01.追いかける者達
立ち込める暗雲から降りしきる雨は華やかな街に白銅色の水たまりをつくる。こんな天気の日は、やつらが活発になる。
生命の成れの果て、何処にも帰れぬ魂────《ワンダラー》が。
「次の角を左に曲がれ」
レンズ越しに街を見下ろし、無線機に指示をする。イヤホンマイクにノイズが入ったと思うと、
『りょうかい』
起伏のない声が返ってくる。雨や風の雑音が入る中、少女の声はやけに明瞭である。再び望遠鏡を覗き、声の主である少女を追った。
相手の逃げ足が速いのと、強く降り続ける雨と地の利を活かした小賢しさにより苦戦を強いられている。追い続ける彼女は声には出していなかったものの、遠目でも分かるくらいには苛立ちで端整な顔が曲がっていた。
「まーまー落ち着け。長期戦ならこっちの方が有利だ」
『……そう言うなら自分の足で追いかけて』
なだめようとするも正論で返され、さらには数百メートル離れている場所から睨まれる。自分は街を見下ろせるほど高い党の上で座って望遠鏡を覗いているだけに対し、彼女は全身を雨水に浸しながら走り続けている。怒られるのも当然だ。
ふ、と息をつくと膝に手をついて立ち上がる。
「じゃあ俺も今から向かうよ」
イヤホンマイクから聞こえてくる不満げな唸り声に苦笑すると、街を見下ろした。手こずってはいたが、どうやらこちらの方が上だったらしい。
「もうすぐ決着がつくみたいだからな!」
凄まじい轟音がイヤホンを通して伝わってきた。