魂46◎それは、私のためでもある
自分で自分の書いた文章を読んで、あ~えらそうなことを書いているなと思うことは多々あります。
普段は全然ダメダメ人間なのに、『天崎剣』のときは凄いんですよ。……という話は、以前「オンとオフの二面性」の時に書きましたが、続きです。
私って、オフラインでは本当に頼りない人間なんです。色々言うけど結局行動出来ない。心の中がモヤモヤしてどうしようどうしようって。
先日「人見知り芸人」って、アメトーークでやってましたが、アレですね。人嫌い。人見知り激しい癖に営業とかやってるので、しんどいのです。
春は特に辛いですね。異動の時期ですからね。知らない人が職場になだれ込んだり自分が知らないところへ行かなきゃいけなくなると鬱です。引きこもりたい……。状況さえ許すなら、家で悶々としていたいタイプです。
知らない人と会話するなら、全然知らない人の方がいい。これから自分とたくさん関わり合いになるってわかってる場合は特にしんどいです。どんな人なのか探り探り。
問題はそれだけじゃなくて、実は人の顔を覚えるのが苦手。その人が何の関係者で誰と誰がどう繋がっててというのが、全然覚えられない。顔と名前が一致しない。悲惨すぎます。私、なかなか人を名前で呼べないのです。私自身は珍しい名字なのでよく声をかけていただくんですけど、相手が佐藤さんとか鈴木さんだと、もうどの佐藤さんだか鈴木さんだかわからなくなってしまうという。洒落になりません。
そんなこんなのマイナス思考ですので、なかなか仕事の成果も上がりません。可哀想な人です。
その可哀想な人が、オンラインでは強気で行くんですから、人間てわからないものですよね。
偶に自分の書いた話を読み返すと、書いたときの気持ちに戻る感覚があります。あの時こういうことを考えていたな、こういうのが旬だったな。色々思い出します。
毎週毎週書いているこのエッセイだって、気持ちの浮き沈みがやたらと出てる。悲しい気持ちの時、辛い時、考えさせられた時、怒っていた時。毎回思ったことをそのまんま下書きもなしに書いてるわけですからね。内容にもムラがあります。
そうやって自分が過去に書いた作品を読んで、アホのように頷いたり泣いたりするんですよ。センチメンタルも度を過ぎると愚かしいくらいに。
内向的な私が、ふと自分が過去に書いた文章を読んでみると、なんや「誰から何を言われても気にするな」だの「前向きに向上心を持って」だの書いているわけです。
去年の春に新しい職場にやってきて、どうしたらいいもんか畑違いのところでずっと悩んでいたんですよ。今まで培ってきたものがあんまり役に立たなくて、私は一年生に戻ったつもりで頑張ろうと思っていたのですが、同じ職業に就いていても働いている場所が違っただけでこんなにも差が出るもんなんだなと涙していました。自分の立ち位置がわからず、どこかで逃げたい逃げたいと思っていて。でも、現実問題仕事からは絶対に逃げられない。家庭もありますしね。何度も転職したいと考えてため息をつき、いっそのことパートにでもなってしまった方が楽に生きられるな、でも住宅ローンがあと二十八年も残ってる。自分ばっかりが辛いと思っていたらダメだ。旦那は旦那であれもこれも掛け持ちで頑張ってるんだから弱音吐いたら負けだと、無理をしてでも今の職場で生き続けなければならないことが苦痛で苦痛で。
そんな悩みを抱えながら必死に企画をこなしたり執筆したりしてきまして、このエッセイもですけど、書き続けていたことは私にとって幸いだったのだと思います。苦しみながらも何とか前向きにいられたのは、自分の考えていることや信念を文字に残していたからかも知れない。
自分がそのとき思っていたことをそのまんま書いたことによって、私はその悩みを一生忘れない。ほんの一瞬射した光も、こういう考えを持って生きていきたいんだという主張の籠もった話だって、苦しみの中で支えになるんだなぁと今更のように思うのです。
小説は何のために書くのって言われたら、書きたいからだと答えるけれど、どうもそれだけじゃないような気がします。
私は私の思いをずっと残したいから書くんじゃないかな。
別に聖人君子じゃないから、その思いは決して正義ではないし正解でもないけれど、その思いがずっと形として残って、未来の自分や伝えたい誰かに残るのなら。書き続けるという理由には十分なり得る。
悩みというのは実はちっぽけでくだらないものなんです。わかってるけど、悩んでいる時苦しんでいる時はそれはとても大きくて重い。そんな時、私はふと自分の書いた作品を読み直します。
一生懸命に心を込めて残した物語は、時に自分の心も癒してくれます。気休めかも知れない。自慰行為と言われたらそうかも知れない、それでも。
自分の書いた一文に触れ、そうだよなと。
あの時の自分も悩んでいたけど立ち直った。だからきっと今も立ち直れるのだと思うことにしています。