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魂22◎トランス/自動筆記――締切との戦い

 追い込まれないと書けない、というのはとてもよろしくないことだと自分でも思うのです。夏休みの宿題をお盆過ぎにやる(東北の夏休みは概ね八月二十日頃まで)とか、いやむしろ、思い切って夏休み終わってからやるとか、そのくらい切羽詰まらないと出来ないんですからタチが悪い。なんでもっと早くと毎回言われるわけですけど、それでも本人は「だってやることがたくさんあって気がついたら時間切れだったんだもの」と言うわけです。

 書いてみて、「あれ、これ毎回のこのエッセイの更新のギリギリさの言い訳では」と思うくらいしょっちゅうそんなことをしています。悪い癖ですね。

 どこぞの消費者金融のCMで「ご利用は計画的に」と喋ってますが、別にそれは財布事情に限った事じゃないだろうというのはわかってるのですけどね。身体に染みついたこのギリギリ癖というのは大人になっても確かに抜けにくいものだと実感しています。

 計画的に毎回物事を進められるならどんなに楽だろうと思いつつ、どうしてもギリギリになってしまうのは、やることをきちんとメモに取ったり順立てて考えていなかったりすることが原因なのだろうと自分では何となくわかっています。就職したての頃に上司から「毎日の仕事をメモに書き、終わったものから線で消す。次の日に持ち越してもいいものは次の日用のメモを作り、箇条書きにして書類とともに残していく癖を付けなさい」と言われたのに、今はなかなか実践できていません。ああ、人間楽したらだめだ、きちんと言われたことを自分の癖にしていかないと後で苦しむとわかっているのに。


 そういうわけで、小説も締切ギリギリ提出です。威張ってはいけませんね。決して誇れる事じゃありませんから。構想を練る時間が多いんだ、などと言い訳をしたくなることもあるんですけど、ただ単に計画ミス、前もって何々するとかいついつまでこうしなければならないだとか、きちんと考えてないだけなんですよね。

 ただ、不思議なことにこのギリギリ感がよい結果をもたらすこともあるんですよ。あくまでも私的に、ですけど。なんて言うんでしょう、自動筆記状態、トランス状態というか、そういうのになってしまうことがあるみたいです。

 それまで悶々と漠然と考えていたことがすっきりと整理されて、どこで誰がどのように行動したかが全部頭の中で関連づけられ、映像としてくっきり浮かび上がってくる状態です。まるで他人が撮った映画をそのまま描写しているかのような感覚。登場人物の表情や鼓動まで伝わってくる、あのピリピリした緊張感は、実際そうなった人にしかわからないかも知れません。

 何故それまで文章一つ考えるのに数時間要していたのか、纏まらず何度も書き直したのが嘘のように、言葉を話すのと同じくらいのスピードでガンガン書けてしまう。不思議ですよね。

 毎回そういう状態で書けたらどれだけ楽か。ところが、この自動筆記状態は締切間際にならないと現れてくれません。普段パソコンの前に座ってよし書くかとキーボードを叩いたところで簡単に陥るものではないようです。


 さて、自動筆記になるまで自分を追い込むか、それとも計画的にプロットを練り書き上げるか。よく考えてみれば後者が効率良いに決まってます。自動筆記と言っても、結局は自分の中で紡がれた物語を書いていることにかわりはなく、自分の筆力の限界値を超える作品は書けないわけですから。

 だけどもそこであの追い込まれた状況を一度でも体感できた人は思ってしまうわけです。

「あの時の、あの状況まで自分を追い込めば、もう一度トランス状態を体験できるかも知れない」

 ――と。

 どこかのヒーローものみたいにですよ。普段はその辺の人だけど、ピンチになるとスゴイ力を発揮して敵を一蹴する、みたいな。そのスゴイ力が毎回出せるわけじゃなくて、ボス級のキャラが出てきたときだけ、仲間が皆倒れたときにだけ出てくるみたいな。

 わかりやすく言うとそう、超サイヤ人ですよ。クリリンがフリーザに殺されて、「よくもクリリンをー!!」っていう、あの悟空の怒りが、まさに締切ギリギリで助けてくれ状態と被るんです。もう馬鹿みたいに力がどんどん溢れて、夜も更け、やがて白んでくるまでガガガッと書きまくれるんです。何故その力を、普段隠していたのだと思われるくらいに。

 書いて書いて、書きまくって、元気玉ぐらいのパワーがそれこそ締切日に発揮できます。恐ろしいことです。今までのあのわだかまり、キーボードを打つ手がぴたりと止まってしまう感覚が嘘のように恐ろしい早さで文章が綴られていきます。一晩でいったい何文字打つのか。今までの記録を嘘のように塗り替えていくのです。

「なんで、それが前もって出来ないの」

 周囲からのブーイングが聞こえようとも、本人は全く気になりません。だって、トランス状態ですから。書けるときに書かなくてはと、必死で外野の事なんて目もくれません。

 腕が痛くなろうとも、指がつりそうになろうとも、どんどん書けてしまいます。

 そして、完結――。

 

 嘘のように、心に穴が開きます。

 締切と小説に解放され、気がつくと夢の中に。

 

 強敵を倒した後、主人公は大抵倒れますよね。あれって、きっと作者自身の気持ちの表れなんだと思うんですよ。だって、倒し終わった後は本当に気が抜ける。締切が終わった、書き上げた、帳尻合った、伏線回収しきった、それぞれ想いは違えど、最終的に自分が締切に勝ったという事実だけは変わらない。

 疲れます。無駄に疲れます。

 普通に締切を迎えるのとは別の意味でぐっと疲れます。かなりの精神力を使うからなんでしょうね。追い込まれたことと、自分の力以上のものを発揮できたかもしれないことに。企画でご一緒したある方もおっしゃってましたが、しばらく力が抜けて何も書けない――燃え尽き症候群のようなものになってしまうんですよね。


 素人だからこの程度で済むけど、プロは毎回こういう現場を体験しているんだろうから本当にスゴイ。私たちは偶に超サイヤ人級になれればいいけど、毎回ってなると、なかなか難しいですから。

 あれですか、やっぱり慣れてくるとトランス状態には普通になれるもんでしょうか。そんでもって、私たちには手の届かないもっと上の状態になれるもんでしょうか。毎回追い込まれないと出来ない私としては、出来れば常にトランス常態に持って行きたいところなんですけどね。そんでもって、いつの日か、「これが超サイヤ人3だー!!」とか出来たら嬉しいですけど。

 ……そんなモノに頼らず、普通に力が発揮できるよう、善処します。

思わず大好きなドラゴンボールネタに走ってしまいました。苦手な人はすみません……。


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