魂17◎本気度を見せつけろ
市販の小説を読んだときは感じないのに、ネットでアマの作品を読むと感じることがあります。それは多分、私だけが感じている事じゃなくて、殆どの人が少なくとも一度は感じたことがあるはず。読んでいてそこに突っかかってしまうと、どうしても先に進めない。それは、素人作品だけではなくて、例えばテレビ番組や漫画雑誌でも感じてしまうことも。それ、とは――「気合い」「気迫」「プロ意識」の欠如です。
正月や春休み、お盆や秋の番組改編期に、テレビ局で繋ぎ的に用意する特番を見て、いつもよりつまらないと思ってしまうことはありませんか。野球が雨天中止になったときの番組も然りですが、「間に合わせ感」があって私はどうしても好きになれないのです。普段は姿を見せない三流芸人を多数起用したり、出演単価の安いバラエティ芸人が勢揃い、たいした面白くもないネタを延々と垂れ流しされることもありますよね。ああいうのってある意味必要なのはわかってるんです。だけど、気に入ってるレギュラー番組がそういうので潰れるとがっかりしてしまいます。そういう番組が増えてくると、「あ、改編期だ」と思ってしまうあたり嫌な視聴者ですけども。だったら興味をそそる特番を組んでくださいというのが見る側の本音ですよね。
今も同じ事例があるかどうかわかりませんが、以前ある漫画雑誌を買っていたとき、ものすごく好きな作家さんがいたんですけど、人気が出るに連れてどんどんペンタッチが荒くなり、いかにもアシスタントさんの作業量が増した、というのを目の当たりにしてショックを受けたことがあります。作品がアニメ化して大流行した作品だったので、これからどんどん読者も増えていくだろうに、どうして作風が荒くなるんだろうと子供ながらに悩んだものです。週間ではなく月刊雑誌だったし、他に連載も持っていない漫画家さんだったので、なおさら理由がわからなくて。「あれ、週刊誌のあの作品の絵は、絶対崩れないよね」などと比べてしまったり。話がつまらなかったわけではないんですけど、その雑さ加減に嫌気がさして、とうとう読むのをやめてしまった覚えがあります。
もしかしたら人に作品を見てもらっているという感覚が薄れているんじゃないかと、そういった中途半端なものを見ていたら自然と思うようになりました。したらば自分はと振り返ってみます。金をもらってるわけじゃない、プロでもない。ただの主婦で社会人で、そんな人間が書いた作品に興味を持ってくださるだけで私はとても嬉しいですから、とても気なんか抜けません。それこそ、こんなエッセイで毒舌吐きまくってその上で仕上げた作品がなおざりだったら、いつ槍玉にあげられるかわからない。綱渡りみたいなことをしているから、作品の内容はいつだって本気です。
実際、話を読めばどのくらい本気か真面目に書いたか、一目瞭然じゃないですか。手を抜いたなというのも、構成の粗も、ある程度読み取れます。それこそ、書いた人の心境、周辺事情や性格も大体わかるものです。本気で書いていない話を面白いと思ってしまうのは、まだ経験値が足りないからではないかなと、おばさん的には思うわけで。
何も、プロに勝る、迫るような作品が必ずしも本気度が高いというわけではないんですよ。力を出し切る、これ以上のものは今書けませんというものを書いているかどうか、抽象的ですがこういうものは作品からにじみ出てきてしまうのです。精一杯さが足りないものは、見ていてつまらない。やる気のないバラエティ番組のように、だらだらと排出すればそれで終わりでは――、誰も満足しないのではないかと思います。
芸術作品というのは尺度で測れないので、どうしても画一的に評価できないものです。しかし、その中を深く覗いていけば、どのような過程を踏んでどう昇華できたかわかってきます。子供が一生懸命描いた絵と大人が子供の絵を真似て描いた絵との区別が付くように、小説だってその作家本来の度量が文の端々から感じ取れるんです。視覚的でないからわからないだけで、感覚として捉えることは可能なんですよね。書いている方は上手く騙しているつもりでも、読者はそれをよく見ていて、そのうえでそれなりの感想を持つのです。
例えば冒頭で上手く引き込めたとして、果たしてそのまま読者を最後まで惹き付け続けられるかどうか。もしかしたらそこには、書き手の本気度合いが絡んでいるのではないでしょうか。読者がその本気度を知らず知らず見抜いていて、最後まで読むかどうかを判断しているとしたら。必ずしもとはいかなくても、一因ではあると思います。書いている側のモチベーションは、その文字を追う読者にも確実に伝わるわけですから。
本気だからといって、なにもシリアス路線で行けというわけではないですよ。ギャグやコメディにもそれ相応の本気さが必要になりますからね。それこそ、シリアスものなんかよりずっと技量が試される分野だと思います。私もいくつかギャグマンガ描いたことありますけど、毎回楽しませるっていうのはかなり難しい。発想を転換転換、上手いこと相手を引き込むだけの力がないと空回りで終わってしまう、恐ろしいジャンルですよね。
お笑い番組をよく見るので、特に笑いに関してはシビアです。その本気さ加減が試される「爆笑レッドカーペット」とか「ザ・イロモネア」なんかは出演者が本気でないとつまらない。どれくらいてんぱってるか、その上で笑いをとるか、毎回目が離せません。あのくらい本気だと見ていて損はしない気がしますし、笑いすぎて涙が出るくらいが丁度いいと思ってしまうんです。そういうのばっかり見慣れてしまうと、ただネタの垂れ流しになっている番組が余計つまらない。なんだこれはとなるわけです。
笑いをとるのも読者を泣かせるのもハラハラされるのも、結局は作者の本気度次第。作品に注ぎ込む気迫がどの程度によるわけですから、本気度は高い方がいいに決まってます。知識や技量があるからといって文学者、作家気取りする人より、コツコツと自分の本気度を作品にぶつけていくモノカキの方が超カッコイイと思うのです。
自分の本気度はどんなものか、少し考え直してみませんか。誰彼かの甘口感想や甘口評価でつい自分が偉い作家様になったと勘違いしてしまっている人がいたら、襟を正してみるいい機会かも。本気の自分をさらけ出して、自分にしか書けない作品を仕上げたとき、一歩本物のモノカキへと足を踏み出せるかもしれません。