5.対幽霊戦闘演習
本格的に戦闘表現が出てきたのですが、うまく伝わっているか不安です。
さて、今日は午後から何もないし早速貞時を利用させてもらおう。
「早速なんだがいいか。」
「ん?何だ。」
「お前の話だと幽霊によっては力づくな展開が来ないこともないのだろう。」
「そうだな血の気の多い連中もたくさんいるな。流れてないはずなのに。」
「だろ、だからそういった時のことも考えて訓練をしておきたいと思うのだが。」
「ああそうか。わかった相手してやろう。」
「よろしく頼む。」
問題は場所だな部屋でやるわけにもいかないし、人目に付くわけにもいかないからな。
・・・山にでも行くか。この時期なら山登りをする奴もいないだろう。
「修行と言ったら山、という訳では無いが、人がいない点を考慮するとやっぱり山かな。」
「お前さんに憑いて行くだけだから場所は任せるぞ。」
ジャージに上着を羽織り、リュックに飲み物やタオル等必要なものを入れ近くの山へ向かった。冬休みで学校もしばらく無いし、バイトもこの間終わったからな。
「さて、それじゃ何から始めるかな。」
近くの山林の中でほどほどに広い場所を見つけ荷物を置き、貞時が腕を組みながら声をかけてくる。雪景色に包まれていたが、降ったばかりということもあり足をとられるほどのものではなかった。
「まずは感触を確かめたいのだが、触ってみていいか。」
「ん、いいぞ。生きているものに触られるのは久しぶりだな。」
「へー。」
貞時に近づき、腕を触ってみる。
体温は感じない、しかし、ちゃんと何かに触れているという感覚《感覚》はある。見えているということもあるが、腕を触っているというのが分かる。見えていなくてもある程度わかるだろう。体温がないのと、貞時の筋肉がしっかりしているため、マネキンに触れているような固い感覚だった。
「意外と感触はあるんだな。」
「こっちもすごく触られている感覚があるな。こんなにはっきり感じるのは初めてだな。」
「そうか。まあ何となくわかったし、本題の準備をしますか。」
腕から手を放し、準備運動を始める。ストレッチの後少し体を動かし、動きの具合を確かめる。季節は冬、場所は山ということもあり普通に寒い。入念なアップを終え、寒さが気にならない程度に温まったところで貞時に声をかける。
「すまん待たせた。体もあったまってきたしそろそろ始めるか。」
「わかった。まずは、これで試してみるか。」
貞時は刀の鞘を片手にしていた。
「鞘?」
「ああ、鞘だ。これなら当たってもお前さんは切れるというイメージを持たないだろう。」
「成程。まずは、実戦から入ると。」
「そう、実戦しか知らないけどな。だが当たったら切られたのと同然だから無理に突っ込んでくるなよ。」
「わかってるよ。当たったら切られたも同然ということで向かって来いということだろ。」
「そういうことだ。・・・では。始めよう。」
互いに距離をとり、構える。互いに右足を少し前に出す形となっている。
智玄と貞時は互いに目を合わせ、互いに頷き合う。
智玄が距離を詰める。貞時の鞘のリーチに入ったその時、貞時が左から右へ横に鞘を振り払う。しかし、智玄は上半身を後ろに反らし、鞘を避ける。
智玄は貞時の懐に入らず右足を引く。引くとほぼ同時に貞時が斜めに切り返して来た。鞘のリーチから外れていた智玄に鞘には当たらなかった。
斜め下に振り切ったのを確認すると、貞時の背後に回るように右足で地面を蹴り跳ねるように後ろに回りながら右腕で貞時を殴りにかかった。
貞時は冷静だった。相手からは絶対に目を離さずに動きを見ていた。智玄が回り込んだのを確認し、右手から鞘を手放し、拳に肘鉄を合わせ相殺した。
そして、互いにまた距離をとる。
「いったいなぁどうやったらあの状態から肘鉄を合わせてこれるんだよ。」
右手の拳を広げ振りながら俺は文句を垂れた。
「バカ言えちょっと焦ったぞ、最初で踏み込んでくると思って切り返したら、引いて回り込もうとするのだからな。まあ、うまく当てれてよかったわ、外してたら背中殴られておったわ。」
鞘と首を回し貞時が答える。
「いや、お前ほどの手練れがそんな易々と隙を見せるかと疑問に思ったら、一撃目の後には踏み込めなかった。」
「ありゃ、そんなに高評価をもらえているとはうれしいねぇ。」
「家であんなに見事な居合見せられたら普通に警戒するわ。」
「お、皮肉か、結局かすめただけで終わってしまったではないか。」
「殺す気でいたらそれこそ腕なんて全部簡単に切られていただろうよ。」
俺は肩をすくめた。
貞時の顔が変わる、今までよりも鋭い目つきとなり俺を見ている。そしてどことなく口角が上がり楽しそうにこちらを見ている。
「さて、段階を上げようか。」
「・・・マジで、今のでもギリギリでしたよ、ワタシ。」
顔が引きつる、苦笑いをとめることができなかった。
「いやまあ、今でもそんじょそこらの奴には十分なんだろうが、せっかくだからやってみないか。」
「・・・わかった、やる。」
「あと、一つ謝っておくわお前さんのこと過小評価しすぎていた。さっきのレベルでも当たると思っていた。」
「そうか。」
「お互い気を引き締め直そうぜ。」
お互いに構えを取り直す。
「準備はいいな。」
「ああ、少し怖いな。」
貞時は智玄に近づき、自分の得物のリーチに智玄を入れてくる。入ったと同時に貞時は左から右へと切り払う、先程と同じ軌道で。しかし、その剣速は先程よりも早かった。
智玄は後ろへ引くように回避を試みた。智玄も段階が上がると言われ速度も上がってくることは想定していた。
しかし構えていた右腕に衝撃と痛みが走る。痛みにこらえながら追撃を警戒し、左手で鞘を握る手を掴みにかかった。読んでいたかのように貞時は一歩引きながら右手を切り払い、胸元に鞘を突きに行く。右手を伸ばし体勢が崩ていた智玄は横に転がるように避けることを強いられる。
その隙を逃さずすぐさま貞時は智玄の体に鞘を当てた。
鞘を当てられたタイミングで二人の動きがぴたりと止まる。
「両腕を切られ、胴体を二つに切られ死亡というところか。」
苦渋の表情で俺は答えた。
「まず一つといたところか。反省を聞こうか。」
「俺の行動がすべて事前にわかっているというような動きだった。同じ軌道だったのに避けられなかった。違いはもちろん純粋な速度もあるが、動きに無駄がなくタイミングが掴めず反応が遅れたと感じたな。」
両腕に棒で強打されたような鈍い痛みを感じながら答えた。そして、先程のことで疑問に思ったことを口にした。
「切り返すとき何で後ろに引いたんだ。」
「ん、ああ、簡単な話だ。お前さんが俺の手を見たから、本体でなくこっちを狙ってるんだなと思ったからかな。」
「あちゃ~それでばれたのか。無意識だったな。」
貞時が俺から離れた。腕はまだ若干力が入らないが、まずは俺も立ち上がった。
「ん、もういいのか回復したなら続きをやりたいと思うのだが。」
「ああもう少し待ってくれまだ少し腕の力が入らん。」
「ああ。」
こうして、俺の特訓が始まったのだった。
次くらいまで貞時式特訓が続きます。