3.世界の住人達
ハンバーガー屋でだべるだけの回です。
「おーい。聞こえてるのはわかっているんだぞ。おとなしく会話をしろ。」
当然のように隣でふよふよと浮いて憑いてくる幽霊がうざい。
俺は病院で先生と話している時から貞時のことを無視している。
当然だ、貞時は幽霊であるから基本的には俺にしか見えていない、傍から見れば頭がおかしくなった人と思われるだろう。そんなことを続けていたらリターン・ザ・ホスピタルしてしまう。今後、貞時のような存在との対話の方法を考えていかないといけない。
そんなことを考えながら、俺はハンバーガーチェーン店に入った。
会話に関しては一つ案があった、筆談だ。無論、紙とペンなんて非効率的なことはしない、科学の進歩を最大限に使わせてもらう。
注文を終え、十個ほどハンバーガーを積んだお盆を持ち適当な席に座った。ハンバーガーを食べながら俺はポケットからスマートフォンを取り出し、メモ帳のアプリを開いた。文字を打ち、貞時に見えるように促した。
“しばらく無視をしてしまって申し訳ない。流石に公共の場で一般人に見えないものと会話をするのはまずい”
「ん?何々。成程それで筆談というわけか。」
“今後について質問をしたい、お前は今後も俺に憑いてくるのか?”
「・・・Yes,I'am.」
文字を読み、親指を立て良い笑顔で言ってきやがった。ハンバーガーを頬張りながら、露骨に嫌な目を貞時に向けた。
「そんな顔をするなよ。まあ、一生憑くかはまだはっきりとは決めていないが、どっちにしろお前さんには、俺のお節介に付き合ってもらうつもりでいる。断るなよ俺はお前さんが気に入っているんだ。」
“説明求ム”
「なんで片言。さっきも言ったがお前さんはこっちの世界に片足どころか半身浸かっているような状態だ。お前さんも俺の事がはっきりと見えているらしいし、こっちから見てもかなり近いものを感じる。」
少し間を空け一呼吸置き貞時が真面目な顔をする。
「単刀直入に言うとお前さんはこのままだと殺されるだろう。」
初めて見る貞時の鋭い目つきに俺の中でも動揺を感じた。
互いに睨む様な目つきで見合っていた。
“誰に”
「こっちの世界の者にだ。」
“何故”
「・・・暇だからだ。」
「はぁ!?」
思わず声が出た。暇つぶしで殺されてたまるか。
冷静になりうっかり声が出てしまったことに気づいた。周りを見たが時間帯のおかげでお客さんも少なく、スマホを片手にしていたので、なんかえらいメールを受けた人みたいになっていた。第一他人を観察するような酔狂な人もいるまい。
俺は落ち着きを取り戻し貞時に続けてくれというアイコンタクトをとった。貞時は軽く目を閉じ、再度開きながら話を進めた。
「霊は寂しいんだ。眠くならないし、腹も減らない、そんな世界の中で誰からも気づかれずに一人ぼっちになる。特に死んだことに気づいていない奴は、何故自分だけが無視されるのかと、とてつもない不安と恐怖に襲われる。その結果壊れてしまうものもいる。」
“待て待て、あんまり仏教とか神とかを信じている訳では無いが、死んだらあの世とかに行くんじゃないのか。”
貞時は少しの間、目と口を塞ぎ何かを考えるように沈黙する。
ふぅーとため息をつき、貞時が語り始める。
「じゃあ今ここにいる俺は何だ。」
今までよりも重く低い声で深く響いてくる。
貞時の問いに俺はすぐに答えることができず、貞時と目を合わせていた。
先程までの険しい表情が少し柔らかくなり、脅すような声ではなく明るく少し寂しそうな声で、また話を続ける。
「悪い悪い、脅しすぎたか。ただ一つ我々への恐怖心を忘れてもらいたく無くてな。ほとんどの者がちゃんと成仏するんだ。ただ、一部成仏できなかったり自らの意思で成仏しない者もいる。俺は後者だ。」
確かに地縛霊や背後霊という言葉もあるしな。
「まず前者は死んだことに気づかないというパターンが多いかな。気づいて成仏したり、お迎えが来て成仏する。ほとんどがこれで解決する。」
成程、あの人達の仕事になるのかな。
“つまりそのお迎えの人達から説明を受けて成仏するか滞在するかを選ぶんだな。”
「そうだな。精神が崩壊して悪霊になる前に何とかしたいだろうからな。あまりにも酷いと強制送還されたり、生きているものがお祓いしたりすることになるだろうな。」
“そっちの事情は分かったけどなんで俺が死ぬことになるんだ。”
「ああ、すまない論点がずれてたな。俺みたいに留まった者の中には、生きている奴にちょっかいを出したりする奴も多い。特に見えていると分かったら近づかれやすいだろうな。」
確かにそれはなんとなくわかる気がする。
「まあ、話がしたいだけだったり、ちょっとかまってもらいたいだけならかわいいもんだが、中には冗談では済まないような事例もある。
力を示したいもの、誰でもいいから八つ当たりしたい者、前者の例も行き過ぎると大変になったりと、まあそんなところかな。」
“成程、霊感が強くなった俺はそういうのに巻き込まれやすくなるということだな。”
「そうだ。強いとかの次元じゃないがな」
“すると、除霊方法でも教えてくれるのか。”
「いやぁ、俺が教えるのは対抗方法だな。」
“対抗?対処じゃなくて?”
「対抗のほうが近いかな。食い終わったんだと話ができるとこに行こう。流石に筆談じゃテンポが悪くなって教えづらい。」
俺は貞時を見て頷きトレーを片付けて家に帰った。
あんまり必要のない話だったかもしれない。
評価いただきました。本当にありがとうございます。とてもうれしかったです。
正直、投稿し始めた当初、一話で主人公が死ぬというありきたりな始まりであり、高校生がいろんな人に出会ったり戦ったりして成長していくというよくある作風で考えているので、読んでいただけるのかとても不安でした。読んでいただいた上に評価までいただいて気付いたときはとてもテンションが上がりました。初めて小説を書いたので文章力もない者ですが、これからも面白いと思っていただけるように頑張っていきたいと思いますのでこれからもよろしくお願いいたします。