2.とある世界へ半身浴
2話です。あらすじの後半を補完できてるとおもいます。
・・・
目が覚めると公園のベンチとは思えないほど心地の良い場所にいた。ふかふかとは言い難いが清潔に保たれているベット、白をメインとして明るく清潔感のある見慣れない天井、少し暖かいくらいだと感じる室温、病院だなこれ。
状況を確認するために看護師さんを呼ぼうと、上体を起こした。
目の前には宙に浮く侍がいた。
「おはようございます。」
こちらの様子を伺っていたのか、起きた拍子に侍とばっちり目が合ってしまった。
ジェントルメンとして挨拶は基本、俺は社交辞令のこもった、爽やかな笑顔で挨拶を侍にかました。時間帯はわからなかったが、起きたばかりだし変ではないだろう。
侍は、逆さ合わせの和服に身を包み、空中で胡坐をかいて頬杖をついていた。20代後半のような見た目で細身のイケメンといった感じだが、腕や胸元から見える筋肉は、つけようとしてつけたものではなく、日頃の丹念により培ったものとみられる、無駄のないがっちりとしたものだった。口元から法令線のように綺麗に伸びている髭がより迫力を感じる。左腰には刀を携えていた。
挨拶を受け、驚き正気を疑うような目をされた。少し肩を震わせたのちに、膝を叩いて笑った。
「ハーッハッハッハ。浮いている初対面の俺に対する一言目がそれか、ックックック、ああ、すまない、おはようございますだな。」
ひとしきり笑うと挨拶を返してくれた。多分良い侍だな。
「流石だな。お前さんこういうのに慣れているのか?」
「こういうの?あんた何言ってるんだ?」
「・・・え」
「え」
妙な空気が流れた。侍が口にした。
「んー。お前さん振り返ってみな。」
頭を抱えながら侍が言った。
「はあ~お前何言ってるんだ、振り返ったところでベッt,,,」
和田智玄が眠っていた。
「えええええええええええ!?」
どうやら幽体離脱をしていたようだ。なんでこんなことに。
「これ大丈夫かなぁもどれるかなぁ」
「いや、わかんねぇけど戻ってみたらいいんじゃないか。」
焦る俺はとりあえず侍の言うとおり体へ入るように、再度ベットに寝た。
よくわからないが自分の体に自分が馴染んでいくような感じがした。そして再度体を起こした。今度は体と共に起き上がることに成功した。
「良かった~。一時はどうなるかと思ったぜ。」
体とドッキングしても侍を見ることができていた。
「あれ?まだ見える?」
「もともと、そういう類のものは今まで見えていなかったのか?だったら今回のことがきっかけで、見える様にになったのだろう。」
「マジかよ。」
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は菊池 貞時だ。今後お前さんの憑き者となるから今後ともよろしくお願いする。」
「ああ、俺は和田智玄。高校1年だ。こちらともよろしk,,,」
響き的には聞いたことがある言葉だが、タイミングとしておかしな単語が耳に届き、言葉に詰まってしまった。
「憑き者って何!?」
「ん?簡単に言えばお前さんにとり憑いたことになるな。」
「了承なしで?」
「了承なしで。まあ、ちょうどいいだろうお前さんはこちらの世界に半身突っ込んでいるようなもんだぜ。ズブズブだぜ。」
「片足でなくて?」
「今まで見える人に色々あってきたが、お前さんは一番こっちに近いな。片足じゃ済まないな。」
「そうだとしても良くないだろ。」
「命を狙うような悪霊もいるわけだし、こちらの世界との関わり方も教えるし、霊との戦なら助太刀するぞ。自分で言うのもなんだが、そこそこ腕には自信がある。俺も依り代を手に入れることができたし、お前さんに憑いていくと退屈しなさそうだしな。悪くない話だろう。」
「でも、お前に俺の人生を常に覗き込まれている様なものだろ。嫌だわ。」
「大丈夫、俺も伊達に永く存在している訳では無い。空気を読んで、お前さんの目の届かないところへ移動するから安心しろ。男同士いろいろ分かっているから。」
「いや、まあ、そこもそうなんだが、なんというか。」
俺は頭を抱えた。あんまり変なことに関わりたくないのだがなぁ。笑いながら肩を叩いて俺を諭す侍、今後のことに悩んでいると入り口が開き、看護師さんが俺のほうを見たと思ったら、驚いて慌ててどこかへ行ってしまった。
「先生、例の患者さんが復活しています。どうしましょう頭を強く打たれたのか、何もないところへ会話をしています。」
復活ってなんだよ。まるで人が死んでたような言い回しだな。
・・・いや、強ち間違っていないのか。そして、あまりにもはっきり見えるから油断していたが、周りからはこいつは見えていない。当たり前田のクラッカー。今後はこの類の奴との会話方法を考えていかないとな。
しばらくすると、先生と思わしき人が入室してきた。
「君大丈夫かね。体がうまく動かないとか違和感とかないか。」
けたたましく入ってきたと思ったら、いきなり問診が始まった。
「いやぁ、君が運び込まれた時は驚いたよ。公園で人が凍死していましたと運び込まれた、呼吸や体温からは絶望的な状況ではあった。だが、心電図を当てて驚愕したよ。通常よりもかなりゆっくりではあったが、動いていたんだよ。慌てて点滴をし、栄養と体温の確保に努めたよ。今が、9時半だから大体5時間くらい前の話だよ。」
「大変ご迷惑をおかけしました。」
入って来ていきなり問診されたが、ひとまずは問題なさそうということだった。
その後、40代後半の眼鏡でおっとりとした表情の先生に、何故自分がここにいるのかを聞いた。ここまでの経緯が分かり、俺は先生に謝罪をしていた。
「いやいや、君が元気そうで安心したよ。これからはいくら丈夫な体でも、ちゃんと睡眠をとるんだよ。」
「はい、わかりました。この度は本当にありがとうございました。」
「それじゃあ僕は仕事があるからこれで失礼するよ。軽くストレッチでもして、自分でもう大丈夫と分かったら退院でいいからね。」
「わかりました。」
俺は荷物をまとめロビーで会計を済まし、病院を後にした。
治療費といっても生死を確認して、点滴を入れられただけで薬や手術もなく、空いていた相部屋に放り込まれただけなので、思ったよりかからなかった。
外に出ると一面雪景色になっており、まだ多少雪が降っていた。
「寒ッ」
時期も時期のためそれなりに暖かい恰好をしていたが、雪があるのとないのでは体感温度が変わってくる。
時刻は10時半、寝ていたとはいえ朝食を毎日しっかり摂る派の俺の胃袋は、食料を求め呻き声をあげている。
何か食べてから帰ろうと病院を後にした。侍を横に憑れながらだ。
転生ではなくただの蘇りです。