25.仕事の話
ここしばらく事務所で話しっぱなしですね。
ああ、漱石か、確かに名前付けちゃえばもう出来ないな。そして、名前が無いときに自己紹介するタイミングはおそらく最後になる。わかるんだけど返し方がわからない。俺も含め全員止まってしまった。
「ああああ、やっぱり滑ったじゃなの。お前のせいだぞどうしてくれるのよ、この空気。」
「すまん、まさかやるとは思わなかった。」
「責任転嫁しないでくれます。ちょっと誰が嫁ですか。私は智玄の嫁ですわよ。私に責任を押しつけていいのは智玄だけです。」
何言ってんだよパニックでおかしくなってるな。語尾もおかしいし。俺は立ち上がり二人のほうを見る。
「ああ、待て待て落ち着け、パニックになって訳わかんない事いってるぞ、さらっと嫁を名乗るな俺は夫じゃない。」
「そんな、昨晩はあんなに積極的でしたのに。」
「誤解を招く表現はやめよう。というか貞時何吹き込んでんだよ。」
「すいません。つい出来心で、カッとなってやってしまいました。」
「おい、ついに、犯罪者みたいなこと言い出したぞ。
ああ、大丈夫だから滑ってないからあまりにもレアな状況で、みんな頭の処理が追いつかなかっただけだから。な、大体あいつが悪い。」
思いっきり貞時を指差す。
頭かいてえへへみたいにするな気色悪い。
「はっはっはっはっはっは。」
俺達三人は予想もしなかったところからの笑い声に驚いた。社長が爆笑していた。あんまり面白いことしてないぞ。
「いやー悪い悪い堅苦しいのは無しにしよう。」
ネクタイを取りシャツの首のボタンをはずした。
「だから言ったでしょ社長。普通の格好でいいって。」
伊東さんがお盆に三つのカップを持って登場した。状況が良くわからない、俺は戸惑っていた。
「えーっとどういうことですか。」
「いや、社長が初対面だしきちんと決めたほうがいいだろうってスーツで来たのよ。私は別に面接じゃないし説明会に変な気合を入れるな。って止めたんだけど。」
「第一印象って大事じゃん。」
「どうせすぐ社長の印象は塗り変わるんで安心して下さい。」
「えーそれどういうこと。」
「はいはい、閑話はここまで本題に入って下さい。」
「え、まだ置いてけぼりなんですけど。」
「まあ、気楽に聞いて頂戴って理解で十分よ。」
「はあ。」
いまいち腑に落ちないがまあ気》にしなくていいならそれでいいし、さっきまでの緊張感ある空気に比べたらこっちの方が楽だ。顔は微笑んでいるんだが、目が真剣な目になっていた。ここからが本題って事なんだな。
「冷衣君から聞いていると思うがうちは今人手不足だ。もちろん募集してない訳じゃないんだけど扱ってる仕事が仕事だから出来る人が少ないんだ。ここまではわかるかな。」
「はい、見える人でないと駄目ってことなんですよね。」
「そうだね。まあ見えない人でも特例で雇ったりもするけど今必要なのは現地でアクティブに動ける人員、そうなると見えて尚且つ、生死に関わることだからね動ける人材じゃないと駄目なんだ。」
「見える人でも限られるのに尚且つ動ける人ですか。難しいですね。」
「だろ。だから君みたいな人材はスカウトしてるのさ。ま、君の場合はそれだけじゃないけど。」
「ん、どういうことですか。」
「さっき君は冷衣君から説教を受けたろどう結論付けたかな。」
午前中のか。簡潔に答えちゃっていいのかな。
「わかんなかったので高校の卒業研究にしました。」
「やっぱりわかんなかったか。んじゃ尚更だな。
ここで学んでみてはいかがかな。君の卒研は命に関わる。若い芽を粗末に見捨てるのは我々の趣味じゃないフォローさせてくれ。君の研究。」
「いいんですか、厄介になって。」
「もちろん、まあ、本当のところは君は霊の類に好かれやすいようだから見張っておきたいんだけどね。」
「え、好かれやすいんですか。」
別に昔から霊的な現象にあってないし、見えるようになったのも最近だしあんまり自覚無いな。
「はっはっはきつい冗談だ。」
膝を叩いて社長は爆笑をしていた。冗談を言ったつもりなんて無いんだが、それとも社長の経験則でわかったりするのか。でも、そんなに笑うことかな。俺は首をかしげていた。伊東さんに目を向けると笑っていたがこちらの目線に気づくと「え、マジ、何かごめん。」みたいな表情で目をそらされた。
ひとしきり笑った社長が続ける。
「そんなたいそうな二人の霊に憑かれて自覚が無いなんて言うまい。」
「・・・・。」
俺は無言で気まずそうに目をそらすことしか出来なかった。
「え、マジ、何かごめん。」
その様子に気づき、社長に謝罪をもらった。
そうだよね、まず憑かれることがおかしいもんね。しかも二人、すごい自然に話すから忘れてたよ畜生。
「ま、まあ、そういうことで是非うちに来てもらいたい、無論バイト代は出すよ。あ、これ資料ね。」
差し出された内容を一通り見た。
まず、時給が他のバイトと違う、最低賃金の二倍くらいある。そして完全週休二日制、週休二日制じゃない、完全週休二日制だ。まあ、バイトだからあんまり関係ないけど、有給有、各種手当て有、何か裏があるんじゃないかっていうくらいホワイト、ん、何だこれ。
俺は見慣れない単語に質問をする。
「あの、この緊急招集有って何ですか。あと緊急手当て、も聞いたこと無いですね。」
何かブラックな香りがするぞ。
「あ、それ、今回は無かったけどほらこういう仕事だし緊急事態が発生するんだよね。最近多くなったし。」
そうだなここ10年で霊的な被害は急増している。細かいものがほとんどであまり調べてないが、たまにテレビやネットで話題になるほど大きな災害が起こる。
「そういうときに出るんだよね、国とか自治体から要請があって、そういうときに申し訳ないけど呼び出すのが、緊急招集、んでその手当てって訳。」
「最近は霊的なものを意図的に使った犯罪も出てきてるのよね、だから多くなってきてるわ。でも、その分儲かる。」
伊東さんが、右の手の平を上にし、人差し指と親指で輪を作り説明してくれる。
「成程。よくわかりました。」
「入りたいと思ったんだったらご家族と相談して連絡して、面接は必ずご家族から一人以上は参加してもらうから、君の年齢だとご両親が望ましいかな。」
「え、家族同伴で面接なんですか。」
「そうだよ。何度も言うけど命に関わる仕事だ。必ずご家族には説明する必要がある。これはわが社の義務だと思っているよ。」
「成程、わかりました。」
「あ、ごめん。いる呈で話しちゃったけど大丈夫だったよね。もし駄目だったら申し訳ない。」
「大丈夫です。ちゃんといます。」
さて、聞くところはここまでかな。気になるところは特に無いな。資料に連絡先も載ってるし後から気づいても連絡すればいいか。
「ありがとうございました。親と相談します。わからないこととかあれば連絡します。」
「ああ大丈夫、面接はいつでもいいよ。連絡をくれれば、そちらの都合に合わせるから。」
「わかりました。」
俺はぐっと出されていた程よい温度のお茶を飲み干し立ち上がった。
「今日はありがとうございました。失礼します。」
「お礼を言うのは私の方よ、仕事も早く終わったし、面白い情報が聞けたわ。ありがとう。」
伊東さんの言葉を聞き扉で再度一礼し俺は家に帰った。
次回鬼娘の名前が出ます。




