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魂43◎真っ白な背景――描写不足について考える

 読解力がないのかそれとも描写不足なのか。悩んでしまうくらい、どうしても脳内に情景が思い浮かばない。WEB小説を読んでるとあるんです、そういうこと。

 登場人物たちは一生懸命に話しているんだけど、どこで何をしているのかがさっぱりわからなくて。気がつくと画面が変わってるから、結局どんなだったかは会話文から予測して背景を自分なりに付け足してみるしかない。後になってから実はそこが最重要場面ってことがわかって、何度も繰り返し引用されるけど、自分が想像していたのとは何か違うような書かれ方をしていたり。

 淡泊な地の文が延々と続き、起伏ないまま終了。「山場は?」って、読者がきょろきょろしてしまう。結局何が言いたかったのか、何を見せたかったのか、読了後に首を捻ってしまったり。

 ――身に覚えがある方、結構いらっしゃると思うんですが如何でしょう。

 描写不足によって起きるこれらの事例、「せっかく読んだのになんだかなー」って思われたくないのなら、少し書き方を考えてみるのが良いのかもしれません。


 書きたいことが多すぎて、とにかく書かなくちゃって思ってしまうのでしょうか。思いついたセリフと行動どんどん書き足し書き足ししているうちに、肝心の描写が抜けちゃう。漫画で言うところの、背景無しのネーム(下書きの更に前の段階。コマ割を考えたり、吹き出しの位置やバランスを考えて書き込んでいくもの)、でなければ、映像作品の絵コンテ(人物や小道具のカメラアングルを、場面ごとに注釈付きのイラストで簡単に表したもの)を見せつけられているような感覚に陥ります。

 不思議なんですよ。書いている作者には全てが見えているけど、読者には何にも見えない。登場人物の表情さえわからない。

 以前もエッセイに書きましたけど、まさにびっくりするくらい背景が真っ白で泣けてきます。


 読みながら頭の中で想像する作業があるじゃないですか。

 例えば、雨の日に墓地を傘さしてゆっくり歩いて行く。ポツポツと傘に落ちてくる雨音を聞く。湿っぽい墓地の中、新緑の木々が濡れ少し暗く見える。凸凹の石畳を歩く度に、靴の裏で雨水が跳ね、ズボンの裾が濡れるのも構いなしに歩いて行くと、視線の先で墓の前にうずくまる女の姿を捉える。

 こういう場面が頭の中を過ぎったとして、どのくらい五感を使って相手に伝えられるんだろうって考えたら、ちょっとだけだけど、描写が上手くなるような気がするんですよね。

・視覚……天候/雨、木々の色、墓地

・聴覚……雨の音、靴の音

・嗅覚……湿っぽさ、雨の臭い

・味覚……緊張感を表すための喉の渇きや唾液の分泌

・触覚……傘を握る手の感触、石畳を歩く感触。ズボンの裾の濡れ具合

 五感に分けるにはちょっと苦しいところもありますが、この五つを丁寧に描写すれば読者の脳内でも綺麗な映像が浮かび上がるんじゃないでしょうか。


 ところがですね、私もそうなんですけど、どうしても『視覚』に偏りすぎてしまって。しかも、人物の動きばっかりに気を取られて、それ以外がおろそかになりがち。真っ白な世界で人物が騒いでる、それだけになっちゃう。これが怖いんです。

 どんなに面白いお話でも、安っぽく見えてしまう。背景張りぼてに見えてしまうんです。

 学芸会の段ボール制作した背景じゃなくて、緻密に書き込まれたアニメや漫画、実写映画みたいに、立体的に見せたいですよね。そのためにはやっぱり背景描写はしっかりしなくちゃならない。難しいだのわからないだの言う前に、とにかく書いてみるしかないんだと思います。


 人物が背景に溶け込む、どこにいてどんな風に誰と一緒にいるのかわかる。ここまでたどり着けたら最高なんでしょうけど。

 作家の井上ひさしが、同郷(山形県)の作家藤沢周平の作品『蝉しぐれ』の描写を元に、舞台として使われていた『海坂藩』の地図を書き上げていたという逸話を耳にしました。もちろん読みまくった上でのことでしょうが、地図に出来るほど丁寧に描写されていることの現れですよね。

 そこまでいかないにしても、例えば学園ものなら教室の位置や机の配置をわざわざ図にしなくても説明できるようにするだとか、ホームドラマなら家の見取り図を想像しやすいようにちょこちょこ小出しにして説明していくとか、色々出来るはず。


 ここで注意したいのが、その描写の仕方です。

 とにかく書けばいいからといきなり説明だけガンガンしない。少しずつ少しずつ、台詞や仕草に混ぜてこっそりと補完させていくのがよいと思います。まとめてダーッと書かれても、頭では理解できないんですよ。

 これは背景についてだけ言えることじゃないですよ。人物の紹介、テクノロジー、世界観。これらに関しても、描写や説明を一気にしてしまうのは好ましくありません。作者が自分の考えた設定に酔っている、自分の書きたいことを連ねているだけと思われても文句の言えない書き方になってしまいます。

 人に読んでもらうことを前提にするなら(というか、小説として公開するなら当然ですが)、読みやすいように想像しやすいように書くのが一番。独りよがりならチラシの裏でいいはずですからね。


 ……と、まぁ、書きたい放題書いてみて、自作はどうかと振り返る。あれ、ちょっと描写不足。気をつけていても上手くはいきません。

 いつになったら納得する描写が出来るようになるのかと、今日も泣く泣く執筆を続けています。

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