1.さらば智玄
初投稿です。至らぬ点も多々ありますがよろしくおねがいします。
「眠い,,,」
バイトが最後の日だからっていつもより長い時間出てほしいと頼まれ、夜中に帰宅をしていた。
12月末、年を越そうとしている冬の夜中は寒い、高校生となり体格や金髪の地毛などから不良のレッテルを張られ、苦い思い出のある中学時代の地元を離れ、一人暮らしを始めて初の年越しを迎えようとしていた。
高校生になっても、入学早々上級生ともめ事を起こし、勝利を収めてから中学と同じように不良としての学校生活を送っていたため、冬休みになっても遊ぶ相手もいなく毎日バイトの日々を送っていた。
その付けが溜まったのか今非常に眠い。睡魔と戦いながらの帰宅は限界を迎えベンチで仮眠をとることにした。
「雪が降ってきたな,,,流石にまz」
まずいかと思った時には既に意識は飛んでいた。睡魔には勝てなかったよ。
・・・
不図気づくと立派な建物の中で謎の行列に並んでいた。白装束の行列だった。いつの間にか自分の服装も白装束になっていたが、そんなことは気にも留めなかった。
何の行列かも知らないが、興味もなかったため俺は列を離れ邪魔にならないように柱の方へ移動し、寝た。おやすみなさい。
寝ようと思ったら一人のおじいさんがこっちに来て声をかけてきた。
「君は並ばなくていいのか。」
「何の行列かわかりませんし、そんなことより今は眠いんで大丈夫です。おじいさんこそいいんですか、列抜けちゃいましたけど。」
「ああ、わしは別に最後でもいいからな。」
「そうですか、すいませんもう眠いんでお心遣いありがとうございます。」
私は死後の世界で死んだ者達の行き先を示す仕事をしている。今日も本日分の死者を裁き切ろうとしていた。
「お前で最後の一人だな。」
本日分の帳簿と照らし合わせながら確認している。地獄を恐れ列に並んで来ない者もたまに現れるため毎日帳簿と死者とをにらめっこしている。帳簿と合わないと探して帳尻を合わせないといけない、そうなると残業となる死後の世界だからって働かせすぎだろ。今日は死者も少なくみんな素直で帳簿との差異がなく、久しぶりに早く終わりそうだ。終わり次第久しぶりにゆっくりと休むことができる。
「私で最後ですか?もう一人いるはずでは眠いと言って列から外れて寝ている者がいるはずですけど。」
最後の死者が首をかしげながら答えた。驚きとともに冷や汗と私の休みが流れていくことを実感した。
「そ、それは本当か。」
「はい。列から外れ邪魔にならないところで横になっておりました。気になりまして私も一度列から外れ声をかけたので見間違いということはないと思いますよ。」
「なるほど情報提供感謝する。まずは貴様に審判を下す。」
最後の審判の後、部下達にも捜索の指示を出し探していた。帳簿に乗っていない者がいるという、今までにないイレギュラーな事態のため全員に緊張が走っていた。遠くのほうで「見つけた!」の声を聞き、急いで声の方へ向かった。本当に寝ていた。
たくさんの人に囲まれ起こされて目を覚ました。全員不思議そうな顔をして見ていた。
少しして他の人達とは違う上司のような風貌の女性がやってきた。頭には”審”の文字の入った冠をかぶっていた。
「お前名前を何という、なぜ寝ている。」
勝手に人の敷地で寝ていたのは流石にまずかったかとも思いつつ眠気交じりに答えた。
「名前は和田智玄です。寝ていたのは眠かったからです。道路のベンチで仮眠をとっていたと思ったらここにいました。行列ができていたので邪魔にならないところに移動しました。」
答えながら頭の回ってなさを実感する、眠いから寝てたって質問に対しての答えになっていない。
囲んでいた全員が変人を見るような目をしていた。上司のような人が指示を出し何人かがどこかへ行ってしまった。
迷惑が掛からないようなところで寝ているんだ、そんな集団で囲まれ不思議なものを見る目をされても困る。ただ寝ていただけなのに。
回りきっていない頭でどうでもいいことを考えていると、 最初に来ていた女性がまた質問をしてきた。
「ここまでの記憶はあるか?」
「バイトでここ数日無理をしていて日頃の無理がたたったのか、帰り道非常に眠かったです。
ぼーっとしてトラックにでも轢かれて死んでしまったら洒落にならないので、公園のベンチで仮眠を取ろうとしたところまでは覚えています。」
そういえばいつの間に白装束に着替えたのだろう。俺の服はいずこへ。
ひと眠りしたこともあり、様々な疑問点が上がってくるようになってきた。俺が質問に答えた後、上司のような人を中心にぶつぶつと話していると、上司のような女性が何かあきらめたような疲れた顔をしてため息をついた。
「はぁーほんと冗談はよしこちゃんだよぉ。帳簿にも報告にも挙がっていないって何?今日は久しぶりに半ドンで上がれてゆっくり休めると思ったのに、チョベリバもう私ドロンして家で寝てていい?」
「「ダメです。」」
一瞬にして状況がつかめなくなってきた。周りの部下の人達が壊れた女性を制止する。キョトンとした顔で混乱していることに気が付いて、女性が声をかけてきた。
「驚かずに聞いてもらいたい、お前は今死後の世界に来ている。」
「へぇー。」
薄々感じていた点もあり、とても興味のない返事をしてしまった。
「あっさり受け入れたな。もっとこう驚くものじゃないのか。」
「まあ、雰囲気とかから何となく感じていた面もあったし、”生物は皆一秒一瞬常に死の可能性を背負っている。それが、生きるということだ”と父の教えがありますので、もしもの覚悟は多少してました。」
「死後の世界の私が言うのもなんだがどんな教えだよ。」
「人ン家の教育に文句言わないでください。」
女性の俺に対する不信感が高まっている気がする。まあ、でもここは正直に答えておかないと何されるかわからないしな。
「というか並んでた皆さんも受け入れていたじゃないですか。」
そういえば声をかけてくれた人はここがどこで行列が何かわかっていて並んでいたことを思い出し、反論する。
「病気や寿命の場合は多少覚悟するのに猶予があるし、事故等の突然死の場合は走馬燈などにより人生を振り返る時間があるし、普通はここに来るまでの間に事前の説明がある。どうして死んだか、これからの流れ等のな。だから皆落ち着いているのだよ。」
「企業説明会かよ。」
と思ったが非現実な格好の人達に囲まれていたため現実的な言葉は飲み込んだ。
「ちゃんと飲み切ろうな。さて、前例がないのでどうしたものか困ったちゃんだな。」
一度タガが外れたのか死語がこぼれる。というか。
「そもそも俺って本当に死んだんですか。」
「「「・・・」」」
空気が凍るのを感じた。あれ、失言した?
「いや、別に死を受け入れてないわけじゃないですよ。未練は多少あるかもしれませんが、教えがあって覚悟していたのは嘘じゃなくてでs,,,」
「そうか、その発想はなかった。何百年も死んだ者としかやり取りしていなかったから固定概念が生まれてしまっていたな。死ぬという表現で永眠がある、だからここに来た者は眠いという思考が生まれない、故に眠らない。しかし、お前はまだ永眠していないとなれば、眠いという思考が出てくるのもうなずける。眠いという思考は眠っていないものにしか訪れない。」
空気を換えようと必死に訂正しているところ食い気味で女性が難問が解けたようなすっきりとした顔と声を出していた。
「この者が生きていると仮定するならば、通常の手順でここに来なかったことや帳簿にも載っていなかったことにも合点が行きます。」
周りにいた人も声を出して驚いている説明ありがとうございます。
「だとしたらまずいんじゃないですか。この人、ここに来てからかなりの時間がたってる、初めての事例ですが、生きているものがこの世界に長居して大丈夫だとは考えにくいですよ。」
さらに別の人が声を荒げ焦っている。正直自分の状況も何をすればいいかもさっぱり見えてこない俺は完全に他人事のように聞いていた。
「総動員でこいつの体を探す。お前達も手伝ってくれ。」
女性が冷静に指示を出し、部下の人達が次々にいろんなところへ行ってしまった。
完全に置いてけぼりを食らった俺はその場で呆けていた。
しばらくして女性が俺の肩を揺らして声をかけていた。ぼーっとしていたらまた眠ってしまっていたらしい。
「起きろ。体が見つかった。今からお前をあっちに戻すから。」
「んぁ,,,すみませんまた寝てました。見つかったんですか、ありがとうございます。」
「一つだけ伝えておきたいことがある。」
「何でしょうか。」
安堵と喜びの微笑みをしていた女性が一転して、疲れともう面倒くさいから関わりたくないを全開に出して一言。
「もう二度と寿命以外でここに来るな。」
女性の言葉がスイッチかの様に俺の意識はストンと落ちた。
死んで生き返るというありがちな話ですが、一人でも面白いと思っていただければ幸いです。
なるべく早く更新していきます。