8.巻き込まれる性格
調査会です。変なところに力が入ってる気がします。
翌日、今日も一応冬休みだ。やることがあり朝食は簡単に卵かけご飯にしようと思ったが、昨日野菜をあんまり食べていない、小さな鍋にお湯を張り玉葱とレタスを食べやすい大きさに切りシチューのルーを一欠けら入れて簡単なシチューを作る。あーハムも入れとこう。お、クルトンもあるじゃん後で入れよう。もうめんどくさいなご飯も入れよう、最近流行ってるしシチューとご飯。軽く煮込んでクルトンを入れようサクサクと染み込んだもの二つを味わうために、器に移す前に少し入れておく。クルトンが少し柔らかくなってきたところで、器に移し、クルトンを更に上からかける。
「いただきます。」
シチューの甘みの中に玉葱の甘みが馴染んでいてうまい。溶けやすいような食材が多いため、柔らかくなったレタスが食べ応えを出してくれる。レタスは生っていうイメージが強いけれど個人的には、火を通したしなっとしているレタスも好きだ。キャベツとは違うあの独特の歯ごたえが結構好きなんだよな。シチューの甘みに溶け込んだご飯とクルトンもうまい。シチューにご飯はありという人となしという人がいるが個人的にはありだ。なんというかなんちゃってリゾットみたいな、そういうおいしさがあると思う。ああ、今度はチーズとか入れてみてもいいかもな。最後に粉かスライスチーズを乗せてあぶって焦げ目をつけてもおいしそうだ。まあバーナーとか買ってないからあぶれないんだけどね。それに今日は用事があるからあんまり手の込んだものを作っている余裕はないな。ハムもベーコンの代《kあ》わりに入れてみたけれどベーコンのうま味や塩っ気にない、あっさりとした感じがこれはこれでありかと思わせる。
「ごちそうさまでした。」
食器を片付け、掃除や洗濯を始める、やらなくてはいけないことは終わらせておこう。
一通り家事が終わったところで出かける準備をする。
「お、何か色々やってるなと思っていたが、どっかでかけるのか。」
ふわぁっと貞時が現れて声をかけてくる。
「あれ、どこに行ってたんだ。朝から見かけなかったけど。」
「帰って来るや否や爆睡されたもんでな。昨日の反省点を考えたり、あの着物のことについて考えていたんだ。」
「何か思い当たる節でもあるのか。」
「いや、記憶には何もないが、あの光の玉は始めて見たからな。色々対策を考えていたんだ。」
「んで対策は。」
「避けるかはじくかかな。」
「参考にならん、そんな脳筋な対策。」
貞時としゃべりながら着替えを終える。
「で、朝から特訓というわけじゃなさそうだな。」
「ああ、調べものだ。図書館に向かう大人しくしてろよ。特訓はそうだな時間次第ってところかな。それとも早急にしないといけないほどのレベルか、はたまた急がなくちゃいけない修正点があればスケジュールを変えるが。」
「いや、大丈夫だ。」
「良かった。」
そして、俺は町の図書館に向かった。
高校生で一人暮らしを始めて、8ヶ月ほどたっているため大まかな施設は把握している。迷いのない足取りで図書館に向かった。着いたのは午前10時だった。中に入り、町の歴史を中心に様々な資料を確認していった。着物の女性の言っていたことが気になっていた。「この地で」という部分を切り抜けばおそらくこの町にいたことがあるのだろう、生前か死後かはわからないが、人間と思えない光の妖術のような物を操っていたんだ、何かしらヒントがあるかもしれない。
・・・
結果から言うと何も見つからなかった。調べ方が悪いのかな。
歴史書、伝記、風土記等々この町や周辺地域に関わるものをいろいろ引っ張り出したり、新聞やサイトでニュースなんかを見ていたがそれっぽいのは見つからなかった。新聞やニュースは関係ない記事が多いので流し気味に読んだ所はあるが、それっぽいのはなかった。
ぐおぉぉぉ
一区切りついて体を伸ばしていたところで空腹を思い出した。集中しすぎて忘れていた、時間は午後2時50分、そりゃ腹も減るわな。
「何か見つかったか。」
今まで静かにしてくれていた貞時がここぞとばかりに声をかけてきた。
俺は両手を上に、肩をすくめお手上げといったポーズで首を横に振った。
「そうか無かったか。まあ、俺も後ろから見ていて引っかかることはなかったからな。」
後ろから見てたんだ。まあいったんやめて遅めの昼休憩とするか。
俺は資料を片付けていたとき、不図、掲示板のポスターが目に入った。
読み聞かせ 午後3時より 中央ホールにて 今回の本「鬼娘の涙」
聞いたことない本だな。今からか、通り際に軽く聞いていくか。
資料を片付け終わり、何か飯を食べようと図書館を後にしようとした。図書館を出るには中央ホールの前を通らなくてはいけない。
子供達が集まっており、司書さんのような方が中心となって読み聞かせを始めようとした。軽く調べてみたが、どうやら地元ならではの童話のようで、この町でぐらいしか知られていないお話のようだった。
読み聞かせの内容はこうだった。
昔とある村があって老若男女平和に楽しく暮らしていたという。とある日鬼が村を襲い村の女や子供をさらっていったという。鬼の集団には鬼の娘もおり、つれてこられた子供達と話をしていた。子供達は村に返してくださいと鬼の娘に泣いて懇願したらしい、そこで鬼の娘は他の鬼の目を盗み、逃亡を実行したのであった。
しかし、判断能力や経験が浅い子供達だけでの逃亡生活は厳しく、身体の限界を迎え力尽きる子供や、足を踏み外し崖から転落するものも出てき、最終的には食糧不足とパニックになり次々に子供達は死んでいった。心身ともに強かった鬼の娘だけがピンピンしていた。最後に残された一番仲の良かった村の娘を担ぎ、村を目指していたが最後に衰弱して死んでしまう。私達のために頑張ってくれてありがとうという言葉を残し、最後の村の子供も死んでしまう。一人残された鬼の娘は泣きじゃくり鬼の元へ戻っていったが、動きながら生活している鬼の集団はもうそこには残っておらず、鬼の娘が途方に暮れて終わる。
たまにあるバッドエンドの童話か、そのあと司書さんが色々と話しており、教訓としては判断力の乏しい小さい子供達の独断での行動は大変危険だから、取り返しのつく前に大人や経験者に相談することを忘れないで、といったところだろうか。
何となく最後まで聞き入ってしまった。読み聞かせは10分くらいだった。俺は改めて歩き出し、図書館を後にした。
鬼娘の涙か、童話というものは時代とともに結構美化されているものが多く、外国の童話は特に改変されていることが多いって聞くな。もしかしたらあの童話も元となった何かがあったのかもしれないな。今度探してみるか。
そう思ったところで俺は歩みを止めた。
うまく昔話を作れた気がしないです。