7.狂いだす人生
新キャラが出ます。ここから長い話になると思います。
「ただいまーっと。」
下山して帰宅した。一人暮らしでも何故かただいまと言ってしまう。子供の頃からの癖というものなんだろうな。
「さて、何を食べようかな。あ、ヤバイ今日買い物して帰ってくるつもりだったんだ。」
せっかく帰ってきたのに、疲れも来てるけど背に腹はかえれん買いに行くか。
「俺出かけてくる。」
「ん、忘れ物か。」
「食べ物がなかったんだ買って来るつもりだったの忘れてた。」
改めて家を出て鍵をかける。財布も持ったし大丈夫だろ。時刻は午後7時スーパーもまだやってるし、もうめんどくさいからどっかで食ってしまうのもありだな。そう思いながら歩いていた。何故か貞時が憑いて来ている。
「何故?」
「何故って今更だな。俺はお前さんに取り憑いているんだ。お前さんの部屋の地縛霊じゃないんだぞ。よっぽどのことがない限り憑いて行くぞ。」
「ん、あ、まあそうか。」
ナチュラルに貞時としゃべってしまった。周りに人がいなくて良かった。さっきまで普通に話していたからな。気をつけなくてはいけないな。
「さて、もう作るの面倒くさいし、ここでいいか。」
俺は牛丼のチェーン店にて夕飯を済ませることにした。
「いただきます。」
うまい、チェーン店とは言えど牛丼はうまいなたれの沁みたご飯だけでもうまいのに、そこに牛肉もあるためがつがつと食える。また、定食とは違い主食と主菜が一つの器に収まっているので、よりいっそう食事に牛丼に集中できるというのもやはりうまいと感じる一つの理由なのかもしれない。紅生姜も一味変えるいいアクセントとなっている。貧乏学生の身分だと食べ放題というのがまた良い、備え付けの容器の半分くらいの紅生姜と牛丼を食べる。
まだ、疲れが残っている体に牛肉のタンパク質とご飯の炭水化物が流れ込み喜びを感じている。また、冬の寒さに生姜の効果で体に熱を感じる。
「ごちそうさまでした。」
父親の教訓で食事は常に食材となった命に感謝を忘れてはいけないと教えられ、いただきますとごちそうさまは自然と出てしまう。外食の時は周りに迷惑にならないように小声になる。だが、食材への感謝はしっかりしているつもりだ。
「さて、明日のために食材買って帰りますか。」
時刻は午後8時よく考えると朝食の食材もなかったのでスーパーには行かなくてはいけない。まあまだ時間に余裕はあるし、ゆっくりと行くか。俺はスーパーに歩きながら向かった。
「いやぁ間に合った間に合った。」
時刻は午後9時半頃、スーパーで買い物を終え帰路についていたころだった。
人気のない場所で女性二人が言い争いをしているのを見かける。一人は美しい着物に身を包み、もう一人は作業着で携帯を持っている。
着物の人は、長い髪を簪で短くまとめ、172くらいの高い身長ではっきりとはわからないが全体的に腕や足が長く美しさを感じる。顔も整っておりかなりの美人だ、どことなく心の奥に闇を秘めているようでそこもまた美しい顔を引き立たせている様な印象だった。
作業着の人は、黒髪で長めのポニーテール、灰色の作業着を着ていて、上から黒の上着を着ている。身長は着物の女性よりも少し低く168くらいかな、かなり鍛えているのか引き締まっている、しかし出ているところは出ているといった感じだ。目もキリッとしており姉御的オーラを感じる。
「何が目的なの、巷でもここの噂が広まっているのよ。」
「何も目的は無いただここに居座っているだけであろう。」
「それが周りに影響を及ぼしていることは分かってるんです。できるだけ協力しますので話し合いましょう。」
「あなた達に何ができる、私のことなんて誰もわかるはずないであろう。話し合いなど時間の無駄であろう。」
なんだかよくない雰囲気だな。住宅街から離れた人気のないところだけどどうしようか。でも埒が明きそうにもないし、今にも手を出しそうだし止めに入るか。俺は走り出し、二人の方へ向かう。
「まあまあまあまあ、お二人さん落ち着いて、夜だしあんまり熱くならないで、ね。」
スッと間に入り二人をなだめる。
「何の話か分かりませんけど、熱くなってたら進むものも進みませんよ。ここは一度落ち着いて、第三者である私に話していませんか。」
あれ、何か二人とも静かだな。誰だお前はとか言われそうな気がしていたんだが、何も言われないな。改めて二人を見ると信じられないものを見るような眼でこちらを見ていた。
「おい、せっかちだなお前さんはよく見ろ片方は霊体だぞ。」
「なにっ。」
しまった流石に今どき若い人がしっかり着物を着てるのはおかしいと思ったんだよな。
貞時に言われ自分の愚かさに気づかされる。まさかこんなに早くほかの霊体にエンカウントするとは思っていなかった。完全に油断していた。
灰色の作業着の女性が声をかけてくる。
「あなた見えているの、霊体とも仲良くしゃべっているしあなたいったい何者?」
ヤバイ。
「見える人でこんなに霊体の色が強い人は初めて見た、あなた一体何者なの。」
やったね、仲裁 《ちゅうさい》に入ってけんかを止めることは大成功、とか考えている場合じゃないなこれ、どうやって切り抜けようか。嫌な汗が体中に流れてくる。いったいどうしたものか。
「おっと、美しい女性二人のけんかを止めようと思ったら、僕の魅力に見しまってけんかを忘ったようだ。僕の仕事はこれで終わりだね。ではお二人さん平和な良い夜を、グッドナイト。」
「おい。」
「待てい。」
くそ、イタリア人(イメージ)作戦で華麗に去ろうとしたけどダメだったか。
女性二人がすごい目つきでこちらを見ている。怪しいものを見るような目でかなり警戒されている。もういいか逃げられそうにないし諦めよう。
「いやー実は先日死にかけまして、起きたら霊感が強くなったのか霊の姿がはっきりと見える様になってまして、ああこの人は私が一番最初に見た霊の方で色々と教えてもらっていたところなんですよ。」
営業スマイルをかましながら手ぶりを交えて説明する。自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた。これ以上色々と聞かれるのも面倒くさいので、話題をあちらの話に変える。
「ところでお二人はどうしてこんなところでもめていたのですか。」
「ああ、最近この辺りを通ると元気がなくなるというか体が重く感じて暗い気持ちになると相談が来ていてな。原因を調べたところこの霊が原因だったので説得というか交渉?に来ていたんだ。」
作業着の女性が答える。
「ここの通りは人通りは少ないかもしれないが誰も通らないわけでもないし、遠回りも近くにあるわけじゃないからな。
んで、どうして成仏できないんだとか話してみたら楽になるんじゃないかとか、カウンセリング紛いのような感じで説得していたら全く話してくれなくて、熱くなってしまっていたというわけだ。」
「成程。」
作業着の女性の話を聞き終わり、着物の女性の方に目を向ける。
「大体、その者の話で流れはあっておる、私も熱くなってしまった部分もあったであろう。だが、私はまだ少しここにいるつもりだ。なんであれ殺している訳じゃないであろう、私が少し居座ったところで問題なかろう。」
「別の場所でも同じようなことになる可能性があるんだからここだからダメという訳じゃないんです。成仏したいなら協力したいですし、したくないならしたくないで迷惑にならない方法を考えるので、訳を話していただきたいのです。」
「千何百年も前からこの地で人間に人間扱いされなかった私が今更人間の何を信じればいいのだ。いい加減しつこいと私も手が出るぞ。」
体が見たこともない光に包まれて手の方へと集中していく。嫌な予感しかしない。
「!?あれに触れるな。」
「む、妖術の類か厄介な。」
作業着の女性が叫び、貞時が反応した瞬間、着物の女性から光の玉が広範囲に細かく分裂して放出される。濃い弾幕が三人を襲い掛かる。光の弾幕にある程度予想ができた二人は同時に弾幕の射角範囲から逃れる。俺だけが完全に出遅れた形になった。しゃがみこまれるのも想定してか左右上下全体的に放たれたため、利き足が反応し左に動き出す。
「ぐおぉ」
俺は光の弾幕を避けきれずに、右半身に5,6発弾幕を受ける。衝撃と共に視界がぐらつく、踏ん張って膝は着かずに着物の女性を見直す。
「ほう、耐えるか。5,6発受けたように見えたが、ちゃんと練ったはずだから膝をつかずに立てるとは驚きであろう。」
「あなた大丈夫。」
作業着の女性に右手を上げ大丈夫の合図を送る。
「いったん退くわ、あなたのこと諦めた訳じゃないから。」
「何度来ても私の意志は変わらんであろう。」
俺と作業着の女性はその場から逃げるように離れていく。ある程度距離をとったところで女性は話しかけてくる。
「あなたすごいのね。あ、自己紹介がまだだったわね。」
女性はポケットから名刺入れを取り出し、名刺を俺に渡してくる。
「株式会社ブラックカンパニーの伊東冷衣。あんまり聞いたことない会社だと思うけど、最近増えてきた霊やオカルトみたいなものを扱う会社なの。私も霊感があったからここに入ったところもあるんだよね。」
伊東さんね、名刺を受け取り自分の自己紹介に入る。
「明南高校1年の和田智玄です。こっちの侍《さむらい
》は菊池貞時です。先程も話しました通り私は昨日死にかけましてこういった体質になってしまったらしいです。あ、貞時は何もしていませんよむしろ色々教えてもらっていて助かっています。」
「ああ大丈夫大丈夫、フォローしなくても実害が出ていないものに手を出すことはしないよ。君もあんまりかしこまらなくてもいいよ。」
一応貞時のフォローをしておいたが考えすぎだったようだ。まあ、こいつがやられる姿が想像できないがな。
「うちも人手が足りないからもし良かったらうちで働いてみない、霊感も強いし、身体能力や精神力もかなり高いみたいだから一発採用だと思うよ。ああ、高校生だったね、今からでもバイトみたいな形でできるかしら。」
がっつりスカウトされた。もらった名刺には事務所のものと思われる住所や電話番号などが伊東さんの名前と共に入っている。
「はあ、まあ、考えときます。」
「よろしく。さて一回戻って上司に相談かな、どうしたものかな何にも話してくれなかったな。」
そうして俺と伊東さんは分かれた。着物の女性の方へ行けば近道だが、今日のうちにまた顔を合わせるのは気まずい思い少し遠回りになるが、別の道を通って帰ることにした。その遠回りが結構かかるんだよな。
「明日はどうするんだ。」
貞時が声をかけてきた。
「どうするって何が。」
「特訓だよ特訓。今日は昼間からだったが、明日は別に朝からでも構わないのだろう。まあ、お前さんにも予定があるだろうし、俺の時間はお前さんより長いから基本的にはお前さんに合わせるよ。」
「ああ、すまんな気を使ってもらって、だがすまん明日は調べ物があるんでな、特訓できるかも怪しいかもしれない。」
「あの女のことについてか。」
「そ。なんか引っかかる部分もあったし、もしかしたら力になれると思ってな。」
「お人好しだねぇ、まあ、できる限り協力するよ。俺はあんたの憑き人だからな。」
「そうかい。」
俺は家に到着すると早速食材を冷蔵庫にしまい、風呂に入って寝た。
なんだかとんでもない方向に人生が傾いている気がするが、気のせいだろうな。
ちゃんとした女性キャラが初めて出てきました。