4.幽霊との初のふれあい体験
戦闘シーンが出てきます。やっとタグの戦闘が回収できます。
俺は現在一人暮らしをしているアパートへと帰ってきた。時刻は午前11時。
「一人暮らしだし、この時間ならお隣さんたちもいないから大丈夫だろ。さて、何を,,,」
と振り返った瞬間、俺の横を貞時が抜けていった。その時、左腕に何かが掠った感覚があったが、痛みや傷ついた感覚がない不思議な感覚に襲われた。
完全に油断していた。寝ていたところを見ていたり、自宅へ帰ってきたという安心感から、襲う気はないと思っていた。
「てめぇ今何をした。」
咄嗟のことにバランスを崩した俺は右腕で支え体勢を整え、距離をとり臨戦態勢に入った。
「ん?あれ!?」
左腕に力が入らない。俺は貞時をにらむ。
「ハッハッハ。すごい反応だな。あの速さだとおそらく無意識だろうな。さっと距離と体勢を整え、相手を見て攻撃に備える。伊達に生き返ってくるような人間ではないということか。」
拍子抜けするくらい笑って感心していた。
「左腕に力が入らないんだが。」
戦闘態勢を崩さず貞時に問う。
「力が入らないのか、成程な。お前さんの腕を切ったんだよ、この刀で。」
腰に差した刀を抜く。立派な直刀の刀が取り出される。
「完全に切るつもりでいたのだが、まさか、体勢を崩し避けてくるとは思わなかったよ。おかげで掠った程度にしか当たらなかった、不意打ちだったし居合には多少自信があったつもりだったんだが、自信喪失してしまうよ。」
ちょっと悔しそうだったが、ケタケタとにやけながら言ってくる。そうか、無意識に上半身から体勢をわざと斜め後ろに崩して避けていたのか、少しずつ左腕に力が入ってくるのを感じる。
「成程、切ったりされても実体は切れないが、ダメージは受けるということか。」
無言で貞時が近づいてくる、にやけ顔が腹立つ。改めて警戒をする。
「まあそう警戒するな。利き手じゃないほうの小指を少し貸せ。」
「何する気だよ。指詰めるようなことをした覚えが無いぞ。」
「違うわ。ちょっとした実習だよ、そんな深くはいかないから安心しろ。不意打ちをかまして来た奴のセリフじゃないがな。」
俺は左手の小指を出す。
「これはさっきお前さんの腕を切った刀だ。きれいな刀だろ、これほどきれいな刀だとよく切れるよな。」
急に何を言い出す。そりゃあ確かに刀はよく切れるだろう。でも、その刀は,,,
「痛っ」
貞時が小指に刀身を当て軽く引く、薄い紙で指を切ったような鋭い痛みと共に、小指から赤い液体が浮き上がってきた。普通に切れてしまった。
「何故。」
「さて、実習はこのくらいにして言葉で説明するぞ。口で説明するより実際に体験したほうが分かりやすいと思ってな。実戦から入らせてもらった、不意打ちと小指の件はすまなかったな。」
「,,,必要経費として受け取るよ。」
刀を納め深く頭を下げる貞時を見て、臨戦態勢を止め、小指の件は目をつぶった。このくらいだとすぐに治るしな。
「かたじけない。さて、まずはお前さんの見解について聞いても良いか。」
「パッと思いついたのはプラシーボ効果かな。」
プラシーボ効果、ビタミン剤等の薬を腰痛に効く薬と思い込ませ服用すると、本当に腰痛が治るといったような、思い込みの力で実際にない効力を発揮するといったことだ。
今回は始めはあえて不意打ちを行い、俺に刀を認識させないで切ったことによって切られたと思わせなかった。その後刀身を見せ、切れると思い込まされた結果、小指が切れた。そのため、これが一番近いと感じた。
「概ねその認識で大丈夫だと思う。最初の一撃はあえて不意打ちにして切られたと思わせないようにした。現に感覚はあったが、切られてはいなかっただろう。」
「ああ、何かが掠ったのは感じたが切れてはいなかったな。」
改めて、左腕の切られたところを右手で確認したが、血が流れた様子もないし、痛みも感じない。
「そして、小指を切る時はわざと刀は切れるということを再認識させてから、刀身をしっかりと見せながら切った。」
「あ、わざわざ刀は切れるとか口に出してから切ったのはそういうことか。」
「そう、でも切れないと思っていても、口にして頭に入れ、どこかで切れるという認識があれば切れるということも知ってもらいたくてな。」
「確かにそうだな。俺の中ではその刀は切れない刀という認識のはずだったのに、あっさり切れたのはそういうことか。幽霊相手でも攻撃は極力回避しないといけないな。」
刀や武器の類の避け方なんて心得てないんだがな。
「それで、左腕に力が入らなくなったのは何でだ。」
「どう説明したらいいだろうな。テレビの心霊特集なんかで映像が取れていなかったり、変な音が入ったり、写真なんかで変なものが写ったりすることがあるだろう。ただ、機械は正常で何の問題もない、本当にその時、その場所だけの不具合って時あるだろう。」
「ああ。」
「それを人間に置き換えると。」
「,,,無意識の内に幽霊の影響を受けると、ハード面、外部的のダメージを受けず、ソフト面、内部的なダメージを受け、うまく機能ができなくなるというところか。よくわかんないな。」
まあいいやそういうことにしておこう。
「まあ何となくわかったんだったらいいだろう。これで俺が憑いてくるメリットが分かったと思う。その点を踏まえて考えてくれ。どっちにしろ憑いていくがな。」
「選択肢ないじゃん。」
どのみち取り憑かれてるじゃん。ただ今後どのくらいの頻度で幽霊に会うのかわからないし、腕の立つ守護霊がいるのも悪くないかもしれないが、俺の平和な日常が、でも、こんな体になってしまった以上しょうがないのか。
「だあぁわかったわかった勝手にしろ。ただし、取り憑いている間は俺もお前のことを利用させてもらうからな。」
「応、これからよろしく」
こうして、俺の幽霊に取り憑かれた生活が始まるのだった。
中途半端に反応していたら片腕持っていかれていたかもしれないですね。貞時さんはどうするつもりだったんでしょう。