自分の首が絞まる思いというのはこういうことだなと感じつつ、サイトや規約を作り始めました。数日で骨子ができあがり、連休明けには募集開始、そこからまたイベントの詳細決定や参加者への連絡等、めまぐるしい毎日が始まります。誰かに頼ればいいのにとも思いましたが、こういうのって、多分慣れた人でないと大変だろうなと思ったんですね。接客とか、管理とか、好きなんです。営業職ですから。サイト作るのも慣れてますし、作ろうと思えば時間なんていくらでも作れるもんじゃないですか。やらないうちから出来ないというのも悔しい、そういう無意味なポリシーがあったのも幸いしたんでしょうね。

 人が少しずつ集まりはじめ、これはちょっといけるなと、手応えも感じ始めたのが夏頃。当初、マイナーすぎて十人程度しか集まらないんじゃないかと思っていた企画に次々と参加希望者が集まってきました。嬉しいですよね。だって、マイナーで読者数も殆どとれないSFというジャンルの潜在的な執筆者が沢山いたわけですから。チャットも連日大賑わい。募集したコラムや蘊蓄も、どんどん埋まっていきました。そのうちに、参加者の中に妙な連帯感が生まれていく。

「あ、これって、高校の時の文化祭の手伝いをしたときの、あの感覚に似ている」

 お祭り、まさにお祭りです。ネーミングセンス無いところを絞って絞って「空想科学祭」などと銘打った甲斐がありました。この楽しさがいつまでも続けばいいのにと思っているうちに、どんどん時間が経過していきます。八月末――、参加者四〇名、参加表明を締め切りました。


 もちろん、少しずつ企画開始後のページ作成や下準備をしていたんですけど、肝心の自分の参加作品が真っ白であることに気がついたのは企画開催直後の九月上旬です。ネタは何となくあったんですが、連日の企画ページ更新でそこまで手が回っていませんでした。人には「一作品は仕上げてくださいね」「長さは問いませんよ」などと言っておきながら、自分が作品を仕上げられないのでは元も子もないですよね。

 やばい、やばすぎる。一瞬にしてそれは焦りに変わりました。ちょこちょこと執筆を始めてみたものの、漠然としたプロットしかない状態で、どのように完結させるかが課題になってきました。それでもチャットに通って参加者のご意見やご感想を聞いたり、お祭りの雰囲気に浸ることも忘れませんでした。まさか、みんなが楽しんでいる現場で「すみません、作品仕上げる自信がない」などと弱音を吐くことも出来ず。チャットの傍らメモ帳を開き、延々と執筆していたんです。

 ならばチャットしないでちゃんと書きなさいよという怒号、ご尤もです。そうですね、強いていうならば、お祭りなんだからとにかく盛り上げなくちゃと必死だったんです。気分は水面下で必死にもがく白鳥の如く。焦りも憤りも、みんなの前じゃ見せちゃいけないなんて、変なプライド持ってみたり。ああ、まさにそれは「一人プロジェクト」。中島みゆきの「地上の星」が似合う、悲惨な状況です。

 何とか完結できたのが奇跡みたいでした。いわゆるトランス状態に入ってくれたので、上手いこと書けました。まさか、手元メモとはは全然違う内容になってしまったなんて、口が裂けても言えな……な内容ですが。


 私が何でこんなに一人で必死こいていたかと言いますと。SF企画前後に開催されていた別企画、管理人の方が逃亡したり行方不明となったりして、責任能力が問われる結果になっていたからなんですね。どの企画とは言いませんけど。

 やるって言ったからには最後までしなきゃダメだと思うし、それが大人ってやつなのではないでしょうかね。頓挫するくらいなら最初からしなきゃよかったと言われても、言い返す言葉が見つからないでしょう、そんな状態では。インターネットだからと言って甘く見るのはよくないと思うんです。匿名としてのHNやPNではありますけど、そこには何らかの思い入れや執着があるじゃないですか。最終的に、中途半端になったら、そういう大切なものにさえ傷が残る気がして。

 だから、書きました、書きに書いて、集計作業もアンケートとエクセルとにらめっこしながら必死でした。苦しかったけど、それこそ寝る暇もなかったけれど、企画終了後に満足そうな声が上がるのがとても嬉しかった。

 例え票数やレビュー数が思ったほど奮わなかったとしても、よい作品の読者数が思いの外伸びなかったとしても、あの短期間でよく頑張ったなと思います。宣伝の難しさ、読者獲得の難しさは特に痛感しました。元々無名なもんですから、あんまり贅沢言っちゃいけないですよね。わかっていますが、なんだか悔しくて。

 執筆終了後から、皆様の作品を読み始め、レビューを入れていきました。企画開催中に全ての作品に目を通すつもりでしたが、作品数と文字数の壁に阻まれ、未だ読み切れていません。中身が濃厚だし、しっかり調べ上げて書いてあるし――これは参加者の皆さんに私がしてやられた、と驚愕しました。企画は一人で管理していましたが、私だけじゃない、書いてくださった作者の皆さんも「一人プロジェクトX」だったのですね。


 今年も秋にSF企画をしたいと思い、募集を始めました。かなり気が早いんですけど、作品に時間と手間をかけていただきたくて。時間が無くて書けませんでしたとか、ネタが詰まってだなんて言い訳が出来ないように、といったら意地悪ですよね。だけど、参加する人はみんな必死だし、運営側だって身を削って管理しているわけですし。きちんと作品を仕上げてなんぼ、だと思うんです。未完の作品を抱えている人が言う台詞じゃないかもしれませんが。

 企画は一人だけのものじゃない、だから余計気を遣って、足掻いてみる。企画参加のたびに感じるこの必死感は、自分を鍛えるためにも多少は必要なんじゃないかなと、自分に言い聞かせています。


件の空想科学祭2009の公式サイトはこちら↓

http://sffesta2009.konjiki.jp/

皆様のご参加お待ちしております。

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